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Ride3 御手洗輪子

 十六歳の誕生日を迎えたあと、バイク好きのお父さんに、半ば無理やり普通自動二輪免許を取得させられました。校則でも免許取得自体は禁止されていなかったし、あんまりうるさく言うものだから、まぁいいか、と思って。


 ……最初は、本当に少しだけだったんです。教習所でバイクに乗ったとき、ちょっと、気持ちいいな……って。

 同じ車種でも、個体によって微妙に振動や感じ方が違うということにも気づきました。それぞれに、個性があって。


 最初の引き起こし……倒れたバイクを自分で起こすときは苦労しましたけど、乗り越しはなく、卒業検定にも合格しました。

 思ったよりも楽しいし、バイク、けっこういいかも……って、思いました。……でも、どこか物足りなくて。



 無事に免許を取得した後、お父さんの行きつけのバイク屋さんに一緒に行きました。

 そこで愛車……バイ助君に出会ったんです。


 バイ助君……ヤマハのSR400。選んだ理由は、色々あって……。


 つぶらな一眼ヘッドライト、好き。気持ちを教えてくれる二眼メーター、好き。抱きしめると気持ちいい形状のタンク、好き。いやら……美しいフィンを備えた空冷エンジン、好き。エンジンをかけるために、私がキックをしてあげないといけないの、好き。私にだけ見せてくれる、可愛いキックインジケーター、好き。ミラーやフェンダー、サイレンサーの、なまめかしい輝き、好き。黒光りのするフレーム、好き。エキゾーストパイプの描く、心の琴線に触れるカーブが好き。

 そして、タンクとエンジンの隙間から覗く景色が好き。他にも他にも……。


 でも、彼を選んだ一番の決め手は、その……振動が……とても、気持ちよかったから……。



 バイ助君は、内気な私の唯一の友達……いえ、恋人でした。


 朝起きたら、おはよう。学校に行くときは、行ってきます。帰ってきたら、ただいま。

 綺麗に磨いて、走れなくても毎日跨って、そして、おやすみなさい……。

 できるところは自分でメンテして。そうすると、微笑んでくれる気がしました。


 休みの日は、デートに行きました。バイ助君くんと走っているときも、停めて眺めているときも、とても楽しくて、心がときめきました。

 これまで色彩のなかった私の人生が彩られ、すべてが鮮やかに美しく見えるほどに。


 バイ助君と走っていると、気づくことがたくさんありました。風や音の他に、気温の変化、匂いの変化……。光や色の変化。

 これまで気にもとめていなかった、身の回りのすべてが愛おしく思えました。


 クラスの誰にも話していない、私と彼だけの秘密……。……そもそも話す相手がいないとか、そういうことではないんです。



 その日も、バイ助君とツーリングしていたんです。でも、今思うと少し不思議でした。

 他の車は全然いなかったし、信号もずっと青でした。


 だからずっと気持ちのいい回転数で走ってていたら、なんだか考えてしまって。

 その……八十七ミリのピストンが、シリンダー内を激しく上下して、振動を私に一生懸命伝えているんだと思うと、本当に気持ちよくなってきちゃって。

 はじめての感覚でした。シートに跨りながら、ビクビクッ、として。

 

 で、気がついたら異世界に放り出されていました。バイ助君はどうなったんだろう。無事だといいんだけど……。

 ハッ! 他の人に跨られていたりしたらどうしよう! 心配で心配でたまりません……!


 異世界やファンタジーなんて、いらない。イケメンの彼氏や、白馬の王子様もいらない。


 早く帰りたい。ただ、バイ助君に会いたい……。

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