番外編 孤独なる王の祈り(黒龍視点)
本編では敵として登場した黒龍。
今回は彼の心の内側から、美咲との邂逅を振り返ります。
孤独と誇りに生きる彼の想いを知ることで、もう一つの物語が浮かび上がります。
夜の山河を吹き抜ける風は冷たかった。
俺はその中で、ただ立ち尽くしていた。
──桜井美咲。
あの娘の瞳と、あの娘の声が、今も胸から離れない。
俺は王だ。孤独を力に変え、誰よりも強くあらねばならない。
だが、彼女は俺の孤独を嗅ぎ取り、迷いなく言葉にした。
「あなた、ずっとひとりだったんですね」
その一言で、胸の奥に押し込めていた何かが崩れ落ちた。
俺は誇りを守るため、彼女に契約を迫った。
だが本当は……ただ寄り添って欲しかっただけなのだ。
あの夜、彼女は俺を選ばなかった。
田酒を選んだ彼女の瞳は、確かな温もりを宿していた。
その香りは、稲穂のように柔らかく甘い。
「……そうか」
俺は笑った。苦しく、切なく、それでも心地よかった。
誰かに選ばれるということは、誰かに拒まれることでもある。
だが拒まれてもなお、彼女の言葉は俺を救った。
いま、俺は一人で歩いている。
だが、孤独はもう苦痛ではない。
美咲が教えてくれた。
孤独は人を強くし、出会いは人を変えるのだと。
──いつか。
俺を本当に必要とする者が現れたとき、
その時こそ、俺は王としてではなく、一人の男として傍に立とう。
闇を裂く風の中、俺は静かに祈りを捧げた。
桜井美咲の幸せと、田酒の誇り高き未来に。
黒龍視点の番外編でした。
本編では描かれなかった「孤独と救済」の裏側を、少しでも感じていただけたら幸いです。




