-第10話- 「 ブレッド・マイスター 」
……勝負開始まで、あと2時間!
睡眠は十分取れた。私は外に出て、まだ夜が明けないアースリアの空を見上げていた。
とうとう開始まで、1時間を切った!
私は、オーブンに火をいれた。そして、気温や湿度をチェックし最後に材料の最終確認をした。
「陸さん、おはようございます」
今まで、目覚めなかったアリスが起きてきた。
「おはよう。もう良いのかい? なんかもの凄い魔法使わせてしまったようだね。ランスがずっと心配していたよ」
ランスの名前を聞いたアリスは、少し照れている様子だった。
「もう平気です。今日は、がんばりましょう! ランスさんがですか……」
あと……15分!
「リク! おはよ~!」
ルシアも元気一杯で起きてきた。まぁ、遅れないだけ良しとしよう。
「さぁ、今日は、この苦労して集めた材料でドーキンに勝つぞ!」
私は、ここが異世界だという事をすっかり忘れていた。
ただ、自分の作ったロール・ロールを「おいしい」と言いながら、食べる人々の笑顔と国王の笑顔を思い浮かべていた。
ド~ンッ! ド~ンッ!!
開始の花火がなった!
リドの人々には、開始時間と焼き上がり時間を告知しているので早朝に花火が上がっても大丈夫だと思う。
集めた材料がどんどん生地になっていく……そして、2人も慣れた手つきでサポートしてくれている。自分の店で身に付いた事が、今役に立っているのが私は嬉しかった。
そろそろ1回目のロール・ロールが焼きあがる時間だ。
「楽しみだね~」
ルシアがわくわくしているのが良くわかる。実は、私が一番わくわくしてるのではないかと思った。
「よし! 出すぞ!」
おいしそうに焼けたロール・ロールが乗った天板が、がどんどんラックに置かれていく。もう少しで、次のが最終発酵を終えてオーブンに入る感じかな? その頃には、オーブンの温度が戻るだろう。
こんな感じで次々と3人でロール・ロールを作っていった。
「よし! アリスは国王の所にとりあえず、この50個を渡してほしい。ルシアは、噴水の広場に運んでほしい、ラークスとランスに2人の警護をお願いしたから……まぁ、なにも起きないと思うけどね」
良いタイミングで、ラークスとランスが入ってきた。
「陸さん、行って来ます」
「行って来るね~」
「では、陸殿! 警護は任せて下さい」
そう言ってラークスたちは、王宮と広場へと向かった。アリスにはランスをルシアにはラークスという組み合わせで行ってもらった。
私は、休憩しながらもパンの管理をしていた。
「ただいま~!」
あまり時間は経っていなのにルシアが戻って来た。
「お帰り~ずいぶん早かったね。ワゴンで沢山持っていったのに? ドーキンの方どうだった?」
私は、ドーキンの動きが気になった。
「もういたよ。ルシアたちが広場に着く頃には戻る準備をしてたよ」
先に来ていたとすると、なかなか手際よく作業を進めているのだと思った。
「ただいま……ロール・ロールの代わりを下さい」
国王は、もうあの50個食べてしまったというのか!?
「ルシアの方も、あっという間だったんだよ~無くなるの」
アリスたちには、朝食として出来たてのロール・ロールを食べてもらい。また、同じぐらいの量を再び運んでもらう事にした。しかし、何度行ってもすぐに空にして戻って来てしまう。なんとも嬉しい話しだが、国王は大丈夫なのか? ドーキンのロール・ロールも食べてるはずだから、食べ続けるというのは常人ではないという事だな。
そして、これが最後の最終発酵のロール・ロール! 時間的にも材料的にも最後だ。
私は、最後のロール・ロールをワゴンに乗せて、ルシアとラークスと3人で広場に向かった。広場は、沢山の人々で埋め尽くされていた。まるでお祭りのようだ。
「これが最後のロール・ロールだよ~皆さ~ん!!」
ルシアが大きな声で叫ぶと、われ先という感じで人々はロール・ロールを求めて集まって来た!ワゴンの中のロール・ロールは、あっという間に無くなってしまった。
「最初からず~っと、こうだったんだよ! 凄いね……リクは」
「私は、余りにもこの群衆が増えていくので、全ての警備隊長に連絡して協力してもらいました。こんなのは初めてです」
でもこれは、ドーキンのロール・ロールもあったからではないのか?
「ドーキンは? どこに?」
ゴ~ン! ゴ~ン!!
勝負が終了をした事を告げる鐘の音が響きわたった!
「陸殿……ドーキンのロール・ロールは、途中からあそこに放置されています」
私は、そのロール・ロールを食べてみた。
「ん!? これは……」
おそらく発酵時間の見極めを誤ったに違いない。それもほんの少しの時間だと思う。それをこのアースリアの人達は見抜いたという事。彼も皆に食べてもらいたいと一生懸命このロール・ロールを作ったんだと思う。あるいは私にただ勝ちたかっただけかも知れないが、たった一度の油断が勝敗を決めてしまった。シンプルなパンだけに難しい、その事を私は改めて実感していた。
「陸さ~ん! もうロール・ロール無いのですか? 陛下がもっと食べたいと言うのです」
アリスにロール・ロールがもう無い事を告げた。そして私たちは王宮へと向かった。少し戸惑いつつも王の間に入ることを決心した。その理由というのは、ロール・ロールを食べ続けている国王がどうなっているのか想像がつかなかったからだ。
「お~リク! いやブレッド・マイスターよ! もうロール・ロール無いのか?」
本当に食べていたのかと、私は目を疑った。どう見ても、もう食べれないじゃないか!
「はい、申し訳ありません。ロール・ロールはもうありません」
国王は、がっかりした様子で、ふくれた自分の腹をさすっていた。
「あっ!? もう1個あったぞ! これは? リクのだな~パクッ!」
本当に最後のロール・ロールを、国王は美味しそうに食べてしまった。
この後、人々の記憶は元に戻った。ドーキンの方は、真面目にパン作りにはげんでいるらしい。私は、自分の世界に戻る事にした。そして、パンを作り続ける事を誓った! 食べる人の「よろこぶ顔」を思い浮かべながら。
今も、これからも……
「ロール・ロール焼き上がったぞ! ルシア」
「ハ~イ」
--- 完 ---
私にとっては、超長文でした。でも、何とか終わりまで書くことが出来ました。アクセスされた方、本当にありがとうごさいます。