表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

魔王の興味

漆黒の城に、重々しい静寂が広がっていた。


魔王セラフィナは玉座に腰掛け、片肘をつきながら報告を聞いていた。長く美しい黒髪が燭台の炎に揺れる。


「……ふぅん、ルフェリアがやられたのね」


目の前で跪く軍師ベリスは、慎重に言葉を選びながら頷いた。


「はい。サキュバスの中ではそこそこ優秀な個体でしたが、勇者パーティーに討伐されました」


セラフィナは退屈そうに小さく息を吐く。


「まぁ、予想通りね。サキュバスは確かに厄介だけど、所詮は低位の魔族。勇者が出てきたなら、倒されるのも時間の問題だったでしょう」


しかし、ベリスはそこで一瞬言いよどむ。


「……ただし、妙な報告がありまして……」


「なに?」


「倒したのは……勇者ではなく、村娘だったようです」


「……村娘?」


セラフィナの指がぴたりと止まる。


「はい。勇者の仲間の一人である村娘が、一撃でサキュバスを沈めたとのことです」


「……一撃?」


セラフィナは静かに目を細めた。


「……ちょっと待って。勇者パーティーの中に、そんな実力者がいたの?」


「いえ……彼女はただの村娘のはずです。戦士でも、魔法使いでもなく、これまで特に目立った記録もない人間です」


「なのに、サキュバスを一撃で……?」


セラフィナはしばらく考え込む。


「……興味深いわね」


魔王の紅い瞳が、不思議な輝きを宿す。


「なぜ村娘がそんな力を持っていたのか。偶然か、それとも……」


ベリスは少し戸惑いながら問いかける。


「どうなさいますか? 監視を強めますか?」


「ええ。勇者パーティーの動向はこれまで通り追い続けなさい。ただし――」


セラフィナは立ち上がり、漆黒のマントを翻した。


「私も直接、この目で確かめることにするわ」


「魔王様自ら……?」


「たまには気分転換も必要でしょう?」


セラフィナは微笑むと、魔力を操りながら、姿を変え始めた。


「変装して人間の街に潜り込めば、何か面白いものが見られるかもしれないわね?」


こうして、魔王は動き出した――。



夜の帳が降りる頃、人間のエルデンの入り口に、一人の女性が立っていた。


黒髪のロングヘアを揺らし、漆黒のマントを羽織った彼女は、まるで夜そのものをまとったかのような雰囲気を醸し出している。しかし、顔立ちは整いすぎており、暗がりの中でも人目を引いていた。


「……随分と賑やかね」


魔王セラフィナは、人間たちが行き交う街の様子を眺めながら、小さく微笑んだ。


本来なら、魔族がこうして人間の街を歩くなど、ありえないこと。しかし、彼女は自らの魔力を抑え、完全に人間と見分けがつかないようにしていた。


「さぁて……勇者と、あの村娘はどこかしら?」


目的はただ一つ。勇者パーティーの観察。そして、村娘がサキュバスを倒した理由を知ること。


セラフィナは、ゆっくりと街の中へ足を踏み入れた。


(……やはり、人間の世界は賑やかね)


しばらく歩いていると、彼女の前を一人の少女が通り過ぎた。


栗色の髪をおさげに結び、シンプルなワンピースを着た村娘。


レイナだった。


セラフィナの視線が、その背中を追う。


(……あの村娘、勇者の仲間だったわね)


彼女は、少し興味を惹かれた。


村娘がサキュバスを倒した――その事実が、まだ彼女の中で納得できていなかったからだ。


(戦士でも、魔法使いでもない。ただの村娘が、どうして……?)


レイナは、パン屋の前で足を止めた。


「……うーん、どうしようかなぁ」


店先のパンを見つめながら、小さく呟く。


セラフィナは、それを少し離れた場所から眺めていたが、ふと、彼女の手が小さく震えていることに気づいた。


(……お腹が空いているのかしら?)


少し考えた後、彼女はゆっくりとレイナに近づいた。


「迷っているの?」


「えっ……?」


レイナは驚いたように振り返った。


黒髪の美しい女性が、優雅な微笑みを浮かべて立っている。


「どのパンにするか迷っているのかしら?」


「あ、はい……。どれも美味しそうで……」


レイナは少し恥ずかしそうに笑った。


セラフィナは、その様子を見ながら、内心で考え込む。


(……これほど素朴で、優しそうな少女が、本当にサキュバスを倒したの?)


(それとも、何か隠された力が……?)


彼女は試しに、少し探るように言葉を投げかけた。


「あなた、冒険者なの?」


「いえ、私はただの村娘です。でも、勇者様のお手伝いをしていて……」


「勇者のお手伝い?」


「はい……」


レイナは少し困ったような表情を浮かべた。


「……でも、最近は私が戦うことも増えてきて……」


その言葉を聞いた瞬間、セラフィナの中に妙な違和感が生まれた。


(……この娘、本当に“ただの村娘”なのかしら?)


魔王と村娘。


二人の出会いは、静かに始まった――。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ