第7話 酒蔵の再建と結末
黒龍との対決を経て、美咲は自分の進む道を選びました。
今回はいよいよ最終章。仲間たちと共に蔵を立て直し、美咲の恋の行方が決まります。
黒龍が去り、夜が静けさを取り戻した頃。
私は深く息を吸い込んだ。雪解けの空気に、稲穂のように温かく力強い田酒の香り、華やかな十四代の香り、凛とした南部美人の香り、そして冷たい越乃寒梅の香りが混じり合っている。
「……帰ろう。蔵を守らなきゃ」
私の言葉に、田酒が大きく頷いた。
十四代はいつもの軽口を叩き、南部美人と越乃寒梅も、それぞれのやり方で後を追ってくれる。
黒龍の圧倒的な力はもうそこにはない。けれど、彼の孤独と誇りは、確かに私たちの胸に残っていた。
あの夜、私は自分で未来を選び取った。そして、仲間たちはその選択を、静かに見守り、受け入れてくれた。
数週間後。
再び桜井酒造の前に立った私は、かつての荒れ果てた姿を思い出して胸が痛む。
けれど今は違う。
私の隣には、田酒がいる。そして、その背後には、十四代、南部美人、越乃寒梅。
仲間たちの存在が、私を強くしてくれた。
「ここから始めよう、美咲」
田酒が微笑む。その香りは、力強くも優しい稲の匂い。
彼らが協力してくれれば、不可能だと思っていたことも、きっと乗り越えられる。
「俺は仕込みを手伝うぞ」
「華やかさは俺に任せて。最高の香りを引き出してあげる」
「警護なら任せろ。蔵に不届き者は入れさせん」
「計画は私が立てよう。無駄なく、合理的に」
それぞれの声が響き合い、凍えるようだった蔵の空気が、温かく満たされていく。
私は嗅覚チートで米を選び、発酵の過程を確かめ、香りのバランスを調える。
田酒は職人のように真摯に仕込みに向き合い、十四代は華やかな香りの引き出し方を助言してくれた。南部美人は寡黙に私たちを守り、越乃寒梅は的確な指示をくれた。
仲間たちの力を合わせ、やがて酒は生まれた。
──澄み切った香り、柔らかな甘み、凛とした余韻。
それは、ただの酒ではなかった。
孤独だった私の心と、仲間たちの絆そのものが詰まった、奇跡の一滴だった。
春の祭りの日。
完成した新酒を、村人たちに振る舞った。
グラスを傾けた人々が、驚きと喜びの声を上げる。
「こんなに美味しい酒、飲んだことがない!」「桜井の蔵が甦ったんだ!」
人々の笑顔と歓声が広がり、かつて失われた蔵の誇りが、今、再び蘇った。
「美咲……ありがとう。君がいたから、蔵は甦った」
田酒が静かに、そしてまっすぐに告げる。
彼の瞳には、深い感謝と、そして、私への愛が満ちていた。
「私こそ……みんながいたから、ここまで来られたの」
そして、彼の香りがふわりと近づく。
私は自然と目を閉じ、次の瞬間――温かな唇が触れた。
周囲の歓声が遠ざかり、胸が熱くなる。
黒龍の孤独も、十四代の華やかさも、南部美人の誠実さも、越乃寒梅の冷徹さも……すべてが、私を成長させ、この場所に導いてくれた。
けれど、私が選んだのは、この人。
稲穂のように逞しく、優しく包み込んでくれる田酒。
私の嗅覚チートは、最後に、一番大切な香りを、愛の香りを見抜いたのだ。
◇
キャラクター紹介
桜井 美咲
本作の主人公。22歳。亡くなった父の酒蔵「桜井酒造」を継ぎ、仲間たちと共に再建に成功した。
田酒
日本酒に宿る精霊の一人。美咲の旅を支え、共に蔵を甦らせた。美咲にとって最も大切な存在。
十四代
山形県が誇る日本酒に宿る精霊。華やかな存在として、蔵に彩りを添えた。
南部美人
岩手県が誇る日本酒に宿る精霊。寡黙な守護者として、美咲と蔵を支えた。
越乃寒梅
新潟県が誇る日本酒に宿る精霊。冷徹な参謀として、美咲に現実的な助言を与えた。
黒龍
福井県が誇る日本酒に宿る精霊。美咲に孤独と向き合うことの大切さを教えた。
これにて本作は完結です。
田酒との恋愛、仲間たちの友情、黒龍の孤独――すべてを嗅覚チートで乗り越える物語になりました。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!
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