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Ride19 生産終了の危機

 地下通路の突き当たりに、ハシゴがありました。それを登り、ルディアさんが天井のフタを開けます。


「ようこそ。『鍛冶屋ハンス•ムート』へ」


「うわぁ……」


 ハシゴを登って目に飛び込んできたのは、私が思い浮かべていた鍛冶屋の風景そのものでした。壁には金槌や剣や槍がかけられ、かまどや金床があります。


「ここは街から少し離れてるし、森の中だからそうそう見つからないよ」


「すまない……、ルディア。自己紹介がまだだったな。私の名はアウラ。こっちは……」


「御手洗輪子です。アウラさんには、ミタライと呼ばれています」


「よろしく。アウラにミタライ」


 ルディアさんは、窓に近づき、外の様子を伺います。


「……大丈夫だとは思うけど、早めにここを離れた方がいい。いきなり魔族に追われて、びっくりしただろう?」


 製鉄所も抑えられてしまっているし、剣どころの話ではなさそうです……。


「ルディアさんの言うとおり、そうした方がいいんじゃ……」


「ルディア……ジラフ殿に会わせてくれないか?」


「親父に? なぜ?」


「率直に言う。私は、ジラフ殿に剣を作ってもらうため、ここまで来たんだ」


 ということは、ジラフさんがアウラさんの話していた、有名な鍛冶師……。せっかく来たんだから気持ちはわかるけど……私は怖くなってしまい、早くこの街から離れたいと思いました。


「……せっかく来てもらってすまないけど、それは無理だよ」


「な、なぜだ?」


「父に会えばわかる……。というか、そこにいる」


 ルディアさんは、私たちの後ろを指さしていいました。そちらを見ると、壁際の床に、大きなボロ布の塊がひとつ……。


「う〜ん……」


 ! ボロ布が動いた!? ボロ布がゴロンと転がると、髭モジャの顔が現れました。もしかして……


「この人がジラフさん……ルディアさんのお父さんですか?」


 ルディアさんが頷いたのと同時に、ジラフさんが「ふああぁ……」と大きなあくびをしました。

 アウラさんの顔を見ると、さすがに戸惑っている様子です。本当にこの人が、有名な鍛冶屋さん……?


「じ、ジラフ殿?」


「あ〜、ジラフは俺だけどぉ〜?」


 アウラさんは恐る恐る、目をしょぼしょぼさせたジラフさんに近寄り、言います。


「お願いがあってこの街に来た。私に、剣を作ってくれないだろうか?」


「いやだ」


「な……」


 ジラフさんはゴロン、とまた壁の方を向き、ボロ布を頭から被りました。


「……親父は、もう武器を作らない」


「……なぜだ?」


「……。こっちで話そう。お茶くらいなら用意できる」


 私たちは隣の部屋に案内され、テーブルに着きました。お茶を淹れてくれたあと、ルディアさんは話しはじめました。


「ジラフ殿が武器を作らないのは、街が魔王軍に占領されたからか?」


「いや……。それよりも前からなんだ」


 私も、魔王軍が来たせいだと思っていました。魔王軍のために無理やり武器を作らされるくらいなら、鍛冶屋をやめることを選んだんじゃないか、って。

 でも、そうじゃないとしたら、一体どうしてなんでしょう?


「……君たちもこの鉱山で作られる良質な武器の噂を聞いてやってきたんだと思うけど、今は少し事情が違っててね……」


「事情……というと?」


「少し前まではこの鉱山独自の鋼を使った武器が作られていたんだけど、調合が難しく、簡単に作れる安価な鋼を使った、大量生産に重きが置かれるようになってしまってね。職人も減ってきているし」


 いいものはいいけど、きっと作るのが大変だし、高いからあまり売れないんだと思います。時代の流れ、というやつなんでしょうか……。


「たしかに、かつて作られていた武器はとても評判が良かった。今でも高値で取引されているくらいなんだ」


 ルディアさんは、「だけど……」と言って続けました。


「それは職人の収入にはならない。買っていくのは武器屋ばかりになってしまった。購入額より、さらに高い金額で売りつける、悪質な武器屋にね」


「ここにも転売ヤーが……」


「テンバイヤー?」


「あ、いえ、なんでもないです」


「親父はプライドの高い、頑固な職人気質だったから、組合に反対したんだ。そんなナマクラばかり作ってられるか、ってね。はじめは賛同する仲間もいたんだけど……」


 なんだか、バイクの生産終了の話を聞いているみたいです……。少し、ジラフさんの気持ちもわかるかも……。


「徐々に減って二人だけになって、それでも声を上げ続けた。結果、組合から外され、良質な鋼どころか、ただの鉄さえも回してもらえなくなってしまった」


「そしてついに心が折れ、今に至る……か」


 ルディアさんは、隣の鍛冶場で横たわっているお父さんを見ながら、「そういうこと」と言って、お茶をすすります。寂しそうな目でした。


「だから、親父はもう武器を作れない……」

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