Ride9 アルバイトその2
「で、では、失礼します」
私はまず、男性の腰の上に跨がりました。
「おおぅッ!!」
ビクンッ! と、男性の体が飛び跳ねました。
「きゃっ! ど、どうされましたか? 私、まだ何も……」
「い、いや……なんでもねぇ。続けな……」
? なんだか、少し呼吸が速いような……。
あ! きっと戦いを前にしての武者震いですね。あまり緊張しすぎないように、ほぐしてあげないと……。
私は親指で、背骨に沿って背中を指圧します。
ぐっ、ぐっ……。
「どうですか?」
「くっ……思ったよりはマシだな……。うぉっ……!」
ビクッ……!
「きゃん! そ、その……あまり動かれると、ちょっとくすぐったいです」
体毛がお尻と太ももに擦れて……
「わ、悪いな。へ…………武者震いってやつよ……」
やっぱり武者震いだったみたいです。でも、この世界にも武者っているのかな? なんて、どうでもいいことを考えちゃいました。
「く……この俺が……。こ、こいつ、何者だ? それに、この尻の感触は……?」
「え? あの、何か言いましたか?」
声が小さくてよく聞き取れませんでした。
「な、なんでもねぇ。なに、戦いの作戦を考えていただけよ……」
「そうですか。あ、してほしいことがあったら、言ってくださいね?」
「お、おぅ」
やっぱり、戦いの前で少し緊張しているみたいです。えっと、次は……
「太もも、失礼しますね」
私は男性の腰から降りて、横に正座をします。
「え……? いや、その、なんだ……」
「? どうかしましたか?」
「……もう少し上に座って、肩をやってくれないか?」
「あ、肩を揉んでほしかったんですね? それじゃ失礼して……」
私はさっきより少し上に跨り、肩を揉みはじめます。
モミモミ……
「〜〜〜ッ!!」
男性がプルプル震えています。私にも振動が伝わって……ちょっとだけ、バイ助君を思い出しちゃう……。
「ん……。あ、あの、大丈夫ですか?」
ビクンッ!
「きゃぁんッ!」
び、びっくりした……。
「す、すまねぇ。肩はもういいから、腰を頼むわ……。あと、今度は乗らなくてい……」
「あ、はい、わかりました」
私は男性の太ももに跨がって、腰を揉みます。
「うぉッ! だ、だから乗らなくて……いぃッ!」
ビクッ……!
「あっ……! も、もしかして、気持ちいいんですか……?」
「ハッ! な、なにを馬鹿な。この俺……があァッ!?」
ビクンビクンッ!
「はぁん! あ、あの! あまり動かない、でぇ!」
ギシギシ……!
「うぉ! と、止まらん! 上下運動で、指が食い込んで……! それに尻圧が……んぐぅぅッ!」
「やっ……! んっ……!」
あ、ダメ……。これ、バイ助君や三角木馬さんのときと……
「う、うおぉぉッ!?」
「やっ……あぁんッ!!」
そのときでした。一瞬、三角木馬さんのときと同じ光が、私と男性を包んだんです。
「ハァッ、ハァッ……な、なんだ、今の光……」
「はぁ……はぁ……」
私が男性の背中に倒れ込み、息を整えようとしていると、外から声が聞こえました。
「ま、魔王軍だ!! 魔王軍が攻めてきたぞぉー!!」
△
時は少し遡る。その頃アウラは……。
ガチャリ。アウラが部屋に入ると、男が一人、背を向けて立っていた。ドアが開く音を聞き、彼はアウラを振り返る。
「……! あ、アルフレッド……」
そこにいたのは、防具屋の息子、アルフレッドだった。
「アウラさん……あの、すみません。実はお話がしたくて、僕がマッサージを申し込みました……」
「……」
アウラは思考をめまぐるしく働かせる。なぜこいつがここに? まさか、私が犯人だと気づいている? ならば、そこから導き出される答えは一つ……!
「……好きにしろ」
「……え?」
「父の仇である私を、公衆の面前で辱める気なのだろう……! 言い訳はしない……やむを得なかったとはいえ、私は許されないことをした……!」
アルフレッドは、顔を赤らめながら言う。
「は、辱めるって、何のことですか?」
「とぼけなくてもいい。私の、カラダが目的なのだろう……?」
アウラは自らの身体を抱き、顔を背ける。
「ち、違います! その……僕、貴女に一目惚れしてしまったんです……!」
アルフレッドの言葉に、アウラは目を見開く。
「な……何を……」
「……会ったばかりだけど、真剣なんです! 貴女ほど美しい人を、僕はみたことがない!」
「そ、そうやって私に近づき、油断させようとしているのだろう!? 復讐のために……」
「あの……さっきから何を仰っているのかわからないんですが……。父は死んでいませんし……」
明かされる衝撃の事実。
「な、なんだと!?」
「? な、なぜそんなに驚かれるのかわかりませんが、ピンピンしています。あ、昨日、頭をぶつけたみたいで、ちょっとだけケガをしたけど、本人もよく覚えていないらしくて。はは……歳ですよねぇ」
「……」
咄嗟にだったとはいえ、確かにアウラは全力で棒を振り下ろした。しかし、彼女自身、人を殺めてしまったという思い込みから忘れていた。
剣以外は、全くからっきしだったということを。
「そ……そうかぁ……」
膝から力が抜け、ベッドに座り込む。
「だ、大丈夫ですか? アウラさん……」
アウラたちの耳に、魔王軍襲撃の声が聞こえたのは、そのときだった。




