リリーの祖父
あれよあれよと言う間に、リリーとの待ち合わせの時間になってしまった。
「あら、やっと来ましたのね。」
リリーは時間が経ったからか、機嫌が良さそうだ。
ほっと胸を撫で下ろす。
リリーの部屋は、不思議な感じだ。
あまりに貴族の娘らしくない部屋だからだ。
もちろん、公爵の娘らしいアクセサリーや宝石などがあるにはある。
でも、それよりも部屋の壁に山積みにされた本が異彩を放ちすぎて、あまり気にならない。
「……。勉強熱心なんだな。俺も見習おう。」
余りの本の多さに、アデルが感心している。
「本題に入ってもよろしいかしら。」
リリーはそういうと、部屋の奥から重要そうな文書を取り出した。
初めて見た私にも分かるくらい、触っちゃ駄目感のある書物だ。私の偏見で言うと完全に政治関連っぽい。
「格式の高い書物に見えますでしょ?」
リリーに見透かされる。
「でも、違いますの。」
リリーは一呼吸置いてから、事情を話し始めた。
「私のお祖父様の時代、メリライザ家は3人の当主候補者がいましたの。1人目はローザス様、2人目はマルク様、そして最後はカルロス様。結局、長男である故ローザスお祖父様が当主を引き継ぐことになったのはご存知ですわよね。」
リリーは続ける。
「これは、ローザスお祖父様が遺した文書ですの。お祖父様は厳格な方で、得体の知れないものを嫌うお方。なのに……」
リリーは文書の中身をぺらり、とめくる。
「何のことやらさっぱり意味が分かりませんの。」
そんな様子のリリーを見て、アデルが言う。
「お前が分からないだけじゃないのか?」
私はもう何も言わないことにした。
「婚約破棄しますわよ。」
リリーが最高の脅しをかける。
「……すまない。」
「はぁ……。話が逸れましたわ。私だけではないと思いますわ。本当に謎ですのよ。」
リリーが指差した先には、確かに理解できない内容が書いてあった。




