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ダンジョン探索と謎の魔女

ギルド登録を終えたフィオナとレイナは、さっそく最初の依頼を受けることになった。


「次の仕事はダンジョン探索ね!」


フィオナはギルドの掲示板を指差しながら、胸を張る。


「ふむふむ……最近発見された小規模な遺跡の調査か。危険度はそれほど高くなさそうですね」


レイナが依頼書を覗き込みながら頷いた。


「そう! 初仕事にピッタリな内容よ!」


「ただ、一つ問題がありますね……」


「えっ、何?」


「同行者がいるみたいです」


レイナは依頼書の端を指差した。そこには「依頼達成のため、ギルドが派遣する魔法使いと共に行動すること」と書かれていた。


「ふむ……まあ、私たちだけじゃ不安だし、いいんじゃない?」


「ですね。では、その方を探しましょうか」


二人がギルドのカウンターに向かおうとした時――


「ふふん、私の出番のようね!」


どこからともなく響く、艶やかな声。


「ん?」


フィオナが振り向くと、そこには妖艶な雰囲気の女性が立っていた。


漆黒のローブをまとい、グラマラスなスタイルを惜しげもなく見せつける大胆な衣装。長く美しい紫色の髪がふわりと揺れ、その瞳には自信満々な光が宿っている。


「私は大魔女ヴェロニカ! あなたたちの今回の探索に同行することになったわ!」


フィオナは目を輝かせた。


「すごい! いかにも強そう!」


「ええ、当然よ!」


ヴェロニカは胸を張る。


(これは頼もしい仲間ができたかも……!)


しかし、レイナはじっとヴェロニカを観察し、何かを察したように微笑んだ。


(……この人、たぶんポンコツだ)



---


◆ ダンジョン内部 ◆


「さて、この遺跡には貴重な魔導書が眠っているらしいわ」


ヴェロニカが自信満々に杖を掲げる。


「私の魔力をもってすれば、どんな罠も簡単に解除できるわ!」


「おおっ!」


フィオナは感心しながら拍手をした。


「さすが大魔女ね!」


「ふふん、もっと褒めていいのよ?」


ヴェロニカが得意げに笑った次の瞬間――


バチンッ!


「ぎゃあああああ!!!」


突然、床の魔法陣が光り、ヴェロニカの体が宙に浮いた。


「な、何これ!? 私、浮いてる!? 解除して! 解除して!!」


「ええっ!? ちょっ、何やってんのよ!?」


フィオナが慌てて駆け寄るが、ヴェロニカはバタバタと宙を泳ぐように足を動かすだけで、全く降りられない。


「こ、これは……浮遊の罠ですね」


レイナが冷静に観察する。


「ま、魔法使いが自分で罠にかかるってどうなのよ!?」


「う、うるさいわね! ちょっと油断しただけよ!」


「その“ちょっと”が命取りになるのよ!」


「だ、大丈夫よ! 私の魔力で――」


ヴェロニカが自信満々に杖を振ると――


「ドカーン!!!」


突然、彼女の杖から謎の爆発が起こり、天井の一部が崩れ落ちた。


「「ぎゃあああ!!!」」


フィオナとヴェロニカは悲鳴を上げながら転がる。


「……やっぱりポンコツですね」


レイナだけが冷静だった。




何とか罠を突破し、探索を進める三人。


「はぁ……散々だったわ……」


ヴェロニカは乱れた髪を直しながら、しょんぼりと歩く。


「ま、まあ、次は気をつけてよね」


フィオナもホッと息をついた。


しかし、その時だった。


「ポチャ……」


「ん?」


フィオナが足元を見ると、小さなスライムがうごめいていた。


「なんだ、ただのスライムか」


「ふふん、私の魔法で一瞬よ!」


ヴェロニカが杖を振る。


しかし――


「ピチャン!」


スライムが突然ヴェロニカの足に飛びついた。


「えっ?」


「うわっ!? ちょっ、なにコレ!?」


ヴェロニカのローブがみるみる溶けていく。


「えええええ!? ちょっと!? 私の服!??」


「え、まさかこれ……!」


フィオナが青ざめる。


「“服だけ溶かす”スライムだわ!!!」


「はあああ!? 何その都合のいいスライムぅぅぅ!!?」


「そんなのありですかぁぁ!?」


ヴェロニカが涙目になりながら必死でスライムを振り払うが、逆にどんどん服が消えていく。


「きゃあああ! こ、これはまずいわ!」


「ひ、ひぃぃ!? ちょっと!? 私にも来たんだけど!?」


フィオナの服にもスライムが張り付き、溶け始める。


「なんで私までぇぇぇ!!?」


「お、落ち着いてください二人とも!」


レイナが慌ててスライムを引き剥がす。


「とりあえずこれで……!」


何とかスライムを撃退したものの、ヴェロニカとフィオナはすでにボロボロの服になっていた。


「う、うぅ……ひどい目にあった……」


「ま、まさかこんなことになるなんて……」


フィオナとヴェロニカは震えながら、お互いを見つめ合う。


(……なんかこの人、私と同じ“残念枠”じゃない?)


フィオナは思った。


「……とりあえず、服をなんとかしないとですね」


レイナが冷静に予備の布を取り出した。



服を溶かすスライムという最悪の試練をなんとか乗り越えたフィオナとヴェロニカ。二人はボロボロの布を巻きつけ、なんとも情けない格好になっていた。


「うぅ……まさか、こんな恥ずかしい思いをするなんて……」


フィオナは頬を染めながらボロボロの服を引っ張る。


「まったく、何よあのスライム! 服だけ狙って溶かすとか、変態すぎるでしょ!」


ヴェロニカも憤慨しているが、彼女の布の巻き方は微妙にずれており、危うい状態だった。


「とりあえず、奥へ進みましょう」


レイナは二人の姿を見てため息をつきつつ、持っていた予備のマントを渡した。


「助かるわ……」


フィオナとヴェロニカはそれを羽織り、ようやくまともな格好に戻る。




遺跡の奥へと進むと、そこには怪しげな扉が待ち構えていた。


「ふふん、今度こそ私の魔力で……!」


ヴェロニカが杖を振りかざし、得意げに呪文を唱える。


「開け、扉よ! オープン・ザ・ゲート!」


「……」


扉は微動だにしない。


「お、おかしいわね……もう一回!」


「オープン・ザ・ゲート!」


「……」


「……おい、ただの英語じゃねーか」


フィオナが呆れた表情で突っ込む。


「ち、違うわよ!? これはれっきとした魔法の詠唱で――」


「もういいから、私が押してみる」


フィオナが扉に手をかけると――


「ギギギギ……」


普通に開いた。


「……」


「……」


「最初から手で開ければよかったですね」


レイナが冷静にまとめる。


「ヴェロニカ……」


「な、なによ!」


「やっぱりポンコツじゃん!!」


「うるさい!! ちょっとしたミスよ!!」


そう言い合いながら、フィオナたちは遺跡の奥へと進んでいった――。



扉を抜けた先には、広大な石造りのホールが広がっていた。


「おお……意外と広いじゃない」


フィオナが感心しながら周囲を見渡す。壁には古びたレリーフが刻まれ、何かを封印しているような不気味な雰囲気が漂っていた。


「ふふん、ここにお宝があるはずよ! 魔導書でも秘宝でも、私が全部いただくわ!」


ヴェロニカが高笑いしながら前へ進む。


「ダメですよ、依頼の目的は“調査”です。持ち帰るのはギルドに許可されたものだけですからね」


レイナがぴしゃりと釘を刺す。


「えぇ~、ちょっとぐらいならいいじゃない」


「ダメです!」


ヴェロニカが不満げに唇を尖らせるが、仕方なく探索を続けることに。



遺跡の中央には、巨大な石の台座があり、その上に機械のようなものが鎮座していた。


「これは……?」


フィオナが近づくと、台座に文字が刻まれていた。


《封印せし魔導兵器、起動するべからず》


「……封印、ねぇ」


「ってことは、つまり?」


フィオナがヴェロニカをちらりと見る。


「ふふん……つまり、起動させろってことね!」


「おい!!」


ヴェロニカは得意げに台座へと手をかざし、魔力を注ぎ込む。


「ほら、古代の遺物っていうのは動かしてみないとわからないでしょ!」


「やめなさいってば!」


「大丈夫よ、大丈夫! こういうのはね、知的好奇心をもって接するべきな――」


ゴゴゴゴゴ……!!


突然、遺跡全体が振動を始めた。


「ヴェロニカぁぁぁぁ!!!」


「ひゃっ!? ちょ、ちょっと待って、まだ何もしてないわよ!?」


ガシャン!


巨大な魔導兵器の目が赤く光り、関節がギシギシと音を立てながら動き始めた。


《起動完了……侵入者排除開始……》


「うわああああ!! 余計なことするからぁぁぁ!!!」


「だからまだ何もしてないって言ってるでしょぉぉ!!」


「やってるも同然よ!!」


ヴェロニカの言い訳もむなしく、魔導兵器は腕を持ち上げ、巨大なエネルギー砲を構えた。


「……これ、どうしましょう?」


レイナが冷静に言う。


「決まってるでしょ!! 逃げるわよぉぉぉ!!」


こうして、フィオナたちは封印された魔導兵器に追いかけられながら、遺跡を脱出する羽目になったのだった――。



《侵入者排除……攻撃開始》


魔導兵器の腕が光を帯び、巨大な砲口がこちらを向いた。


「よし! ここは私が倒すわ!」


フィオナは自信満々に剣を構えた。


「えっ、ちょ、ちょっと待って! まともにやり合うつもり!?」


ヴェロニカが慌てるが、フィオナは気にせず突っ込む。


「私は最弱勇者なんかじゃないんだから! くらえぇぇぇ!!」


カンッ


「……ん?」


フィオナの剣が魔導兵器の装甲に当たり、まるで木の棒で鉄を叩いたような音がした。


「……」


「……効いてないですね」


レイナが冷静に分析する。


「えぇぇ!? そんなバカな!!」


フィオナは納得できない様子で剣を振り回すが、やはりダメージが通らない。


「おっかしーな……もっとこう、“ドゴォォン!”ってならない!?」


「ならないわよ! あんたの剣、ただの鉄じゃない!」


「いや、勇者の剣だし! すごい力が秘められてるはずだし!」


「でも通じてないじゃない!!」


ヴェロニカの叫びと同時に、魔導兵器の砲撃が飛んできた。


ズドォォォォン!!


爆風に巻き込まれ、フィオナが吹っ飛ぶ。


「ぎゃああああ!!!」


「ほら見なさい! だから無茶するなって――」


「くっ……これは、まだ本気を出してないだけ……!!」


フィオナはすぐに立ち上がり、剣を構え直すが、ヴェロニカは大きくため息をついた。


「もういいわ……レイナ、お願いしてもいい?」


「えっ?」


フィオナが呆気に取られる間に、レイナは静かに魔導兵器を見据えた。


「……分かりました。やりますね」


レイナが歩を進めると、魔導兵器のセンサーが彼女を捉える。


《新たなターゲット認識……攻撃開始》


巨大な腕が振り下ろされる。


だが――


「よいしょ」


レイナは軽く腕を上げると、その巨腕を片手で受け止めた。


「……は?」


フィオナとヴェロニカの口が同時に開く。


《……!?》


魔導兵器のシステムも、想定外の出来事に混乱しているようだった。


「これ、意外と重いですね」


レイナが無邪気に呟きながら、腕を掴んだまま足を踏みしめる。


「でも……持ち上げられそうです」


「えっ?」


「え?」


「えええええええええ!?」


レイナはぐいっと両腕に力を込めると――


ズズズ……!!!


魔導兵器の巨体が、ゆっくりと地面から持ち上がる。


「こ、こいつ、魔導兵器持ち上げたぁぁぁぁ!!!」


「何なのよあんた!?」


「いえ、持ち上げただけですよ?」


レイナは無邪気に微笑みながら、魔導兵器をそのまま地面に叩きつけた。


ドガァァァァン!!!!


地響きを立てて、魔導兵器が地面に埋まる。


《システムエラー……強制シャットダウン……》


赤く光っていたセンサーが、ぼんやりと点滅し――やがて完全に消えた。


静寂。


そして――


「……やった……?」


「やったぁぁぁぁぁ!!!」


フィオナが歓喜の声を上げる。


「すごい……! まさか“投げる”という手があるとは……」


ヴェロニカが呆然とつぶやいた。


「え? これって普通じゃないんですか?」


レイナがきょとんとする。


「普通なわけないでしょぉぉぉぉ!!!」


フィオナの魂のツッコミが響く中、ようやく戦いは終わりを迎えた。




「はぁ……もうヘトヘトよ……」


遺跡からの帰り道、フィオナはぐったりと肩を落とす。


「まあ、いろいろありましたが、無事に調査を終えられてよかったですね」


レイナが微笑む。


「そ、そうね……ふふん! でもやっぱり私がいたからこそ成功したのよ!」


「いや、ほとんどレイナさんのおかげですよね?」


ヴェロニカが冷静にツッコむ。


「う……そ、そんなこと……」


フィオナは言葉を詰まらせたが、すぐに勢いを取り戻す。


「まあ、いいわ! 私が勇者としてしっかり指揮したから成功したのよ!!」


「……うーん、それでいいのかな?」


レイナが困ったように首を傾げた。


「次はギルドで報酬をもらって、新しい依頼ね!」


フィオナは先頭を歩きながら、勢いよく拳を突き上げる。


こうして、最強村娘と最弱勇者、そしてポンコツ魔女は、次なる冒険へと向かうのだった――。







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