やっぱり、こうなるんだ
「・・・やっぱり、こうなるんだ」
わたしは再び、冒険者に乗り移っていた。
三度目ともなれば、少しは余裕も出る。わたしは、大きな木の影から戦闘の状況を確認した。
「この、賊どもが!」
「どなたの馬車と知っての狼藉か!」
「ああん、知らねえな!」
「ひゃっはーーっ!」
森の中を通る街道の途中で、盗賊団と思しき連中が馬車を襲っている。
この冒険者は、街と街の間をひとりで移動している途中に、たまたま事件に遭遇してしまったようだ。
持ち前の嗅覚で、危険を察知したのだろう。すぐに木陰に身を隠し、盗賊たちに発見されることを防いだ。
「ありゃ、このところ暴れてるダークパイソンの連中じゃねえか・・・不運だったな」
おっさんは、じりじりと距離をとりながらも、決して盗賊たちの動向からは目をはなさない。
盗賊側は20人近く。それに対して、護衛は5人程度。護衛側のほうが装備がよいが、さすがに多勢に無勢だ。ひとり、ふたりと護衛がたおされ、じりじりと追い詰められていく。
「ダメか」
ついに、最後の護衛が打ち倒された。
盗賊の一人が馬を降り、馬車へと近寄った。乱暴に扉をあけると、別の盗賊が中へと入っていく。
「やめてください!」
その盗賊が引っ張り出したのは、すみれ色のドレスを着た銀髪の少女だった。背丈は姉様より少し高い。おそらく、同じくらいの年頃だろう。
「やかましい、おとなしくしろ!」
盗賊の男が、力づくで少女を地面へと転がした。
「こいつは上玉だな・・・」
一番大きな馬にのった体格のいい男は、少女の前へとやってくると、少女をつまさきから頭の上まで舐めるように見まわした。
「ひ、控えなさい、わたしを誰だと思っているの!」
「威勢がいいじゃねえか。こいつは躾けてやらねえとな。おい、やれ!」
「へい!」
男たちが少女の両手をつかみ、そのまま地面に押し倒す。
「や、やめなさい。こんなことをして、無事で済むとおもっているの!」
「いいねえ。強気な女は嫌いじゃねえ。だが、いつまで続くかな?」
「や、やめて!!」
バシッ
男が少女を殴る。
「くっくっく、おとなしくなったな。やっぱ、女は体に覚えさせるのが一番だぜ」
「い、いや・・・」
男が少女の服を乱暴につかむ。
ビリビリと、服が破ける音がした。
「おねがい、やめて・・・」
少女の消え入るような声が聞こえた。
「ひっひっひ!」
男の下品な笑い声が響く。
ドクン・・・
そのとき、わたしの頭に血が上る音がした・・・気がする。
「やめろーーー!!!」
・・・ってなわけで、気がついたら盗賊は全滅していた。
目眩しの光魔法をうちこんでから、足元を泥にして移動能力を奪い、あとはひとりずつ石礫をぶつけて倒していった。
ボスっぽい男が、少女を人質に取ろうとしたようだけど、泥に電撃を流して痺れさせてその場に転がし、トドメに上から岩をおとしてやった。
今も岩を抱いたまま倒れてるけど、無駄に頑丈そうだし死んではいないだろう。
他の連中も逃すと面倒なので、巨大な岩の檻を作ってその中に放り込んでやった。
それから、倒れている兵士たちを治療して回った。途中で意識がもどった人もいた。間近で顔をみられては面倒だと思い、わたしは急いで口元を手拭いで覆った。
「ど、どなたかご存知ありませんが、お助けいただきありがとうございます」
地面から起き上がれないでいた金髪の少女を、わたしが後ろからそっと抱えて起き上がらせると、彼女は深々と頭を下げた。
「礼には及びません」
わたしはささっと距離をとり、くぐもった声で答える。顔や声を覚えられると、いろいろと面倒なことになりそうだからだ。
「ぜひ、当家までお越しください。お礼をさせていただきたく思います」
「すみません、わたしは先を急ぎますので・・・」
「あ、あの!」
「それでは、お気をつけてーー!!」
わたしは急いでその場を走り去る。
「待ってください!」
いやいや、待てと言われて待つ人がいるわけがないでしょ?
誰だか知らないけど、元気でね。お嬢様!
そうして、わたしは華麗に走り去った。
つもりだった。
「あ・・・」
ぐしゃ
視界が歪み、わたしはその場に倒れ込んだ。
「大丈夫ですか!!」
水色のドレスの少女の声が近づいてくる。
・・・タイムリミットに間に合わなかったかー
わたしは意識を失った。