Ride16 モトクロ山と星空
セローはあっという間に斜面を駆け上がり、岩山の頂上に到着しました。
「はぁ……はぁ……。すごかったよ、セロー……」
「はぁ……んっ……! そ、そうだな。……色んな意味で……」
「アギャ……」
セローも流石に疲れたみたい。
「セロー、ありがとう。おつかれさま……。休んでていいよ」
「もう時期、日が暮れる。今日はここで野営しよう」
そのとき、向こうのほうから声が聞こえました。
「アギャッ! アギャッ!」
あ……。アシナガリザードの群れ……。
「……」
セローは私の様子を伺うように見ますが、群れの方を気にしているようです。
「……いいよ。いっておいで、セロー」
「アギャ……!」
彼は群れの方に走っていき、鼻を付け合って挨拶をしているようです。
「どうやら、気に入られたようだな」
その後、私たちは簡単に食事を済ませ、地面に毛布を敷き、身体にマントをかけて仰向けになりました。すると、満天の星空が視界いっぱいに広がります。
「わぁ……すごい星空ですね。とても綺麗……」
「そうか? 大して高い山でもないし、いつもどおりだろう?」
ここに来て何日か経っているのに、全然気づきませんでした。少し余裕が出てきたのかな……。
「私が住んでいたところは夜でも明るいから、こんなに星が見えないんです」
「夜でも明るい? お前がいた国は、どんなところなんだ?」
「そうですね……」
どう説明したらいいのか……とりあえず地元のことを……。
「まず人はずっと多くて、私の住んでいたところは、見渡す限り家でした。中にはこの岩山と同じくらい高い建物もあって」
「なんと……」
「電気で動く機械……道具がたくさんあって、そのおかげで、町や家の中は夜でも明るいんです。それに、夏でも涼しく、冬でも暖かくて……電気ってわかりますか?」
「……わからん」
「えっと……雷、ありますよね? あれが電気です」
「雷で動く道具ということか? で、では、この大陸でもそんな道具が発明されれば、雷魔法の使い手は食っていくのに困らないな!?」
「そうかもしれません……。他にも指先一つで火を起こせる道具があったり、こう、取手をひねればいつでも水が出てきたり……」
アウラさんが目を細めて、私の顔を見てきます。
「……お前、もしかしてからかっているな……? そんな国があるとは信じられん」
「ち、ちがいます。信じられないのも無理ないとは思いますけど……。国というか、根本的に世界が違うというか……」
私だって、ここに来る前に、こんなファンタジーな異世界があると言われても、絶対信じなかったと思います。
「ちなみに、ほとんどの人は自動車や電車……燃料や電気でひとりでに動く、えっと……馬いらずの馬車みたいな箱で移動してます」
アウラさんはポカンと口を開けています。大体予想通りの反応ですけど……。
「ちなみに、私はバイクに乗ってました。自動車の車輪がこう、二つ前後についている乗り物です。屋根とかはなくて、カラダは剥き出しなんですけど」
「? でも、それだと横に倒れてしまうだろう?」
慣性が働いているから倒れないんだけど、私もどう説明したらいいのかわかりません。……そうだ。
「この硬貨、立たせようとしても、ふつう倒れますよね。でもこうやって転がすと……ほら、前に進む力が働いていれば倒れないでしょう?」
「なんとなくはわかった。でも、ジドウシャというものがあるのに、なんでわざわざ倒れる危険性のある物に、それもカラダ剥き出しで乗るんだ? 必要性を感じないんだが……」
「自動車を自分で動かしたことないからよくわかりませんが……楽しいからかな。倒れる乗り物だから、倒さずに上手く乗るのが楽しいというか……。馬みたいに跨がるから、鉄馬なんて呼んだりもするんですよ」
「ほう……。馬か。それならなんとなくわかる気がする。鉄馬……バイクか……」
アウラさんは想像を膨らませているようです。
「跨がると言えば、あいつ、戻ってこないな」
いつの間にか、セローは群れと一緒に姿を消していました。
「……あいつがいないとなると、下山するのはかなり骨が折れるぞ?」
「そうですけど……決めるのは彼自身ですから……」
正直言うと、少し寂しいけど……。ちら……
「な、なんだ?」
それは、アウラさんも同じようでした。
「……ま、お前が言うのなら仕方ない。……さ、もう寝よう。念のため、見張りは交代でな」
「はい……。おやすみなさい」
△
しゅる……。ガサゴソ……
「んん……」
ペロペロ……
「ひゃんッ! な、何!? ……って、セロー!?」
「アギャ」
お尻を舐めてたの? もう……どうしてみんなお尻ばかり……。いえ、それよりも……
「……もどってきてくれたの?」
「アギャッ!」
あれ? アウラさんがいない……。
「おぉ、起きたか、ミタライ。……っ、セロー……?」
岩の陰から、アウラさんが顔を出して言いました。なんだかホッとした様子です。
「おはようございます、アウラさん。どこに行って……あ、もしかして、セローを探してくれてたんですか?」
「ふん……」、と言って、アウラさんはこちらに歩いてきます。
「べ、別に。ただの朝の散歩だ。だが、よかった……あの斜面を人間の足で降りるのは無謀だからな」
「……ふふ」
△
「さて、この山を降りれば、鉱山の街フットテイルはもうすぐだ。かなり短縮できたな」
向こうのほうに、山がひとつ見えます。きっとあれが鉱山です。
「それじゃ、出発しましょう」
私たちはセローに乗り、歩き出そうとしましたが、彼が脚を止め、後ろを振り返ります。
その視線の先には、昨日の群れがいました。
「……」
「セロー? ……好きにしていいんだよ?」
あなたは、私の所有物じゃないんだから。
「アギャアアァ……!」
「「「アギャアアァ……!」」」
セローが鳴くと、群れもそれに応えるように、同じように鳴きました。そしてセローは、群れに背を向け、走り出しました。
「セロー……!」
「ふ……よほどお前のことが好きらしい」
ありがとう……。でも、戻りたくなったら、好きにしていいからね?
そうして、私たちは山を下り始めました。
ピョンッ! シュタッ! ガックン!
「んふっ……! ま、またこれかぁ!?」
「あうぅ……し、仕方ないですぅ……」
その時の振動といったら……もう、言わなくてもわかりますよね?




