-第2話- 「 アースリア 」
突然の夜空からの訪問者に驚いた私だが……
「あぁ……こちらこそ! よろしく……ん?」
ついつい反応してしまった自分に、今は何も言えなかった。ただ、赤面していない事を祈った。
「は~い! 了解したよ~」
ルシアは、だれかと交信中? なのか?でも、携帯も無しにどうやって? やはり普通ではない。
「あのさ~もう冗談はよそうよ! カメラがどこかにあるんだよね?」
この現実離れしたバカバカしい状況がドッキリだと信じたかった。それならつじつまが合うと、私はそう考えたのだ。
「何言ってるの? 君は選ばれたのよ! じゃ~早速、出発ね!」
私の今の話しを聞いていなかったのかな?
「ちょ……ちょっと待ってくれ!?」
この世界に留まろうとする私の本能が口を開かせた。
「だいたい勇者が、こんな……おじさんでいいのか?」
私は、何て質問をしているのだろうか。決して、往生際が悪い訳ではないが……悪いのか? 最後の抵抗とでも言うか……この取り止めの無い質問を続けた。
「普通、勇者ってのは、もっと若いだろう~10代か? まぁ、500歩位譲って……20歳(ハタチ)前後位か? でも、やっぱり10代前半か?」
何言ってるんだ私は、完全に頭の中がパニック状態になってしまった。これから、どうなる? どうなってしまう? ……全身に今まで感じたことの無い感覚がはしった。
「心配ないよ~」
ルシアは、そんな私の両手をそっと握りしめ、やさしくにっこり微笑んだ。すると何やら周囲が輝き始め、これはまさしく……この展開は!
「おっ……おい!? ファンタジーなアニメじゃないんだぞ~!!!!!」
私は声の限り叫んだ! 叫ばずにはいられなかった。しかし、どう叫んでも今の状況を変える事は出来なかった。眩い光はどんどん広がって行き私の意思とは無関係に2人を包み込んでいった。
……しばらくすると、その光から開放された。
しかし、光の眩しさで、まだ目が慣れていない。でも何だかすぐそばに、たくさんの人の気配を感じる。
ピカッッッ!!
「うわっ……まぶしっ!?」
辺り一面がまるで昼のように明るくなった! そして、大勢の人がこちらを見ていた。よく見ると、今いる自分の場所は、大きな屋敷の中庭だった。
歓声の渦と共に楽しげな演奏が始まった。
「お待ちしておりました。勇者殿」
マントをはおり、剣を腰に差した男が私に話しかけて来た。服装は、私のいた世界とは大きく違っていた。
「勇者殿って? やっぱりここは……異世界?」
次の言葉でそれは、決定的なものとなった。ドッキリのテレビ番組の世界ではないという事が……
「ここは、アースリアのセンターシティ・リド。私は、この街を守る第一防衛隊長のラークスと申します」
隊長? 自分より少し若い位なのに隊長とは恐れ入る。
「突然の出来事で驚いたことでしょう。でも現実なのです。あなたは、この世界を救う為に選ばれた3番目の勇者です!」
「3番目?」
1番目じゃないのか? そうすると、自分の他にも2人いるという事になるな。その人達と、協力するという事なのか? でも、勇者が3人? って……何か変な話しだな。
でもここは、アースリアという異世界であることは……確かである。
そういえば、さっきのルシアって娘に思いっきり不甲斐ない姿を見せてしまったな。そのルシアは、美味しそうに御ちそうを食べていた。
「え~よろしいかな? 正確に言えば、まだ勇者候補とでも言いましょうか」
補足するかのようにラークスは、候補という言葉を付け足した。考えてみれば、まだ何もしていないから当然といえば当然のことである。
「他の2人は、今どこに?」
私は、開き直ったかのように当り前のような質問をしてみた。すると、ラークスの口からしぶしぶ回答が返ってきた。
「……その人達は、もうこの世界には居ないんです」
もう居ないから……だから3番目という事なのか?
「あなたがこの世界から戻る方法は幾つかあります。でも今は伏せておきましょう」
……って、おい! そこは最も重要なところだろう。
「その格好では、何かと不便でしょう? 何か用意させますのでこちらへ」
ラークスは、私の身なりが気になる様子……よく見るとパジャマのままだった!! 私は、この時、本当にドッキリだと思いたかった。
「皆さんは、このまま宴を続けて下さい」
ラークスは、会場の人達に一言いうと私を連れ屋敷の中へ入って行った。
「一つ質問いいかな? ……その勇者には、年齢って関係ないのかな?」
やはり、どうしても気になってしまうのである。
「えっ? ルシアから何も聞いてはいませんか? ご自分の姿を見てください」
ラークスは、私を大きな鏡のある部屋に案内した。その鏡に映った自分の姿を見て私は固まってしまった。
「こっ……これは!? 一体?」
そこに映っていたのは、おそらく15、6年前であろうという自分の姿だった! これは、500歩譲ったって訳だね。
「ルシアは、本当に何も説明してなかったのですね」
ラークスは眉間に手をあて、今の状態を説明し始めた。そう言えば、ルシアが「心配ないよ~」て言ってたけどやっと意味が分かった。
「その姿は、あなたが今まで生きてきた中で1番……そうですね~誰にも負けたくないという気持ちが強い時の姿です!」
「今でも誰にも負けたくない気持ちは、少しも変わっていないけども!」
私は、すかさず反応した。よく考えるとこの姿は、死ぬ気でがんばって苦労していた時の姿である。
「まぁまぁ、今は宴を楽しんで下さい」
ラークスは私の肩を軽くたたいた。そして、再び私たちは中庭の会場に戻って来た。
楽しい宴も終わり、私は静かに眠りについた。
第3話に続く……