最弱勇者と最強村娘、旅立つ
「よーし! いざ、隣町へ出発よ!」
フィオナは意気揚々と村の門をくぐった。
「フィオナさん、忘れ物はないですか?」
レイナは大きなリュックを背負いながら、念入りに確認する。
「へーきへーき! 旅の準備はバッチリよ!」
「そうですか? でも、荷物がすごく少ないような……」
レイナがちらりとフィオナの手荷物を見る。
小さなポーチに、パンとチーズが数切れ。あとは水筒ひとつ。
「ええと……着替えとか、寝袋とか……?」
「え? そんなの持ってないわよ?」
「……フィオナさんって、もしかして旅の計画とか立てるの苦手ですか?」
「なっ!? そ、そんなことないし!」
(いや、めっちゃ見抜かれてるし!)
フィオナは慌てて胸を張ったが、レイナのじと目に耐えきれず、すぐにそっぽを向いた。
「まあ、何とかなるわよ! ほら、行くわよ!」
「はいはい……じゃあ、途中で必要なものを買い足しましょうね」
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◆ 森の中 ◆
「♪~」
フィオナは上機嫌に鼻歌を歌いながら歩いていた。
「やっぱり旅って楽しいわね! 解放感がすごい!」
「そうですね。でも、気をつけないと――」
「きゃあっ!?」
バサバサッ!!
突然、木々の間から何かが飛び出してきた。
「うわあ! モンスター!?」
現れたのは大きな鳥――いや、よく見ればただの普通の鳥だった。
「……あ、鳥ですね」
「ビ、ビックリさせないでよ!」
フィオナは胸を押さえながらホッと息をついた。
「はぁ……もう、こういう驚かし方、やめてほしいわ……」
「いや、別に驚かそうとしたわけじゃないと思いますけど……」
レイナがクスクスと笑う。
「フィオナさん、本当に旅慣れてないんですね」
「う、うるさい!」
森の奥へと進むフィオナとレイナ。
「そろそろ隣町が見えてもいい頃なんだけど……」
フィオナはキョロキョロと辺りを見回した。
「そうですね。地図では、森を抜ければすぐのはずですが……」
レイナが言いかけたその時――
「グオオオオオ!!」
茂みの向こうから、巨大な熊のような魔獣が姿を現した。
「う、うわあああ!? なにアレ!? でっか!?」
「ゴルベアですね。凶暴ですが、冷静に対処すれば……」
「いや無理無理無理!! 絶対勝てないって!!」
フィオナは即座に逃げる体勢を取った。
「フィオナさん、武器を持って構えてください」
「いやよ! どう見ても戦える相手じゃ――」
バキィッ!!!
レイナの拳が炸裂し、ゴルベアは吹き飛んだ。
「…………え?」
地面に倒れ伏すゴルベア。そのままピクリとも動かなくなる。
「……倒しました」
「……は?」
「えっと……大丈夫ですか?」
「いやいやいや!? 何したの今!? どういう理屈でそうなるの!?」
「普通に殴りましたけど……?」
「普通に殴って熊が沈むのおかしいでしょ!?」
フィオナは頭を抱えた。
「もしかして……これ、私いらなくない?」
「そんなことないですよ!」
レイナは優しく微笑む。
「フィオナさんがいるから、私は安心して戦えるんです!」
「それって……つまり、私は応援係?」
「はい!」
「いや、そこは否定してよ!!」
こうして、最弱勇者と最強村娘の旅は、ますます不安な方向へ進んでいくのだった――。