『伊勢物語』作戦の裏側
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遡ること本を全部持って行かれたあの日。
ヴィオレはどうヘレヨンに圧をかけ、精神的に一発くらわせるかを考えていた。
「……。困ったわ。」
ヘレヨンに役に立ちそうな本は全部持って行かれちゃったし…
あー。もっと現代で歴史とか体術とか勉強しとけば良かった。
今の私なんて古典文学しかやってないわ。
ん?古典?
突然何か閃きそうになる。私は悪あがきでまだ使えそうな本がないか探しつつ、考えることにした。
そういえば、講義でなんか習ったよな…
「皆さん、『伊勢物語』はご存知ですか?」
教授の声が脳内に流れてくる。
「中学、高校の授業で習った方も多いと思いますが……。念の為説明すると、『伊勢物語』の中には男女の「身分違いの恋」が描かれる話があり、その中で身分違いの恋が辛くなった「男」が女性を連れて駆け落ちするという場面があります。」
うん。なんかそんなことあったよな。
「しかしーその駆け落ちは、「男」が見ていないところで女性が鬼に食べられてしまい失敗します。」
そうだったそうだった。駆け落ちまではなんかリアルそうな話も多いのに、鬼に食べられるとこでいきなり現実味なくなるんだよね。
「一見現実味のない話に見えてしまいますが、実際は「この物語のモデルとなった人のスキャンダル」をぼかして書き残しているのではないか、とする説があります。スキャンダルの相手の女性が超偉い人でしたからね。公にできないこともあったのでしょう。
そこから考えて、女を食べたとされる「鬼」は本当に鬼だったわけではなく、実際は駆け落ちを止めに来た女の関係者ではないのか……。とする説もありますね。」
うんうん。つまり古典文学は、ただの物語に見えて、実は当時色々な理由で語り難い現実を写してくれる、鏡でもあったんだよね。
うん…鏡?語り難い現実?
「……分かったわ!!」
つまり、この世界でも同じことが言えるんじゃないだろうか。もしかすると、この国に伝わる昔話とかに、ヘレヨンの痛いところをつけるような国家機密がぼかして書いてあるかも!!!
その後私は、『蛇と王様』という絵本に出会い、「『伊勢物語』作戦」を実行したところ、『蛇と王様』に隠された秘密として、次のヘレヨンの弱みが分かったのだ。
・現王様(ヘレヨンの父。ヘレアン)が婚約者がいるのにも関わらず一般の女性に手を出した。
・手を出したことにより女性は妊娠・出産。その子どもがヘレヨン。つまり、ヘレヨンは本来なら愛人の子供だが、それが隠され現女王とヘレアンの子として生きている。
・しかも女性はヘレアンとの関係がバレて処刑。その際、蛇を用いて殺された。
この一件は国民にも貴族にも隠蔽されたが、そういうことがあったという事実を何としてでも後世に伝えたいと思った何者かが、『蛇と王様』という表向きはただの昔話という触れ込みで、このスキャンダルを書き残した。それが今や国民皆が知っているくらい有名な昔話となっている。
この事実を突きつければ、ヘレヨンは私の言うことを聞かざるを得なくなるだろう。
何たって一国の王子が愛人の子だと分かれば、国中大騒ぎになることは目に見えてるから。
私はそう思いつつ、食事の合図とともに図書館を飛び出した。
※『蛇と王様』は架空の物語で、『伊勢物語』と違う点が多数ございます。また、『伊勢物語』に関すること諸説あります




