-第9話- 「 バタルマバター 」
ラークスを誘いに来たのだが……
「これからですか? 申し訳ないのですが、これから大事な会議があるのです」
ラークスが来れないとなると……どうするか?
「では、私の代わりにランスをお供させましょう。 ランスは、私の右腕で頼りになりますよ」
「ランスさんが一緒でしたら大丈夫だと思います」
アリスは、ランスの事を好評価のようだ。……イケメンだしね。
ラークスから十分な資金と、丸腰の私に軽装備ではあるが鎧と剣を貸してくれた。
私は、この鎧と剣を装備した事で少し感動をしていた。
本当にリドの街から出るのに、3日かかってしまった。ここから、あと約10km歩かなければならない。4人は辺りを警戒しながら……例のどう猛な珍獣を警戒しながら進んだ。
草原に工場のような大きな建物が見えてきた。そして、難なく目的地に着いた。
「よっ! ルシアちゃんにアリスちゃん久しぶりだね。今日はラークスはいないんだ? そちらさんは? もしかして今、話題の異世界のブレッド・マイスターさんかい?」
結構、広まってるんだな異世界のブレッド・マイスターのこと。ここのマイスターは、ルシアたちと知り合いのようだ。私は、ここに来た理由を話した。
「バタルマバターだって? それならこの間、ドーキンに渡したけど。なに? あれパン作りに使う物だったのか……全部渡したよ全部!」
そうかパンに関する記憶がないんだ……それじゃあ渡しちゃうか。困ったな。
「じゃあ、バタルマの花の開花は、いつになるか分かりますか?」
せめて、いつ咲くのかだけでも知っておきたいと思った。
「明日だよ。バタルマが咲くのは予定からすると。やつらは真夜中に咲くんだ」
予定より1日オーバーすることを覚悟して、今日はここに泊めてもらう事にした。
私たち4人……3人は、眠い目をこすりながら外に出て来た。ランスは、すでに外にいて私たちが来るのを待っていた。
「あれ? この人たちは?」
外には、50人はいるであろうか、沢山の人が片手に袋を持っていた。
「バタルマハンターとでも言っておこうかな。 お~! 今日は運が良いかもしれないな~感じるぞ! バタルマは多分ここら一帯で咲くんじゃないかな? ルシアちゃんの為にいっぱい収穫するからね~」
ルシアを見ていると、あのマイスターが少し苦手なように思えてきた。
「……!? 花が咲くぞ!」
足元がざわめき始めた。すると、地面から勢い良く植物が生えてきた。
「これが、バタルマの花!? 何て美しいんだろう」
バタルマの花は小さくてかわいい。その花は眩いばかりの金色の光を放っている。私たちはまるで金色の海原にいるかのように思えた。それに、辺りには、なんとも良い香りが漂っている。
時間が経ち次第に光が弱くなってきた。
「そろそろだ~! みんなよろしく頼んだぞ!」
私たちも当然の事、袋をもらい収穫する気満々である。
「機械で収穫出来なんですか?」
この量を収穫するには、効率良くやらないと無理だと思った。
「手つみが良いんだよ。手つみが! ほら早くしないと跡形も無く枯れてしまうぞ!」
私たちは、時間の許す限りつみとりをした。おそらく今がこの花のピークなのだろう。さっきより香りが増したような気がした。
辺りは、いつのまにかすっかり静寂の闇に包まれていた。
「ゴォォォーン」
機械たちが動き出した。バタルマバターの製造に入ったのである。
「お~し! ルシアちゃんの為に最高のバタルマバターをプレゼントするからな!」
「もう~バターが必要なのはリクなの!」
やはり苦手なようだ。
……数時間後
ようやくバター作りの工程が終わった。
「これだけの量があれば大丈夫だろう。実に美味しそうだ」
アリスは、魔法のカバンプラス10を更に小さなポーチから取り出した。あの小さいのも魔法のカバンシリーズなのか? 私は便利な使い方に感心した。
「このバターは、今から7日経たないと使い物にならないんだよ」
そうなんだ……
「7日というと、ぎりぎり使い物になるって感じだな。よし! バターを入れたらすぐ戻ろう。他の材料も揃えないといけないしね」
アリスは、バターの前に立ち、かばんの口を開けた。そして、バターを「ポン」とカバンの方に向けて軽くたたいた。
「うあっ! 吸い込まれた!」
重いバタルマバターの塊が「にょ~」という感じでカバンに吸い込まれていった。
「さぁ、行きましょうか」
私たちは、また警戒しながらリドの街をめざした。
「そのカバン重くないの? 持ってみたいんだけど。さっきの小さいのには入れないの?」
ちょっと持たせてもらう事にした。
「へぇ~、重さ全然感じないんだね。すごいカバンだ」
関心しながら、カバンをアリスに返した。
「ウモッ! ウモッ!」
左のしげみから奇妙な声? がした。まさか、どう猛な珍獣……私は、恐る恐るゆっくりと声のする方に視線をやった。
「なっ? なにあれ? ぷぷっ! あっ……」
なんという事だ。つい笑ってしまった。
「ウモモッ! ウモモッ!」
「ウモモ~! ウモモッ!」
「ウモモッ! ウモモ~!」
やっぱり怒っているのだろうか「ウモモッ!」て鳴き声が変わった。
「ルシア~絶えられないよ~くくくっ」
ルシアだけじゃない。今この場にいる4人違った意味できびしいと思う。
……!?
「確か1頭だったはず? なに増えてるんだよ!……やめてくれ~本当に耐えられないよ!」
3頭がいっせいに突進して来た!
「えいっ! ファイアーウォール!!」
突進して来る3頭の前に炎の壁が現れた。私は、本物の魔法をこんな近くで見れた事に感動していた。
「なにしてるの? 陸さん!? 逃げるのよ!」
気付くと私は、ルシアとランスに両腕を抱えられて走り始めていた。まさに3人4脚状態である!
「戦うは最後です。時間がもったいないですから」
戦っているヒマは無いという事か。
「ウモモモ~~~!」
「ウモモモ~~~!」
「まだ追って来てるよ~」
このままでは、追いつかれてしまう。でも1頭は逃げ出したようだ。
「もう笑わないから~……くく」
と言いながらルシアは笑っていた。
「ラークス!」
「お兄さま!」
「お兄ちゃん!」
「隊長!」
4人は、前方から来るラークスの姿を確認した。
「ランス! ここは私たち2人でくい止めるぞ!」
「はい! 隊長!」
ラークスとランスは珍獣に立ち向かって行った!
「頼んだぞ! 2人とも~!」
「お兄ちゃ~ん」
「ランスさん頼みます」
3人は、珍獣を2人にまかせて急いでこの場を離れる事にした。
「とうした? アリス?」
しばらくすると、前を走っていたアリスが急に立ち止まった。
「ここまで来れば平気でしょう。少し休んだら、ここからは高速移動の魔法を使います。この魔法は、夜は使えません。今からだと日没まで、5時間くらいはあるでしょう。それでしたら、街の中心部付近くまで行けると思います。おそらくその時、私は動けなくなるでしょう。その時は、私をこの中に入れて下さい」
アリスは、魔法のカバンを指差した。
10分間くらい休んだろうか? 呼吸も元に戻った。
「さぁ、こちらに来てください」
カバンのふたを開けアリスが待っていた。バターのように自分もなるのだろうか……と、少し不安があった。
「いいですか?」
私とルシアは、静かにうなずいた。
「それでは……」
アリスに「ポン」と背中をたたかれた瞬間、あのバターのように「にょ~」と吸い込まれていった。
「うわあああああああ~あ~~~」
「な~に~この感覚~おもしろい~」
ルシアは、なんか楽しんでいる様子。カバンの中は巨大な倉庫のようだった。しかも移動しないように固定されている。さっき入れたバタルマバターもしっかり固定されていた。私たちも例外ではなかった。
「よし! これでOK!」
アリスは、私たちを収納? したあと高速移動の魔法を使って約5時間、日没まで走り続けた。疲れきった体で、最後に私たちを外に出した。
「アリス!」
「アリスお姉ちゃん!」
完全に気を失っている。アリスに言われた通りカバンの中に収納した。そのあと、私とルシアは夕食を済ませ屋敷に2時間ほどかけて戻った。そして、アリスをカバンから出して、私たちも休む事にした。
次の日からルシアと2人で、残りの材料を集める事になった。
何とか、全ての材料を集める事が出来たがもう時間が無い。あと4時間ほどで勝負の日となる。
さすがに、このまま睡眠を取らないで勝負に挑むのは負けに行くようなものである。
一応、オーブンのくせは把握した。あとは開始の時間を待つだけである。
アリスは、まだ回復していない様子。まだ目覚めていない。
私は、初めて資格を取った時の試験ように、少し緊張をしていた。そして、絶対にドーキンに勝ってみせる。絶対に負けない!と誓った。
そして、ようやく眠りに付く事が出来た。
第10話に続く……