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ラブソングス

魔法学校に通う魔法オタク女子が自分で発明した薬で透明になったところ、憧れの生徒会長の独り言を聞いてしまった

作者: 間咲正樹

「リディ、またこんな時間までやってるのかい?」

「あっ、アベル先輩!」


 研究室で一人、新薬の開発をしていたところ、生徒会長であるアベル先輩に見つかってしまった。

 恐ろしいほどに整った、女性かと見紛うくらいお美しい顔にかかったメガネがキラリと光っている。


「あはは、もう少しで完成しそうなので。こ、これが終わったらすぐに帰りますから!」

「うん、あまり根を詰めすぎないようにね。研究熱心なのはいいことだけど、それで身体を壊したら元も子もないから」

「はい! 重々承知しておりまっす!」


 ビシッと敬礼のポーズを取る。


「フフ」


 思わず見蕩れそうになる甘い微笑を浮かべながら、アベル先輩は研究室から出て行った。

 はぁ……、今日も先輩はカッコイイなぁ……。

 先輩はきっと、私の気なんか知らないんだろうなぁ……。


 私がこの魔法学校に入学した初日。

 入学式でアベル先輩が披露した、芸術的とも言える美しい魔法の数々に、私は一目で心を奪われた。

 それ以来、先輩に注目してもらいたい一心で、今日まで魔法の勉強にひたすら打ち込んできた。

 でも元々魔法の研究だけが趣味の魔法オタクだった私には、まったく苦じゃなかった。

 それどころか、最近では先輩にすっかり名前も覚えてもらえて、尚更モチベーションはガン上がりしている。

 今日もあと少しで、ずっと開発してきた新薬が完成というところまできていた。

 ――が、


「あれぇ? おかしいなぁ?」


 仕上げの魔法式の付与のところだけが何度やっても上手くいかない。

 理論上はこれで合ってるはずなのに……。

 結局試行錯誤は、すっかり日が沈むまで続いた――。




「天使のように妖しく

 悪魔のように優しく

 空のように狭く

 海のように浅く

 太陽のように近く

 月のように遠く

 我が身を隔絶の霧で包まん

 ――【隔絶の霧(ペルソナミスト)】」


 魔法式を付与した薬液が黒く変色した。

 やった!

 やっと完成した!

 なるほど、五行目と六行目を天属性にする必要があったのね。

 これはまた一つ勉強になったわ。


「さて、と」


 早速実験してみなきゃね。

 もしもこれが成功してたら、アベル先輩から「凄い! 君は天才だよリディ! その上可愛くてキュートでプリティーで、抱きしめたいくらいだよ!」って言われちゃうかも。

 ぐへへへへ……。


「よーし、いったれえええ!!!」


 私は薬液を一気飲みした。

 ――すると、


「ぐあっ!? あ、熱い……!!」


 身体中の血が沸騰してるんじゃないかってくらいの熱で包まれた。

 副作用があることは覚悟してたけど、まさかここまでとは……!


「――おおっ!?」


 が、見る見るうちに身体が服ごと透けていった。

 イエス!

 実験成功!

 これぞ透明になれる薬――名付けて【隔絶の霧(ペルソナミスト)】!

 いやあ、マジで私って天才かも!

 ふふふ、これはアベル先輩もビックリするわよぉ。


「リディ、まだ帰ってなかったの……あれ? いない?」

「――!」


 その時だった。

 おあつらえ向きに、アベル先輩が再度やって来た。

 うふふふふ、困惑してる先輩のお顔も素敵だわぁ。

 実験も兼ねて、もっと近くで見ちゃおーっと!


「おかしいな。まだ実験器具はそのままだし、帰ってはいないと思うんだけど」


 ええ、ええ、私はこうして先輩の目の前にいますよ!

 これだけ近付いても気付かれないなんて、【隔絶の霧(ペルソナミスト)】の効果は抜群みたいね!

 嗚呼、自分の才能が怖い……!


「……ふぅ、リディ」

「……!?」


 おもむろに先輩は私が座っていた椅子に座り、机に突っ伏して深い溜め息を吐いた。

 先輩??


「こんなに僕は君のことが好きなのに、君は僕の気も知らないで……」

「――!?!?」


 えーーー!?!?!?

 アベル先輩、いいいいい今、何とおおおおおお!?!?!?


「いつも魔法の研究に一生懸命な君にすっかり心を奪われて早や数ヶ月。こんなに毎日アプローチしてるのに、君ったら僕の気持ちに一向に気付いてくれないんだから」


 んおおおおおおおおお!?!?!?

 ヤバいヤバいヤバいマジヤバいッ!?!?

 何これ副作用で見てる幻覚!?

 その割には随分リアルだけど……。

 嗚呼、今すぐ全力で叫びたいけど、そんなことしたら先輩にバレちゃうしいいいい!!!!


「リディ、君は間違いなく天才だ。その上可愛くてキュートでプリティーで、ギュッと抱きしめたいのを僕はいつも我慢しているんだよ?」

「っ!!」


 おもむろに立ち上がった先輩は、壁際に立っている私の目の前に来て退路を塞いだ。

 あれ??

 先輩もしかして私のこと見えてます??

 しかも台詞もさっき私が妄想したのとほとんど同じだし、マジでこれ、幻覚なのでは……。


「ねえ、君の気持ちを聞かせてよ。僕だけを見てよ。――どうか、僕だけのものになってよ」

「~~~!!!」


 先輩は右手を突き出し、壁ドンのような体勢になった。

 ぴゃああああああああ!!!!

 いやもちろん私は先輩のことが大好きですしいつも先輩だけを見てますし生涯をあなたに捧げたいと思っていますけどおおおおおお!!!!


「――!!?」


 その時だった。

 またしても身体中の血が沸騰してるんじゃないかってくらいの熱で包まれた。

 こ、これは……!!


「――!! ……リディ」

「あ、あははは……。どうも、アベル先輩」


 私の身体は瞬く間に元に戻ってしまった。

 ううん、どうやら魔法式の付与が不十分だったみたいね。

 これはまだまだ研究の余地がありそうだわ、うんうん。


「……フフ、悪い子だね。ずっと僕の愛の告白を盗み聞きしていたのかい?」


 私の顎をクイと持ち上げて、宝石のような碧い瞳でメガネ越しに私を見つめる先輩。


「い、いやぁ、誓ってそんなつもりはなかったんですが、不慮の事故というか、何というか……」


 いろんな意味で目を合わせられない私は、光の速さで目を泳がせる。


「フム、それならしょうがないか。――じゃあ、返事を聞かせてくれるよね?」

「そ、それは! えーっと」


 5秒以上見つめていたら目が潰れるんじゃないかってくらいお美しいお顔が、目と鼻の先にグイと近付く。

 ひえええええええええ!!!!


「――僕は君が好きだよ、リディ。どうか僕と、付き合ってほしい」

「――!」


 ア、アベル先輩……。


「……わ、私、も……」

「――!」

「私も、アベル先輩が好きですッ!」

「……リディ」


 一度溢れだした想いは、どんな魔法でも止められない。


「私もずっと、先輩のことが好きでした! 先輩に振り向いてもらいたくて、魔法の勉強もずっと頑張ってきたんです! 私にとって、先輩は憧れの星です! ど、どうか私を、先輩の彼女にしてくだしゃいッ! ……あっ!?」


 最後の最後で噛んじゃったッ!

 どうして私はいつも、詰めが甘いのよおおおおおお!!!!


「フフ、ありがとう、リディ。一生大切にするね」

「せ、先輩……!」


 アベル先輩は天使みたいに甘く微笑んだ。

 ゆっくりと迫る先輩の唇を、私は目を閉じて受け入れた。



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©MAG Garden
― 新着の感想 ―
[良い点] 言い値で買おう!
[良い点] 5行目と6行目を天属性のくだりのところ特にすこです! [気になる点] アベル先輩腹黒そうなのでリディの今後が心配です>< [一言] テンポも非常によくめちゃくちゃ読みやすく面白かったです!…
[一言] ぇ?結局先輩には見えてたん? 見えてないのに壁ドンしたなら…まさにミラクル!(笑)
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