睦美ステージ1
「ねぇ、ワタシ人よけて歩くの上手くなったと思わない?」
番場が得意気な顔でなげかける。
「そうだね、でも歩き方キモいよ」
真帆がいつも通りつっぱねる。
「アナタ無理なんだけど、睦にしか聞いてない」
「うん、ババちゃん最初はわざと人にぶつかりに行ってると思ってたぐらいだから凄い進歩だよ」
「優しい、大好き」
古屋真帆は睦美と中学校からの同級生で中一から現在の高二までずっとクラスが同じだ、お互い口に出す事はないが、もし睦美が【あなたの親友は誰ですか?】と質問されたら迷わず真帆の名前をあげるだろう。
その二人の関係に今年から新たに入ってきたのが番場武だ。
彼は高校生でオネェキャラクターに振り切っていて学年でも上位の人気物だが、気が楽なのか、どちらかといえば影が薄い真帆、睦美ペアと行動を共にする事が多くなった。
今の三人のブームは渋谷。
江戸川区の高校からバスと電車を使い約一時間半掛けて、週に一回は来ている。
特に何かをする訳でなく渋谷に来ること自体が目的だ。
「あぁ次から渋谷行くときは着替え持っていこうかな」
「私もちょっとそれ考えてた、この間ババちゃん来れなかった時、凄い声かけられて嫌だった」
「ねぇ、今日はそれは無かったけどやっぱり痛い目線は感じた普通に」
睦美の通う江戸淵高校の女子の制服は保護者から人気があり、生徒からは不評だった。
黒のブレザーにスカートは黄色と黒のボーダー、近隣からは【蜂高】と呼ばれている。
男子の制服は黒のブレザーは同じだが、ズボンは灰色、ネクタイだけ黄色と黒のボーダー。
「アナタ達にその制服は荷が重いから脱ぎなさい、愛先輩しか似合わないのよ」
花田愛、蜂高の三年生で身長170cmの金髪ロング、美人な上に左右の目頭にホクロがありチャームポイントも抑えている。運動神経抜群で勉強は学年トップ、全校生徒の憧れの存在であると同時に手に負えない程の神がかった生物である。
睦美もどっぷり信者と化している。
「ワタシ、愛先輩のマル秘情報一個持ってるわよ」
スクランブル交差点を上から見渡せるカフェで女子トークは続く。
「えっ教えて、早く」
睦美が前のめりに食いつく。
「愛先輩ってさテニス部じゃないのに、いつもテニスラケットのバッグ持ってるじゃない?アレの中に何が入ってるか知ってる?」
「何?知らない気になる」
「ラケット」
自分の話に手を叩いて笑う番場。
「ウケない?普通にラケット入ってんの、テニスしないのに」
「ちょっとウケた、でも謎多いよねあの人、完璧過ぎて近寄り難いし、性格キツイって話は良く聞くよね」
「あっまたそれ言ってる絶対性格も良いです、愛先輩は」
「ワタシもそれはひがみだと思う、美人ほど性格って良くなるものよ、ワタシの逆、笑って」
「ババちゃん良いこと言った、真帆ちゃん謝って私に」
「なんで睦に謝るのよ」
「え?」
常に笑顔の絶えない番場の表情が一瞬真顔になる。
「睦、あっち見て」
睦美、真帆共に番場が指をさす方向に目を向ける。
睦美達のいる店内で飲み食いが終えたであろうトレーを返却口に戻す花田愛の姿があった。
「えっ愛先輩だ、何でしっ渋谷に」
予想通り睦美が慌てる。
「ラケット持ってる」
「やめてババ笑わせないで」
会話が聞こえる距離ではないが小声で会話してしまう。
真帆と番場がふざけている最中、睦美は校外での花田愛の姿を目に焼き付けていた。
「あっ来る」
「え?」
出入口とは逆方向の窓側の席、睦美達の方向に向かってその美人は真っ直ぐ向かってくる。
「あなた達、私に何か用?」
急な問いかけに睦美は固まってしまった。
「あっいやワタシ達も蜂高で、偶然愛先輩を見つけちゃったからつい」
「それだけ?あまりジロジロ見ないでくれる?ブスって移るのよ、覚えておいて」
そう言い残し店から出ていってしまった。
数秒して番場が挙手をする。
「はい、どうぞババさん」
「先程の発言を撤回致します、花田愛は性格が死んでいました、ワタシ本当に人を見る目ない、オカマとして不甲斐ない」
「睦美さん、先程私に謝罪を要求されましたが、それについて何かないですか?」
真帆が茶化しに来るが睦美からの返答はない。
「おい、睦聞いてるか」
憧れの人に偶然渋谷で出会い、丁寧な罵倒をお見舞いされてしまった睦美が数分ぶりに言葉を発した。
「初めて愛先輩と喋っちゃった」




