番外編 稲穂の香りに包まれて(田酒視点)
本編では常に美咲を支える存在だった田酒。
今回は、彼が初めて美咲に出会った瞬間から、恋に落ちるまでの心情を描きます。
俺は田酒。
東北の大地に育まれた誇りを背負い、堅実に歩んできた。
蔵を守るために必要なのは、誠実さと努力だと信じてきた。
──だが、桜井美咲と出会った日、その信念は揺らいだ。
彼女は不思議な娘だった。
嗅覚チートとやらで、酒の香りだけでなく、人の心まで見抜いてしまう。
「田酒さんの香り……強いけど、優しい。稲穂みたいに安心する」
その一言で、胸の奥が熱くなった。
俺がこれまで背負ってきた重さを、軽やかに受け止めてくれるような気がした。
仲間が増えるたび、俺は不安になった。
十四代の華やかさ、南部美人の誠実さ、越乃寒梅の冷徹さ、黒龍の圧倒的な力。
彼らの中で、果たして自分は彼女にふさわしいのかと。
だが、美咲は何度も俺を見てくれた。
迷いの中でも、必ず俺を支えに選んでくれた。
そのたびに思った。
──この人を守れるのは、俺しかいない、と。
春祭りの夜。
蔵が甦り、村人たちの笑顔に囲まれる中で、俺は決心した。
「美咲……ありがとう。君がいたから、蔵は甦った」
言葉にした瞬間、抑えていた想いがあふれた。
香りに導かれるように、俺は彼女の唇を奪った。
歓声が響き渡る中、俺の世界は静かに満ちていった。
稲穂の香りに包まれるように、彼女がそばにいるだけで心が穏やかになる。
俺は田酒。
これからも誇りを胸に、彼女と共に歩んでいく。
それが俺のすべてであり、蔵の未来そのものだ。
田酒視点の番外編でした。
本編では描かれなかった「主人公への揺るぎない想い」を、彼自身の視点で語りました。




