プロローグ:最弱勇者、旅立つ
「よしっ! ついにこの時が来たわね!」
フィオナは両手を腰に当て、ぐっと胸を張った。
青と白の軽装鎧に身を包み、金髪のポニーテールを勢いよく揺らす。
「この私、フィオナ・ルミエール! 伝説の勇者として、今ここに旅立ちまーす!」
――……シーン。
「……ん?」
フィオナは周囲を見渡した。彼女が立っているのは小さな村の広場。お見送りに来た村人たちは、どこか微妙な表情をしている。
「あ、あの……本当に行くのかい? その、無理はしないほうが……」
「うん、フィオナちゃん、元気なのはいいんだけど……その、戦えるの?」
フィオナは一瞬、ムッとした。
「なによ、失礼ね! 私は神託を受けた勇者なのよ!? そりゃあ、剣とか魔法とか、まだ全然使えないけど……ほら、旅をしてるうちに強くなるものよ!」
「普通はな……」
「この子、昨日もスライム相手に転んでたよね……?」
村人たちは不安そうにヒソヒソと話し始める。
「だ、大丈夫よ!」フィオナは慌てて手を振った。「ちゃんと作戦は考えてるんだから! まずは近くの森を抜けて、隣町で冒険者登録をするの。そこから順番に――」
「えっ、森を抜けるの?」
「え? うん、そうよ?」
村人たちは顔を見合わせる。そして、誰かがポツリと言った。
「……あそこ、魔物が出るぞ?」