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勝碁ステージ2

 東京都墨田区墨田、Lサイズのピザ二枚積んだ勝碁のバイクを到着する。

 PIZZA-LAND錦糸町店の配達エリア最北端に位置する荒川沿いのこのエリアは、工場地帯ということもあってか都内とは思えないほど信号と街灯が少なく、日が暮れると薄気味悪さすら感じる。

 鎌鍛 ーカマカジー

 プレハブで出来た建物が二棟並んでいる、右の棟には入口が見当たらず窓すら無いので左の建物の中からしか入れない造りになってると思う。

 左の建物の正面は、格子付のすりガラスでスライドドア式の玄関になっていてインターホンも備えついている。

 祈りながらチャイムを鳴らす、いつも通りインターホンからの応答無い。

 今日の勝碁には目当ての女性と会える、根拠と自信があった。

 根拠はPIZZA-LANDの先輩達でも気付いてる人は少ないと思うが、ハズレ(女性以外)を引く可能性が高いのは昼間の注文であること、高校生の勝碁は土日を除いたら授業後にしかシフトが入れないので夕方からの勤務が中心となる、それゆえ勝碁が担当した過去三回の鎌鍛への配達の内、二回女性に当たっていて一回は誰も出てこず強制キャンセルとなり引き返した。

 自信はシフト時間オーバーによる自己犠牲で、会えなければ困るといった、オカルト寄りの願望だ。

 

 カツッ、カツ 建物から音が聞こえて来て徐々に近づく、玄関の電気がつき、シルエットが浮かぶ。

 ガラガラッ

 「ごめんなさーい、またせちゃって」

 「・・・あっお待たせしました、PIZZA-LANDです」

 勝碁は衝撃に言葉が詰まってしまった、求めていた人物だが、これまでとは違う姿。

 胸元まで長かったはずの髪の毛がバッサリ短く肩上辺りまでになって、更には眼鏡の装着、極めつけは松葉杖だ。

 顔をよく見ると目元や頬に引っ掻き傷のような物も見当たる、右足にはギブスらしき物を付けて後ろに浮かせている、先程建物から聞こえたのは松葉杖をつく音だったのだど理解した。

 「あっ脚、大丈夫ですか?」

 勝碁に取っては配達どころじゃない。

 「あぁ、これ?全然全然、怪我慣れっこだから」

 女性が明るく振る舞う。

 「あっすいません、これご注文頂きましたピザです、あっ中まで運びましょうか?」

 「平気平気、ここ置いちゃってください」

 女性が下駄箱らしき棚の上を叩く。

 「あっお財布忘れた、すいません、ちょっと待っててください」

 女性が杖を使わずケンケンで家の奥へと移動をしていく。

 「あっすいません、全然ゆっくりで大丈夫っす」

 勝碁は心配して声を掛けるのと同時に、自分の両手の親指と人差し指を互い違いにくっつけ、横長の長方形のフレームを意識したものを造り、それを右目に近づける。

 財布を取りに行く女性の後ろ姿を指で造ったフレーム内に収め瞬きをする。カシャッ


 少ししてまだ財布を取りに道中だった女性が振り向く。

 「あれ?今地震あった?」

 勝碁はドキッとしたが、表情はなるべく崩さずに「いやぁー、俺はあんま揺れた感じしなかったです」と答えた。

 女性が財布を手に持ちケンケンで戻ってくる。

 「はい、5000円からでお願いします」

 「ありがとうございます、30円のお返しです、っとあとコレ」

 勝碁がポーチから小銭と共にある紙を取り出す、相手が骨折している状況は想定外で若干の後ろめたさもあったが、何日も前から計算していた取って置きの策だった。

 「ウチの店のシステムちょっと古くて会社名とかだと会員登録出来ないんですよ、注文頂いてる回数多いんで、もしよかったらここに名前とか情報貰ってもいいですか? 書いて貰ったらサイドメニューの無料サービスクーポンお渡し出来るんで」

(今の自然だったよな? 変な感じじゃなかったよな?)

 「えぇーやったー全然書きますよ」

 この日の為に何度も家でシュミレーションを行ったのが報われた。

 数秒して記入が終わった用紙が勝碁に手渡される。

 生年月日:1989年10月10日

(あぁ、四つ上か予想通りだ)

 氏名:海野 牡蠣

 ふりがな:うみの かき

 「かき?」

 自覚はないが、声に出てしまった。

 「うん、かきっていうの」

 「めっちゃ良い名前ですね」

 「そう?ありがと」


 陰湿な方法とはなったが、意中の相手の個人情報を入手した勝碁はかつてない高揚感に満たされていた。

 

 東京都足立区 竹ノ塚駅

 プルルルルルルー

 アナウンス「間もなく扉が閉まります、無理な乗車はご遠慮ください」

 バイトが終わりクラスメイトと待ち合わせしているボーリング場に向かう勝碁は駅ホームから改札へ向け階段を登っていた。

 「あぁぁ~ 待って、待ってぇ~」

 ドンッ!

 急ぎ足で下ってくる小太りのサラリーマンと勝碁の肩がぶつかる、特別腹が立った訳ではないが、間もなく階段を降りきろうとする、そのサラリーマンの後ろに姿を数時間前、海野 牡蠣に行ったのと同様に両手の親指と人差し指でフレームを造り右目で覗き込み瞬きをする。

 

 約一秒、そのサラリーマンの動きが止まり、電車には間に合わなかった。


 「あぁー、もうなんだよ!」

 その声は一つ上の改札階にも聞こえた。


 「バァーカ」

 勝碁が小声で罵る。


 彼のフレームに収まった物は約一秒間、時間が止まってしまう。


 

 

 

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