Ride31 鉄を打つ音
恐る恐る鍛冶場を覗くと、変わらず褌一丁の姿で、寂しそうに後片付けをしているジラフさんの背中が見えました。
「トカゲさんだって一緒に楽しくお話ししてるのにさ……。でもいいんだ、どうせ俺なんか。でも、キリンさんは泣かないもん」
とりあえず大丈夫そうでよかった。
その晩、私たちは、街で感謝のおもてなしを受けました。街の人たちが口々に感謝の言葉をかけてくれました。でも、どこか浮かない顔をしているのは、魔王軍に連れ去られ、未だに帰ってこない女性たちを心配してのことでしょうか。
セローも是非、と言っていただいたのですが、まだ脚を少し引きずっているので、ルディアさんの家でお留守番です。
ジラフさんは、「俺はいい」……それだけを言って、あとは口を開こうとしませんでした。
その席で、イーオさんが話してくれました。鉱山街では、心機一転、武器を作りはじめるそうです。魔王軍や転売ヤーではなく、真に必要とする人の手に、いいものを届けられるように。そして、今回の件で、ファルコニウムの生産も再開したい、そのような機運が高まっているそうです。
「ジラフのやつによろしくな」
イーオさんはそう言って、早めに帰っていきました。
大勢の人と話すのに慣れていない私は、少し休憩をしようと、ベランダに出ました。それに、少し考えたいこともありました。
「……」
明かりが灯もった街を見下ろし、これまでになかった気持ちが私を満たしていきます。
「ここにいたのか」
「アウラさん……」
アウラさんは私の隣に立ち、一緒に街を眺めます。
「……ミタライ、お前は、これからどうしたい?」
バイ助君のことが真っ先に頭に浮かびます。すぐに帰りたい気持ちに変わりはありません。でも、なんだかモヤモヤ……。
「私は……」
おこがましいことかもしれませんが、もしかしたらこの世界で、私にもできることがあるんじゃないか……。こんな気持ちになったのは初めてでした。それに……
「大魔王が私と同じ世界の住人だとしたら、会ってみたいです。それと、ひどいことをしているのなら、それをやめさせたい」
「……そう言うと思ったよ」
「え、なぜですか?」
「目を見ればわかるさ。初めて会ったときとは、全然ちがうからな」
△
三日後、私とアウラさんは、この街を出発する準備をはじめました。
二つお願いして、まず、鉱山で使われていた三輪の手押し車を改造してもらいました。荷台の追加、スポークホイール化、そしてサスペンションの追加。えと……また何人かの職人さんに跨がらせてもらって……イメージを伝えました。
それと、私のヘルメットを預け、それを参考にアウラさんのヘルメットを作ってもらいました。
街の職人さんたちが、総動員で作ってくれたみたいです。
そしてセローは……
「アギャ?」
獣医師さんの話では、何日か安静にしていれば、すぐによくなるとのことでした。
でも……人間の勝手で彼をこれ以上危険な目に遭わせたくない。それに、すぐ近くのモトクロ山に仲間がいるんですから……。
「ルディアさん、ジラフさん。セローをよろしくお願いします」
「ああ。任せてくれ。あたしにとっても、大切な仲間だ。まだ少し怖いけど、よく見るとけっこうかわいいし、ね」
ルディアさんが恐る恐る手を伸ばすと、セローは目を閉じて、自ら頭を差し出します。
「ケガが治ったら、仲間がいるモトクロ山に連れていくよ。約束だ」
セローは首を傾げています。
「アウラさん、ミタライさん。あんたたちのおかげで、俺はまた鍛冶師として再出発することができる。ありがとう」
「私のほうこそ。この刀……、これで魔王軍を倒して、連れ去られた者たちを救ってみせる。約束しよう」
「アウラさん……」
ふ……、と微笑んで、アウラさんは私を見ました。
「私も、お前と同じ気持ちということだ」
「……あたしは二度とこの街が魔王軍の手に落ちないよう、もっと鍛えて、後輩の指導もするつもりだ」
そう言って、私たちと握手をします。
「ありがとう、二人とも。後輩が育って安心できるようになったら、また一緒に戦わせてくれ。それとアウラ、あんたとはいつか手合せしてみたい。あの一太刀を思い出すだけで、ふふ……カラダが疼いちゃうんだ」
「達者でな。……いい、尻だった」
いただいた水や食糧、荷物を手押し車に乗せると、セローが私の前に来て、背中を差し出しました。
「セロー……」
「アギャ! アギャ!」
……っ! 私はセローの背中を力いっぱい抱きしめました。
「ありがとう、セロー……。必ず、会いにいくからね」
「セロー、ありがとう。それまで元気でな」
「……」
セローは、ルディアさんたちの方へ歩いて戻っていきます。そして振り向き「アギャア!」と鳴きました。
「ありがとう! みんな! 必ず、また会いに……行ぐからぁ!!」
私たちは、鍛冶屋ハンス・ムートに背を向け、歩き出しました。街のほうから、カーン、カーン、カーン、と、鉄を打つ音が聞こえたような気がしました。




