表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/32

Ride16 モトクロ山と星空

 セローはあっという間に斜面を駆け上がり、岩山の頂上に到着しました。


「はぁ……はぁ……。すごかったよ、セロー……」


「はぁ……んっ……! そ、そうだな。……色んな意味で……」


「アギャ……」


 セローも流石に疲れたみたい。


「セロー、ありがとう。おつかれさま……。休んでていいよ」


「もう時期、日が暮れる。今日はここで野営しよう」


 そのとき、向こうのほうから声が聞こえました。


「アギャッ! アギャッ!」


 あ……。アシナガリザードの群れ……。


「……」


 セローは私の様子を伺うように見ますが、群れの方を気にしているようです。


「……いいよ。いっておいで、セロー」


「アギャ……!」


 彼は群れの方に走っていき、鼻を付け合って挨拶をしているようです。


「どうやら、気に入られたようだな」


 その後、私たちは簡単に食事を済ませ、地面に毛布を敷き、身体にマントをかけて仰向けになりました。すると、満天の星空が視界いっぱいに広がります。


「わぁ……すごい星空ですね。とても綺麗……」


「そうか? 大して高い山でもないし、いつもどおりだろう?」


 ここに来て何日か経っているのに、全然気づきませんでした。少し余裕が出てきたのかな……。


「私が住んでいたところは夜でも明るいから、こんなに星が見えないんです」


「夜でも明るい? お前がいた国は、どんなところなんだ?」


「そうですね……」


 どう説明したらいいのか……とりあえず地元のことを……。


「まず人はずっと多くて、私の住んでいたところは、見渡す限り家でした。中にはこの岩山と同じくらい高い建物もあって」


「なんと……」


「電気で動く機械……道具がたくさんあって、そのおかげで、町や家の中は夜でも明るいんです。それに、夏でも涼しく、冬でも暖かくて……電気ってわかりますか?」


「……わからん」


「えっと……雷、ありますよね? あれが電気です」


「雷で動く道具ということか? で、では、この大陸でもそんな道具が発明されれば、雷魔法の使い手は食っていくのに困らないな!?」


「そうかもしれません……。他にも指先一つで火を起こせる道具があったり、こう、取手をひねればいつでも水が出てきたり……」


 アウラさんが目を細めて、私の顔を見てきます。


「……お前、もしかしてからかっているな……? そんな国があるとは信じられん」


「ち、ちがいます。信じられないのも無理ないとは思いますけど……。国というか、根本的に世界が違うというか……」


 私だって、ここに来る前に、こんなファンタジーな異世界があると言われても、絶対信じなかったと思います。


「ちなみに、ほとんどの人は自動車や電車……燃料や電気でひとりでに動く、えっと……馬いらずの馬車みたいな箱で移動してます」


 アウラさんはポカンと口を開けています。大体予想通りの反応ですけど……。


「ちなみに、私はバイクに乗ってました。自動車の車輪がこう、二つ前後についている乗り物です。屋根とかはなくて、カラダは剥き出しなんですけど」


「? でも、それだと横に倒れてしまうだろう?」


 慣性が働いているから倒れないんだけど、私もどう説明したらいいのかわかりません。……そうだ。


「この硬貨、立たせようとしても、ふつう倒れますよね。でもこうやって転がすと……ほら、前に進む力が働いていれば倒れないでしょう?」


「なんとなくはわかった。でも、ジドウシャというものがあるのに、なんでわざわざ倒れる危険性のある物に、それもカラダ剥き出しで乗るんだ? 必要性を感じないんだが……」


「自動車を自分で動かしたことないからよくわかりませんが……楽しいからかな。倒れる乗り物だから、倒さずに上手く乗るのが楽しいというか……。馬みたいに跨がるから、鉄馬なんて呼んだりもするんですよ」


「ほう……。馬か。それならなんとなくわかる気がする。鉄馬……バイクか……」


 アウラさんは想像を膨らませているようです。


「跨がると言えば、あいつ、戻ってこないな」


 いつの間にか、セローは群れと一緒に姿を消していました。


「……あいつがいないとなると、下山するのはかなり骨が折れるぞ?」


「そうですけど……決めるのは彼自身ですから……」


 正直言うと、少し寂しいけど……。ちら……


「な、なんだ?」


 それは、アウラさんも同じようでした。


「……ま、お前が言うのなら仕方ない。……さ、もう寝よう。念のため、見張りは交代でな」


「はい……。おやすみなさい」



  △



 しゅる……。ガサゴソ……


「んん……」


 ペロペロ……


「ひゃんッ! な、何!? ……って、セロー!?」


「アギャ」


 お尻を舐めてたの? もう……どうしてみんなお尻ばかり……。いえ、それよりも……


「……もどってきてくれたの?」


「アギャッ!」


 あれ? アウラさんがいない……。


「おぉ、起きたか、ミタライ。……っ、セロー……?」


 岩の陰から、アウラさんが顔を出して言いました。なんだかホッとした様子です。


「おはようございます、アウラさん。どこに行って……あ、もしかして、セローを探してくれてたんですか?」


 「ふん……」、と言って、アウラさんはこちらに歩いてきます。


「べ、別に。ただの朝の散歩だ。だが、よかった……あの斜面を人間の足で降りるのは無謀だからな」


「……ふふ」



  △



「さて、この山を降りれば、鉱山の街フットテイルはもうすぐだ。かなり短縮できたな」


 向こうのほうに、山がひとつ見えます。きっとあれが鉱山です。


「それじゃ、出発しましょう」


 私たちはセローに乗り、歩き出そうとしましたが、彼が脚を止め、後ろを振り返ります。

 その視線の先には、昨日の群れがいました。


「……」


「セロー? ……好きにしていいんだよ?」


 あなたは、私の所有物じゃないんだから。


「アギャアアァ……!」


「「「アギャアアァ……!」」」


 セローが鳴くと、群れもそれに応えるように、同じように鳴きました。そしてセローは、群れに背を向け、走り出しました。


「セロー……!」


「ふ……よほどお前のことが好きらしい」


 ありがとう……。でも、戻りたくなったら、好きにしていいからね?


 そうして、私たちは山を下り始めました。


 ピョンッ! シュタッ! ガックン!


「んふっ……! ま、またこれかぁ!?」


「あうぅ……し、仕方ないですぅ……」


 その時の振動といったら……もう、言わなくてもわかりますよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ