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「技がどうとか才能がどうとか抜かす前に、努力が必要なんだよ」

 ニ久野屋とは、丼系のメニューが充実したチェーン店である。関東にだけ店舗を構えている事、そして魔物肉を使ったジビエ丼を始めて一般客に提供したお店だ。

 この店の最大の特徴が、ダンジョンを所有している企業の一つであり、正社員の多くが探索者としての資格を少なくとも有している。

 だが、8年前にダンジョンの異常事態により、専属の探索者は対応できず、フリーの探索者達が企業と縁を切った影響で、魔物肉の提供が出来ず、業績を大きく落とし、三年前に、潰れかけるも、すぐに業績を上げ続けている。

そんな奇跡的大復活を遂げたニ久野屋であるが、その復活劇の立役者が、無銘のプラチナランク探索者が、専属探索者となったと噂されている。


~~~~~~


「技がどうとか才能がどうとか抜かす前に、努力の積み重ねが重要なんだよ」

「いきなりどうした?」


 帰宅途中の照と長門は、現在高校から少し離れた距離のケーキ屋に向かって歩いている。

照がレポートを手伝ってもらったお詫びで、照の妹――――真帆が好きなケーキを買うことにしたからだ。長門は、徹夜明けで寝ぼけている照の付き添いである。

 その照が、長門に対して何か演説染みたことを言い始めた。


「新たな挑戦に挑み続けることは、いつだって尊いもので大事なことだけど、それでも数十年と言う教材に書かれてある先人の技術を伸ばすことこそが、いま必要であると思うんだ」

「まあ、そうだな。武器職人としても先人が作った技術を基礎に、徹底して初めて自分のやり方が見えてくるし」

「自分のやり方、そう、自分達の方法を確立させる術を身に着く一番の近道、それの元となるのは、探索者にも武器職人にも、いや全てのものに通ずる一つの心理と言えるよね?」

「ああ、そうだな。その通りだ」

「うんうん」


 満足そうに頷く照。


「(そういう事か)」


この演説は、武器職人と探索者である俺達に共通するものを再確認させるために、言っていると確信した長門。

現在探索者ギルドでも一部の職員や上層部、一部の関係者しか知らない一般公表されていないが、プラチナランク探索者として恥じない実力を持つ照。

世界に50人もいない。日本に限ったら公式で4人しかいない世界最上位の規格外な力を持つ探索者達と同等の実力を秘めた彼の演説を独り占めしている事に、長門はどこか罪悪感を覚えてしまう。

しかし、彼の罪悪感は悪い意味で大きく外れることとなった。


「つまり、牛肉の独特な旨味と玉ねぎの旨味成分が、ニ久野屋直伝のタレが絡み合い、そこにチーズの塩ッ気が加わったチーズ牛丼は今のままでも十分に美味いと言えるけど、まだまだ先人の技術を徹底することでさらなる進化ができると度々思うんだ。最近の新メニューじゃ、キムチネギチーズ牛丼やチーズゴマダレ牛丼、にんにくマシマシ辛子チーズ牛丼とチャレンジしてきたニ久野屋だが、そろそろ原点の牛丼とチーズにアプローチするべきだと、初めて参加する報告会で言おうと思うだけど、どう思う?」

「どうでもいいわ!!!」


 バコンっと、どこから取り出したかわからない鉄バットを振りかぶり、思いっきり突っ込みを入れた長門であった。


※注意:良い子も悪い子もバットを、人に振りかぶらないようにしましょう


~~~~~~


「......」

「ごめんって!」

「......」

「何言ったか覚えてないけど、眠くて、頭が回らず何も考えてなかったから、何か嫌なことを言ってたなら、謝るから!!」

「......はぁ」


 普通なら流血沙汰になりかねない突っ込みを受けた照は、普通なら永遠の眠りになりかねない所を、むしろ眠気を覚めたかのように、正常に戻る。先ほどの演説も眠気で頭が回らないため、思っていた事が出てしまった様子だ。

 そんなケーキを買ってからも未だに謝り続ける照に、ため息をつきようやく口を開く。


「まあ、お前がどうしようもないバカなのは、知ってるからもういい」

「え、そこまで「ああ?」すみません。僕はどうしようもないバカです」


 猪熊のキレた時は、なんともなさそうだった照だが、長門がキレると怖いと感じるようだ。


「で、お前二久野屋本店が所有するダンジョンで、魔物肉を採取する企業専属探索者ってことじゃなかったか?」

「あれ、僕そんなことを口走っていたんだ?うん、最初はそうだったけどニか月位前から、牛丼のメニューを作る部署の人から相談を受けることになってさ。最初は味の感想とか簡単なものだったんだけど、本格的に部署所属ってことになって、最近じゃ週一の報告会で意見を言ったりすることになって。他のメニューは大分一新できたけど、チーズ牛丼系は難航しちゃって、昨日食べていたら思い浮かんだんだ」

「さいで(...こいつ、意外と人脈あるのな)」


 長門は、照のよくわからない人脈とポテンシャルに、何も言えなくなった。


その後、分かれ道で二人は別れた。


 照はのんびりと帰路についていると、前方から照とは別の高校の女生徒が突き飛ばされている現場を見る。どうも、財布を盗もうとしてバレた男性が、女生徒を突き飛ばした様子。

その盗人の男性は、照がいる方に向かって走ってくる。


「ガキ、邪魔だ!」


 ドスンと、押され多少よろける照。特に追うような事はせず、そのまま帰路に戻り早足で歩き出す。

途中財布を盗まれた女生徒の横を通り過ぎる際に、照は盗人から奪ったレディース財布を無造作に女生徒の目の前に落とした。

 

「え?あれ?え?」


 いきなり自身の財布が戻ってきたことへの、驚きで固まりお礼を言おうとするも、既に照はいなかった。代りに「痛でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」と、野太い叫び声が響いた。


そんなこと知らない、照は買ったケーキが入っている袋を見て、「ケーキ崩れてないかな」と、お気楽に呟いていた。


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