-第7話- 「 ベーカリー 」
そろそろパートさんたちが出勤して来る時間だな……
「おはようございま~す……!?」
「店長おはようございま~す……あら? 新しいバイトの子?」
私は、アリスとルシアをパートさんに紹介した。
「え~今日からしばらくウチで預かる事になりました。アリスさんとルシアさんです。2人には、お店の仕事を手伝ってもらう事にします。経験は無いのでいろいろ教えてやって下さい」
「アリスです。よろしくお願いいたします」
「ルシアです。よろしくお願いしま~す」
ルシアは、少し緊張しているのかいつもより表情が硬い感じだ。
「あら? あなた? この娘よ! この娘。この間話してたのは……」
「どこで知り合ったのよ~もう店長も隅に置けないわね~フフフッ」
そうか前に言っていたのはルシアの事だったのか。そういえばルシアも「おいしいパンをありがとう」て言ってたっけな。
「まぁまぁ、これにはちょっと事情がありまして……ちなみに2人は姉妹という事です。とにかく今日からよろしくお願いしますね」
アリスには、とりあえずレジを中心にお願いする事にした。ルシアには、私のサポートにっまわってもらう事にした。
「なかなか上手じゃないか丸めるの。実は……むいてるんじゃない? パン屋さん」
ルシアは、とても楽しそうに作業をしている。続いて成形にも挑戦してもらった。
「このお花の形にするのむずかしい……編みこんでいくようにし……て~出来た! この三角の筒に巻きつければいいのね。なんか楽しい~あぁ~ロール・ロール? えっ? バターロール? こうやって作るんだ~」
ルシアを見ていると、本当にパン屋さんがあっているんじゃないかって思えてきた。
アリスの方はどうかな? さすがと言う感じで何かもうベテランのようだ。
アリスとルシアが店を手伝い始めてから、一週間が過ぎたある日の事……
只今、アリスとルシアは休憩中。
「店長は、どっちが好みなのかしら?」
突然! パートさんからストレートな攻撃を受けてしまった!
「なっ……何を言うんですか……いきなり!? う~ん、そうだな~2人ともよく頑張ってくれてからな~あっ! そうだ……」
私は、照れくさいこのタイプの会話から話題をそらそうとした。
「だめだめ! 逃げようなんて!」
「そうよ、そろそろ本当にいい人見つけなきゃね」
なんか今日は、いつもよりもビシビシ来るな。
「ワタシは、ルシアちゃんがいいと思うんだけど」
「あら~ワタシは、アリスちゃんの方が似合ってると思うけどね~」
「どうなの?」
「どうなの?」
「どうなのよ~店長!?」……2人同時に!
私は、後ろに見えない透明な壁があるかのように逃げ場を失っていた。その時、私の視界に時計が目にはいった。ナイスタイミング! 思わず言いたくになった。
「あっ! もうこんな時間だ~最後の仕込みしなきゃな~ほら~お客さん待ってますよ~」
今日のところは、何とか脱出成功? したかに思えた。
「もう~そんな事だから、まだ1人なのよ」
「そうそう優柔不断は嫌われるわよ~店長」
そういい残して2人は、混み合ってきたレジに戻って行った。
そして、2人がこの世界に来てから3週間が経った……
2人ともなかなかの頑張り屋さんで、パートさんともいい感じにやってるようだ。一方、アースリアのラークスからの連絡は、忘れがちになるくらい音さたが無い。まだ、ルシアは戻れないと言う事なのか?
それから2週間の時が流れた……
明日は、定休日で私はいつものように夜風に当たりながらビールを飲んでいた。
「私たちもビール……頂きますよ」
アリスとルシアがベランダに出て来た。今日は、何だかいつもより心地の良い風がふいている感じがした。いつもは出て来ない2人が一緒のせいだろうか?
「う~ん……やっぱりにが~い…………ジュース持ってくる!」
ルシアは、アリスに缶ビールを渡して1階にあるキッチンの冷蔵庫へと向かった。
「陸さん、先ほどお兄さまから連絡がありました。ルシアの件ですが……アースリアに戻る許可が出ました。私たちは、明日……アースリアに戻ろうと思います」
突然の事で、私は少し動揺していた。なぜラークスは、私に何も連絡して来なかったのか? まぁ、伝えてくれという事なのだろう。
「ルシアは、この事を知っているのかい?」
この1ヶ月ちょっと……2人はよく働いてくれた。いつも1人だった日常もとても華やいでいた。よく考えれば、2人はこの世界の人間ではないのだから戻る日が来るのは当然の事。
「先ほどルシアには話しました。あの子も承知しています」
……私は考えた。
「明日、戻る前に送別会をしよう! ……どうだろう? もちろんパートさんたちも呼んでね。急だけどきっと来てくれると思うよ」
我ながら良いアイディアだと思った。
……その時!
「陸殿! アリス! ルシア! 3人聞こえますか?」
突然ラークスのあわてた様な声が聞こえた。ルシアも急いで2階に上がって来た。
「ラークスどうしたんだ? そんなにあわてた声で?」
尋常ではないラークスの様子に2人も緊張していた。
「陸殿……申し訳ないのですがもう一度こちらの世界に来て頂きます。アリスは、アースリアに戻る魔法でルシアと一緒に戻ってくれ。陸殿は、こちらから魔法を掛けます」
マイスターたちの記憶が戻った事で丸くおさまったのではないのか? 私は、念の為しばらく? 店を休む事を決めた。急いでパートさんたちに連絡をして了解してもらった。
まぁ、この前アースリアから帰って来たような感じなら問題がないのだが……
「リク……じゃ~向こうで待ってるから!」
ルシアたちは、一足先にアースリアへと旅立った。私は、戸締りをしてラークスからの連絡を待つ事にした。いつの間にか、すっかり酔いもさめてしまった。
「陸殿、よろしいですか? あっ! パンに関わる物はこちらに持って来れませんので……持ち込もうとしても、魔法の制御で排除されてしまうシステムになっています。パンに関しては、とても厳しいのです」
「どういう魔法だそれは?」
私は、パン作りに必要な材料が入ったリュックを置いた。
「陸殿、そろそろ準備の方はよろしいですか?」
私の足元に例によって魔法陣が現れ、アースリアへ旅立つ魔法が始まった。
眩い光に包まれた私は、再びアースリアに旅立った!
第8話に続く……