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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

酷なる神の暇つぶし LEGENDIA

作者: 空言天狐

「そんなわけで転生してもらうよ」


 開口一番に聞いたのはそんなのんきな声。

 なにがどうそんなわけなのかオレはまったくもって説明されてないが、その一言で分かった事が1つだけある。

 それはコイツに関わったら危ないという事、だ。


「君はズイブン無粋だね。人を取って捕まえて危ないなんて」


 いやだって、見た目的にも危ない人だし。ボ○ー・オ○ゴンみたいに筋肉隆々の男性、そう男性(重要なので2度言った)なのに女性用のハイレグビキニを着てる人なんだよ。想像してみて、そんな人を前にして危なくないって言える人何人いる?


「1000人中1000人が危なくなって言ってくれるわよ」

「それでは事情の説明お願いしま~す」


 これ以上口論しても無駄だと悟り、オレは状況の整理をする事にした。

 というかさっきまでオレは自分の部屋でアイスを食べてたはずなのに、なんでいきなり白一色の部屋に飛ばされてんだ?


「ああ、それは簡単よ。私が殺したんだもの」

「プリーステルミーワンモアタイム」


 理解不能な英文が思わず口をつくが、目の前の男は意味が分かったのかもう一回繰り返す。


「だから私が殺したんだもの」

「どうやって?」

「アイスクリーム頭痛で」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

 泣いていい!!? 泣いていいよねコレは!!???

 まさかそんな殺され方がアリだっとは予想すらしてなかったのでショックがかなり激しい。つか『まさかアイスクリームを食べて死ぬなんて』と嘆く母親の姿が簡単に思い浮かぶよ!!

 今のオレの悶える姿を見ている人にとっては、オレの行動はとても珍妙で楽しく感じるのだろう。それが余計に腹立たしく恥ずかしい。


「そうね、結構見てて楽しいわ」

「地の文に答えるなぁぁぁぁぁああああああ!!!!」


 ツッコミで頭を叩こうとしたが――――途中で見えない壁に阻まれ、触れる事ができない。いや、攻撃できない(・・・・・・)

 その瞬間1億通りの考えがオレの頭をよぎる。


「そんなに考えてないでしょ。考えたのって4つだけじゃない」


 もうこの人やぁ。


「ふふ、諦めなさい」

「じゃあ質問2!! 転生ってどういう意味」

「転生って言うのは異世界に魂だけ送って、新しい命としてその世界で成長してもらうの。あっ、ちなみに転生してもらうのは私の暇を潰してもらうタ・メ(はぁと)」


 …………ご丁寧にはぁとまで発音してかなり気持ち悪い。もしここにエチケット袋があったら容赦なく吐いてるな。


「それはひどすぎでしょ!!!!!!」

「じゃあチート能力くれ!!」

「5秒以内ね」

「氷を司る能力、体を氷に出来る能力、重傷を受けても氷になって死なない能力、時間の経過に比例して能力が強力になっていく能力、殺した相手の能力を奪う能力」

「本当に5秒ないで言い終わるなんてね。まあ用事は済んだんだし、じゃあね♪」


 へ?

 次の瞬間にはオレの足下に黒い大穴が開いて自由落下に従うオレを飲み込んだ。




 そして転生直後、オレは落ち込んだ。いや、分かっていた、分かっていたんだ。ただ、無意識にその可能性を排除してただけなんだ。

 オレが人間以外の種族(・・・・・・・)に転生することに。

 今のオレは百舌(モズ)であり、虫やカエル等の小動物を殺す事しかできない……ように見えるが実際は違う。人間の知識と度胸を持ってるおかげで食糧には困らない。ほら、今も――――


「クェェェェーーーー!!!!」


 トリカブトイーグルと呼ばれる魔物の一種にオレは追われていた。

 鷹の名前を持つように飛行速度はかなり速く、追われ始めてからそんなに時間が経ってないのに2,3回ほど追いつかれそうになった。多分肝試しゲームが出来なかったらとっくにお陀仏だと判断できる。

 肝試し、というか度胸試しというのはどこまで自分の恐怖を押し殺せるかで、死ぬと分かってる場所へどこまで近づけるかというゲームだ。

 オレはこの森でその度胸試しゲームを再現し、全力飛行でどこまで木に近づけるかやっている。基本的にこの練習には百舌(オレ)を餌とする鳥類に付き合ってもらってる。なにせ恐怖で全速力が出ませんじゃ話にならないんだから。

 森の中を掻き分けるように飛び、適当に速度が乗ってきたところで度胸試しに使う木を見繕う。使う木はなるべくどっしりとしていて焦げ茶色なのがベストだ。探してる間にもトリカブトイーグルは迫ってくるからある程度の妥協は必要だが。

 さすがにベストの木はなかったのである程度妥協して1本の木に見定め、体を軽くひねってトリカブトイーグルのくちばし攻撃をヒラリとかわし、見定めた木に向かって一直線に飛ぶ。


「クェ!?」


 背後から驚くような泣き声が聞こえたものの、すぐにかなり高い風切り音が鳴り出す。

 そうこなくっちゃ面白くない……!!

 ここまで来ると背後を振り向く時間があったらトリカブトイーグルの凶爪に殺される。ゆえに風の音だけで察する事しかできず、ひたすら全力で木に向かう。

 トリカブトイーグルも百舌を確実に仕留めるために全力で追いかける。もっとも、自滅すると分かっているのでトリカブトイーグルは木を回避した瞬間を狙えるようにちょっと速度を落としていた。あくまで自分が捕食者なのだという傲慢な意識があったせいで。

 そして捕食者と被食者の度胸試しが始まり、数秒でどちらの度胸が勝ったか結果が出た。


「クェ!!」


 オレは木にぶつかる5ミリ手前で旋回飛行して急上昇し、トリカブトイーグルは自分が負ける事を覚悟してなかったみたいで木にぶつかった。しかしそれぐらいでは気絶しただけですぐに意識を取り戻すだろう。

 ではでは、練習を終わらせますか。


(タワー)


 地面から幾重にも重なった氷の樹がトリカブトイーグルの体を貫く。その激痛で意識を取り戻したものの、抜け出すにはタイミングが遅くて悲鳴をあげる事しかできない。

 数秒もするとトリカブトイーグルは絶命し、まるで百舌の速贄(・・・・・)にされたみたいな状態だ。

 さてさて、トリカブトイーグルの肉は美味しいのでしょうか? さっそく、いただきま~す♪






 それから数千年後、オレは不本意ながら魔物と化して、あげく人間を万単位で食べた影響か人化してしまった。数千年も生きた魔物なので、必然的に魔力の質も量も上がってしまっい、気付けば魔王軍の4将軍に任命されて『破滅の空将軍 イデア』と呼ばれるようになっていた。イデアというのはある程度存在を認知してもらえるようになった時に与えられた名前だ。

 破滅の空将軍なんて痛い異名はいらないと思ったんだが、元上司の『殺戮の炎将軍 コールブラント』に与えられた名前なので拒否する事もできなかったのだ。


 閑話休題(それはともかく)


 この世界の大陸は半分が魔王軍の物となっていたが、人間軍から飛び出してきた勇者御一行によって気勢を削がれつつ、息を吹き返すように魔王軍の領地が奪還されている。魔王軍と勇者の戦いはもう10年に渡って繰り広げられ、あと1月もしないうちに勇者を含む人間軍が魔王城に足を進めようとしている。

 ちなみに10年も掛かるほどこの大地は広大ではない。むしろ勇者達なら4年で魔王討伐まで来れたかも知れない。勇者って言うのは本当にチートだったんだなと改めて感じさせられましたよ。


「イデア様!! コールブラント様がお呼びです。大至急将軍会議を開きたいと」

「ん、アイサ~」


 オレ専属の伝令役――夜鳴き雀のルルに気の抜けたような返事をしてむっくりと体を起こす。

 最近のオレの趣味は魔王城の屋上でのんびり寝ることだ。むりやり起こしたようなコールブラントに対して怨嗟の言葉を考えつつ、表情では取り繕うように笑顔を浮かべておく。だって、コールブラントって元上司の怖い人なんだよ!! 正面向かって悪口なんて言えるか!!

 とりあえず将軍会議だと聞いて魔王城の最上階にある会議室にむかう。

 魔王城は玄武石のように黒い石を削って積み重ねる事で出来ていて、積み重ねても崩落しないのは魔王のおかげだ。魔王の魔力がそれぞれの材質をつないでいるから、実質魔王を倒せば魔王城も崩落するという展開になる。会議室には4つの人影があり、上座にある玉座に座るのが圧倒的な存在感と威圧感を常に放っている魔王。

 そしてそれなりに上質な椅子に座っている人間に近い姿をしていながら人間とはかけ離れた姿を持つ3人。それが『蹂躙の地将軍 ヌウザ』『暴虐の水将軍 トリトン』『殺戮の炎将軍 コールブラント』。ちなみにコールブラントは女性形態で、恥ずかしいなんて文字が辞書に載ってないのか胸を惜しげもなく晒している。


「イデア!! あたいが呼んだんだからさっさと来やがれ!! まあいい、会議を始めるぞ!!」


 到着早々に罵声を飛ばして話を切り出すのがコールブラント。

 トリトンはウザッたそうに目元をヒクヒクさせているが、なにやら思うとこがあるようでコールブラントの増長を止めない。


「ここ最近、イデアのせいで我らの領地が奪われ続けている」


 自分の失敗を人に押し付けるなと言いたいが、面倒なのでここ場は黙っておこう。後々面倒な事にもなるし。


「ふん。何を言い出すかと思えば、イデアのせいと言うよりアンタの責任だろトリトン」

「何を小娘が!! 我の作戦にこの小僧が余計な口を出すからいけないのだ!! すべて我に任せればこんな状況など我の軍団で打ち砕いてくれようぞ!!」

「はっ、イデアにケツの穴拭かれたお陰でなんとか命拾いしてる奴が何を言い出すかと思えば。アンタが立てた策よりイデアの援護の方がよっぽど役に立つね!!」

「ぐぬぬぬ、この小娘がァァァアアア!!」


 トリトンとコールブラントの間で舌戦が繰り広げられ、今にも飛び掛らん勢いになった。そのままつかみ合いになったら面白そうだなと思って放置すると、制止の声がかけられる。


「やめろ。私の前でくだらない争いなど見せるな」


 声とともに増した重圧感でトリトンとコールブラントは動きを止め、怯えるように魔王に敬礼した。


「ヌウザ、イデア、お前ら2人もくだらない諍いを止めさせろ」

「放置してた方が楽しいですよ?」

「殺せない事に何も興味ありません」


 魔王の軽い窘めにオレとヌウザはそう返す。途端に疲れるというようなため息をつかれた。


「それで、オレのせいで敗北が続いてるのはいいとしても緊急会議の意味は?」

「ついさっき人間軍に潜伏してる奴から報告があったんだよ。光の日に人間軍の全力を持って魔王城に総攻撃を仕掛けるって」

「また総攻撃? 人間も自分から犠牲に来るなんて物好きだね~。10年前みたいに壊走するだけなのに」


 10年前、わざと人間を魔王城まで導いて、その時も人間軍は総攻撃を仕掛けてきた。

 結果は魔王軍の圧勝。魔王軍にいる魔物達のポテンシャルは人間を超えてるし、分断して囲み潰すという策も通用したので魔王軍の被害は非常に小さく、逆に人間軍の被害は7割以上が死んだ。この事件から人間軍がまた総攻撃を仕掛けてくるなんて考えてなかったんだけど。


「今回は勇者が各方面で暴れたせいで兵の数が足りないんだ。だから、前回みたいな策は通用しないし、勇者自体もかなり強いから魔王軍の被害も大きくなる。そこで将軍達を集めて作戦を考えたかったんだ」

「ん~、じゃあ魔物共には勇者達の相手をさせないって言うのは?」

「イデア、どういうことだ?」


 適当に思いついた案を口にして、魔王に説明を求められたので思いついた範囲で説明する。

 とは言ってもかなり単純で、人間軍の有象無象とは魔物が戦える状況だけを作り、勇者一行は分裂させて戦うのだ。ついでにオレ達4将軍で魔王へと繋がる道に結界を張る。この結界を張ることによって勇者達の焦燥感を煽る。

 人間軍としても被害が少ないに越した事はないだろうし、最初の30分間だけはこちら側からは攻撃しない。迎撃はその限りじゃないけど。

 あと、30分たっても誰も来ない場合は魔王へと通じる道を開いて、逆に将軍が魔王城から飛び出して魔王城の出入り口全体に結界を掛ける。いわば魔王城自体を勇者達用の巨大な牢獄にしようと思ったのだ。外に出た将軍が何をするかは各個人の自由。30分経ってるし人間軍VS魔王軍の戦いに参加しても良いし、魔王城の外から魔王への援護攻撃をしてもいい。

 冗談で魔王城ごと魔王殺しに走っても良いと言ったら、コールブラントとトリトンに怒られた。本当に冗談だったのに。ちなみにヌウザがそれも良いかもしれないと呟いていたのは空耳だろう。

 その後、この案をさらに改造したまったく別種とも言える案が生まれたおかげでその案が可決され、魔王軍は休戦と頂点による決戦を人間軍に布告することを決定した。




「勇者一同、ちょっとした提案に来た」

「「「「「 ッ!!!? 」」」」」


 死なない体を利用してオレが布告役を務める。というか他の奴が人間軍に接触したら大抵布告できずに殺されるからな。

 いきなりトップクラスのオレが侵入してきた事で人間軍に動揺が奔り勝利前の祭りと言った賑やかさが嘘のように消えた。


「なになに? いきなりお通夜ムード?」

「イデア……ッ!! どうしてここに」


 勇者は未だ精神的に未熟なようで憎しみを隠しきれてない声で尋ねてくる。勇者御一行を含めて人間軍の人も同じで、人間が出せるのかと声を大にして言いたいほど濃密な殺意の視線がオレを襲ってくる。もっとも、殺意じゃオレは殺せないので気にしないけど。

 感情的になって突発的に飛び掛ってこないところを見るとだいぶ成長したのかもしれない。


「ま、今回は敵意はないから安心して。今回はちょっとした提案をしに来たんだ」

「提案……だと?」

「そ。今回の戦いで勇者達には潜行権を与えるんだ。つまり、魔物達も勇者一行を狙わない。そしてオレ達4将軍も勇者一行が手を出さない限り人間軍には手を出さない」

「それは、僕達に戦うなと言いたいのか……!!」


 かなり怒りを滲ませた声にオレは思わず落胆のため息を付く。

 どうして勇者ってこう頭のめぐりが悪いんだろ? 女魔導師はこの意味を理解したみたいだぞ。


「勇者様、イデアが言っているのはそう言う事じゃないです。今回の戦争を、開始時点で勇者様達と4将軍の勝負にしようっと言ってるんです。先に早く勝ち抜いた方が人間軍と魔王軍の戦いに参加する。決め手を欠いた状態なので時間が長くなれば混戦になるのは必至ですが……」

「……先に決め手が到着した方が状況を一気に傾ける事が出来る。……それこそ、ちょっとやそっとじゃ揺らがないほどの傾きに」


 聖女の説明で女魔導師が後を引き継いで説明する。

 とりあえず提案の内容は伝えたので、オレ達は東西南北に伸びる塔の最上階にいて、一階からでしか四方の塔に行けないようにした事も伝える。4将軍攻撃した時に4将軍見つかりませんじゃ話にならないからな。ついでに魔王は玉座の間にいることも伝える。詳細な場所は言わなくてもわかるだろ。

 その後、オレに恨みがあったらしい兵士がいきなり飛び掛ってきたが、風の魔法で反対側に吹き飛ばした。今回は宣告に来ただけなので殺意はなく、軽く気絶させただけで済ませる。


「ま、オレ達4将軍の言葉を真に受けて塔まで登ってくるかは人間軍の判断に任せるよ」


 そう言い残して人間軍の逗留地点を飛び去り、魔王城へと戻っていった。

 複雑な表情をしている勇者達御一行を残して。




 翌日、勇者達はオレの宣告を真に受けて魔物達を相手にせず魔王城へと入って来た。まあ嘘は言ってないのでそれはありがたいのだが、オレが嘘を言ったとは考えないのだろうか?

 ……まあ勇者だしいいか。

 とりあえず会議で決まったとおり西塔の中で待ってると、入り口の方からそれなりに成長した2人の女性が姿を現す。


「やっと貴方を殺せる……」


 かなり獰猛な狂気にも似た恍惚の光を目に浮かべる女性が呟き、もう1人の女性は冷たい殺意だけを瞳に宿して無言で睨みつけてくる。

 そんな目に見つめられて怖気を感じたオレは悪くないと思う。


「女剣士と女盗賊か。てっきり来るのは騎士と老魔術師だと思ったんだけどなぁ」

「2人とも来たがったけど、コールブラントが指名してきたから私達がきたの」

「コールブラント……。そういったのは無しだって言……」

「他にもヌウザが女魔導師と大剣士を指名してきて、トリトンが女騎士と狩人を指名してきた」


 ……オレ以外全員ですか。しかも見事にバラけてるし……これはオレがいない間に話し合ったな。

 同属の清々しいまでの裏切りになんとも複雑な感情を抱き、言葉を失って苦笑しか出来ない。という事は魔王と戦う事になったのは勇者、聖女、王女、女弓師か。


「お前たちも大変だなぁ」

「大丈夫。これで終わりにする」


 不意打ちを狙うように女盗賊がいきなりトップスピードで飛び出してきた。その一撃は確かに速く、並みの魔物ならば攻撃された事にさえ気付かずに死んでいたかもしれない。

 嫌々引き受けた役職ながら、これでも役職にあわせた実力を持っているのだ。風の魔法で身体能力を高めて女盗賊の攻撃を素早くかわす。


「……私がこの間聞いたこと覚えてる?」


 今まで黙りこくっていた女盗賊はいきなりそう言い出して、オレは女盗賊が聞いてきたことを思い出す。たしか聞いてきたのは『3年前の冬に滅ぼした村の事覚えてる?』で、あれから3年ぐらいたったはずだから……。

 思い出すのは無駄な事ばかりで7年前の事なんてとても覚えてなかった。


「覚えてない。村を滅ぼしたのはそれなりに多かったし」

「そう………………………………これで心置きなく殺せる」


 それまでは本気じゃなかったのかというような音より速く女盗賊が切りかかってくる。初見だった事もあって反応が遅れてしまい、女盗賊の刃はオレの体を引き裂いた。


「その剣……あの時の娘か。なるほど、ようやく思い出した。復讐のためなら命すらいらないって事か」


 ようやく思い出した7年前。

 村を襲った時にちょっとおぞましい物を見つけたからその娘を即座に殺してやろうとした。しかし娘の父親が邪魔して、結局娘を楯にして父親を殺した。

 そうか、その時殺し損ねた娘が女盗賊だったんだ。なんともまぁ、知らぬ華(・・・・)って言葉が似合う女性に成長したもんで。


「じゃああの時殺し損ねたし、今度こそ楽に(コロ)してやるか」

「私も忘れないでよね!!!」


 女盗賊の過去に思いを馳せていると、女剣士が長い剣を握って攻撃してきた。

 女盗賊に比べれば鋭くあるがかなり鈍重な攻撃であり、避けるのは非常に簡単だ。つか本気で何しに来たの、女剣士さん。

 そんな疑問を抱いた瞬間に女盗賊が反撃の隙すらないくらい剣を振る。


「そういえば勇者達の色恋沙汰ってどうなったの?」


 そう訊いた瞬間女剣士が噴出した。女盗賊は淡々と刃を振るい続けているから、女剣士からしか答えはもらえない。

 勇者一行はある意味勇者のハーレム団でもあり、聖女、王女、女剣士、女騎士、女魔導師が懸想している。ちなみに女弓師は騎士と恋人であり、この女盗賊はオレを殺す事にしか興味ないので色恋のいの字もない。


「な、なぜ貴方がそれを知っている!?」

「動揺しすぎ……。で、答えは?」

「貴方がそんなことを知る必要はない!!」


 なんとも必至な様子でそう叫ぶ女剣士。

 その必至さがなんとも微笑ましく、楽しい。


「いや~、魔王と誰が射止めるか賭けをしててね。オレが勝ったら100万……」

「そんなことを気にする余裕なんてあるの?」


 ネタ晴らしする前に女盗賊の冷酷で無慈悲な振り下ろしが当たりそうになったので回避……できずに腕一本が吹き飛ぶ。

 これは全力でやった方がいいか。


「久しぶりだし出来るかな~♪」


 ここ数百年くらい使ってない能力を使うことにし、全盛期並みの威力を出せないかも知れないので魔法を使う。

 使うのは地面を水浸しにする魔法。先も言ったとおり、魔王城は石で出来ているので水捌けが悪く、湿気が篭りやすい。だから本来なら城内で使う事はなかったのだが、ここは我慢してもらうとしよう。


「この水で素早さを封じたと思ってるの?」

「生憎この水はただの補助用だよ」


 怒りを滲ませた視線をオレに向けていると、自分の足元の変化に気付いたのか高く跳躍して天井に足をつく。

 先ほどまで女盗賊がいた場所には先が鋭くとがった氷柱が幾重にも囲むようにして飛び出し、もし女盗賊が天井まで飛んでいなかったらとっくに死んでいただろう。女剣士も氷柱に気付いてとっさに避けていた。まあ女剣士はギリギリのタイミングだったから軽く負傷を負ったけどね。

 やっぱ腕が鈍ってたか。全盛期はこれの半分の時間で完成させてたんだがな。


「次で終わらせる……!!」


 憎しみの篭った射抜くような視線をオレに向けて、オレの隙を突くように全力で駆けて来る。水の中に埋まった地面を踏んで。

 いっそのこと水ごと氷らせて動きを止めてやろうかとも思ったが、ちょっと考え直して――――


「え……?」

「明鏡止水・残月」


 気がついたら切られていたという最悪な形でオレの体が両断される。

 途端にオレの体が氷り付いて地面に倒れた。


「父様、仇取ったからね」

「すごい!! やっとイデアを倒した!!」


 敵討ちを果たしたと純粋に喜ぶ女盗賊とオレが死んだ事を嬉しく思っている女剣士。

 そのまま感動の場面にしてもいいのだが、今回のインチキ極まる殲滅戦はまだばらしたくないので体を再構成する。


「えっ……!?」

「そんな……!!」

「それじゃ終わりね。悠久なる時よ、永遠の棺にて眠れ、エターナルコフィン」


 咄嗟に逃げようと判断した行動は賞賛に値するが、それは無意味。なにせ魔王城全体を包むほどの氷結の嵐なのだ。窓から身を投げ出すでもしない限り、氷の嵐からは逃れられない。

 オレの予想通り女盗賊と女剣士は逃げる事が叶わず氷の彫像へと変貌する。


「はてさて。オレの本体(・・・・・)は元気に殲滅してるかね」


 自身が氷の彫像であることを証明するように反対側まで透けて見える左手の甲を頭上に掲げ、贋作(ニセモノ)であるオレはそんな言葉を漏らした。

 途端にオレの体は砕け始め、オレの中に内包されていた力が外にいる本体へと流れていくのが手に取るようにわかる。

 はてさて。それではお邪魔虫はさっさと退散しますしか。




 その後、4将軍は全員倒れ、魔王も死んだ。魔王が死んだことで魔王城も崩壊し、それは誰の目から見ても人間軍の勝利であり、人間の間で歓喜の笑いに包まれる。

 ただ、『破滅の空将軍 イデア』の死体は発見できず、女剣士と女盗賊の目撃報告はこの日から途絶えた。魔王城襲撃の日になにがあったのか、それは誰にも分からない。

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