アデル王子の教育係
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いきなり城に人が入ってきて最初は皆警戒している様子だったが、私の顔を見ると、皆納得して入れてくれた。
「グリシーヌ様ですね。どうぞお入りください。王子の部屋までご案内いたします。」
さすが王子の教育係。皆表向きはにこやかに接してくれている。
しかし油断してはいけない。今回私がなりすますグリシーヌという女性は、王子に国にとって都合の悪いことを吹き込む危険人物。
表向きは友好的に接してくれているが、実際は命を狙われている。
私は警戒を解かず、グリシーヌが教育係をしているという王子の部屋へ向かった。
その王子の名前は、アデルというらしい。
「では、私はこれで。」
部屋について案内係の人がいなくなると、私はコンコン、とノックをした。
「入れ。」
王子だから仕方ないけど、上から目線だなあ。
そう思いながらドアを開けた。
「待っていたぞ。今日は何を教えてくれるんだ?」
想定していたより大きい王子だった。
教育係というから、てっきり10歳とかそれくらいの少年を想像していたのだが、実際は私と同じくらいの青年だった。
髪は綺麗な黒髪で、翠色の透き通った切長の目をしている。
一言でいうと、イケメンだった。
というか、彼氏にそっくり……。
彼氏もこの世界に転生してきてるというし、彼氏だったりしないのかな。
私が思わずドギマギしていると、
「……。何もしないなら帰らせるぞ。」
「ごっごめんなさいアデル様!!急いで準備しますので!!」
「はぁ……。早くしろ。それと、いつもアデルでいいと言っているだろう。」
「はい!!アデル!!」
ため息をつかれる。おい。姿こそ似てるけど、性格は全然彼氏じゃないぞ。
うちの彼氏はもっと素直で可愛いんだから。
私はそう思いつつも、今日使う予定の教材を鞄から引っ張り出した。
現代ではただの大学生をやっていた私が、いきなり中世の教育係になりすまして勉強を教えられるか、というと答えはNOだ。
しかし、アデルは「勉強」らしい勉強ではなく、とにかく庶民の生活でも何でも、自分の知らないことを知りたいらしい。
よって、私が教える「勉強」は要は王子の知らないことなら何でも良いのだ。
早速アデルに色々と教える。
今回教えたのは、庶民の暮らし方や生活環境などだ。
なぜこのテーマにしたかというと、仮に今この部屋に監視の目があっても疑われない内容だからだ。
私がなりすましているグリシーヌという女性が、本当に命を狙われているなら、この部屋が何らかの監視されていても不思議ではない。
よって、あまりうかつなことはアデルに教えられないのだ。
そんなことを考えながらアデルに目をやると、これでもかというくらい真剣にノートを取っていた。
「……。真剣に取り組んでいらっしゃいますね。」
「悪いか。この国を守るためにも、知っておいた方がいいだろう。」
「……。」
真面目な人だなあ。彼氏みたい……。
そう思っていたら、急に寂しくて、不安な気持ちになってきた。
___彼氏はこの世界に転生しているらしいが、現代の記憶を持って転生しているという保証はない。
既にそこら辺の女の子と良い仲になって、結婚しているかもしれないのだ。
それに、仮に記憶を持っていても、この姿で私が彼女だということに気づいてもらえるだろうか。
なんか、辛くなってきたな。
思わず目に涙が溜まる。
会いたいなあ……。
私はアデルに泣いていることを悟られないように俯いた。
しかし、鼻を啜る音でバレてしまった。
「……。お前、今日おかしいな。いつもより挙動不審だが。」
「……。ごめんなさい。」
必死に泣き止もうとする。
初対面の男性が現代の彼氏に似てるからって、何でこんなに、
「……。今日は戻れ。」
「え?」
「城にお前の部屋があるだろう、戻れ。」
あっ……。
呆れられてしまった。そうだよね、教育係が泣いて授業が進められないなんて、やばいよね。
「……すみません、すぐ泣き止みますので授業を!!!」
「別に。泣きたい時は泣けば良い。」
「!?」
気を遣ってくれているのかな……?
私は結局その日、グリシーヌが使っていたという部屋に戻り、そのまま夜を迎えた。
しかしその日の夜、事件が起こったのである。




