ギルド登録、最強村娘のせいで大騒ぎ
「……結局、無理やり連れてこられたわね」
フィオナはギルドの重厚な扉をくぐりながら、ため息をついた。
隣町の冒険者ギルドは大きな建物で、中には武装した冒険者たちがひしめいている。壁には依頼がびっしりと貼られ、酒場コーナーでは大勢が楽しげに飲み交わしていた。
「うわぁ……人が多いですね」
レイナが少し驚いたように辺りを見回す。
「まあ、ここが冒険者の拠点だからね! よし、まずは受付で登録よ!」
フィオナは気合いを入れ、カウンターへ向かった。
受付には、落ち着いた雰囲気の美人な受付嬢が座っていた。栗色の髪を上品にまとめ、知的な雰囲気を漂わせている。
「いらっしゃいませ。冒険者登録ですか?」
「そうです! 私、勇者のフィオナ! これから世界を救うために登録しに来ました!」
「え、ええ……」
受付嬢は一瞬だけ戸惑ったが、すぐににこやかに微笑んだ。
「では、お名前と年齢、戦闘経験の有無を――」
「あと、この子も登録するわ!」
フィオナは隣のレイナを指さす。
「えっ? 私も?」
「当然でしょ! 旅するなら、登録しないと依頼も受けられないし!」
「……そうですね。それなら、私もお願いします」
「かしこまりました」
受付嬢は書類を取り出し、手際よく書き込んでいく。
「では、冒険者としての腕前を判断するため、まずは簡単な実技試験を受けていただきます」
「えっ、試験!?」
フィオナは固まった。
「戦えないと登録できないんですか?」
「いえ、最低限の実力を見させていただくだけです。魔物討伐の依頼などもあるため、全く戦えない方には補助職をお勧めすることもありまして」
「そ、そっか……」
(や、やばい! 戦えないのバレる!?)
フィオナは汗をかき始めた。
「では、裏庭へどうぞ。模擬戦で実力を見せていただきます」
受付嬢の案内で、二人はギルドの裏庭へと向かった。
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◆ ギルド裏庭 ◆
「模擬戦の相手は、うちのギルドの戦士が務めます」
受付嬢が紹介したのは、筋骨隆々の大男だった。
「おう、新人ども。手加減はしてやるが、覚悟しろよ?」
「えっ、ええと……」
フィオナは後ずさる。
(む、無理ぃぃぃ!! こんなのに勝てるわけない!!)
「では、準備ができたら始めてください」
受付嬢が合図をする。
「ちょ、ちょっと待って! 私まだ心の準備が――」
「では、始め!」
「ええええええ!?」
男が棍棒を振り上げ、フィオナに向かってくる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
フィオナは全速力で逃げ回る。
「おいおい、攻撃しないとダメだろ!」
「む、無理ぃぃぃ!!!」
ギルドの見物人たちがクスクスと笑い出す。
「……仕方ないですね」
レイナがため息をついた。
「えっ?」
「フィオナさんの代わりに、私がやります」
「ええっ!? いや、でも……」
「いえいえ、代わりに戦ってもいいですよ?」
受付嬢はあっさりと許可を出した。
「じゃあ、お願いします!」
フィオナはレイナの後ろに隠れた。
「……大丈夫かよ、新人」
戦士の男が苦笑しながら構える。
「大丈夫です。私、ちょっとだけ力が強いので」
レイナは控えめに微笑みながら、ゆっくりと拳を握った。
(えっ、ちょっと待って……ここでレイナが本気出したら……)
フィオナの脳裏に、ゴルベアをワンパンで沈めた光景がよみがえる。
「レイナ! 手加減してね!?」
「はい、気をつけます」
しかし、戦士の男は余裕の表情だった。
「手加減なんていらねぇよ。俺もそれなりに強いぜ?」
「そうですか? では――」
レイナがすっと前に出る。
「失礼します」
「え?」
ドゴォォォォン!!!
レイナの軽い一撃が男の盾を粉砕し、そのまま彼を吹き飛ばした。
「ぶほぉっ!?」
男は数メートル後方の壁にめり込む。
「………………」
ギルド裏庭に静寂が訪れた。
「え? え? ええええ!?」
ギルドの見物人たちが目を丸くする。
「ちょ、ちょっとレイナ!? 手加減は!?」
「しましたよ?」
「どこがよぉぉぉぉぉ!?」
「………………」
受付嬢は一瞬沈黙した後、カチャカチャと書類に記入を始めた。
「……レイナさん、戦士ランクBからのスタートでよろしいですか?」
「え? そんなに強いんですか?」
「いや、むしろAでもいいレベルですね……」
フィオナは頭を抱えた。
(私の勇者としての立場がどんどん危うくなっていくぅぅぅ!)
こうして、最弱勇者と最強村娘は、ギルド登録を無事に(?)終えるのだった――。