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「チー牛好きに、人権がないって法律はないよ?」

 ダンジョン探索者には、ランク制度が存在する。

 一般常識としてランクは、レギュラーランク、ファースト、ブロンズランク、シルバーランク、ゴールドランク、プラチナランクの六種類。

 

 全探索者人口、一億人近くいるが、その内7割弱はレギュラーランクである。また、専業プロ探索者と呼ばれるのは、ファーストランクから上とされている。

 更に、追記するとブロンドランクからゴールドランクまでは、実力や人気、貢献度などに応じてランキング形式にされている。

レギュラーランクには1から5の等級に分けられており、五級探索者が初心者、一級探索者で新人プロレベルと言った感じだ。

等級やファーストランクに上がるには、ダンジョン探索者ギルドが行う試験に合格すること。対して、ブロンズランクより上になるには、相応の実績や偉業を成し遂げることが必要である。


 ランクや等級によっては、入れるダンジョンやダンジョン内の階層に制限がかけられているのは、実力が備わっていない者を守るためである


~~~~~~



 本日は金曜日。放課後のチャイムがなり、ぞろぞろと帰る支度をする生徒達。


「ふぁ~ぁ」

「今日は、ずっと眠そうだな」


 そんな、自分の席で欠伸をする照に、数少ない友人水島長門が話しかける。

 

「いや~、家に帰った後で今日提出する公民の宿題やってないのを思い出してさ」

「ああ、なるほど。今回はレポートだったからな」

「うん。最終的に、真帆にも手伝ってもらってどうにかできたけど、寝る時間がなかった」

「自業自得だ、バカ野郎。しかも、妹に手伝ってもらうって、兄の威厳が無さすぎだろ」

「いいの、いいの。威厳何て小学生の時から無いし、頭の出来が違い過ぎる妹がいると、上はとても大変なんだぞ」

「俺は、弟だからわからない感情だな」


 帰る支度をしながら、談笑する照と長門。そんな二人に髪色が派手な男子生徒が近づいてくる。


「おうおう、“チー牛”と“なんちゃって武器職人”のお二人さん。また、意識高い系(笑)なダンジョンの話をしてんのか?話だけじゃなくて、行動に移せばいいのに。あ、悪ぃ悪ぃ、お前らは」

「お前には関係ない話だろ」

「僕が、宿題忘れそうになった話をしてただけだよ」


 照と長門を馬鹿にした態度で話しかけてきた派手な男子生徒――――猪熊雄大(いのくまゆうだい)に、長門は若干の敵意を込めて、照は普段と変わらない口調でと、正反対な態度で返す。

 雄大は二人の態度、特に長門の反抗的な態度が気にくわず、醜悪な感情を漏らしながら、憎々しくつぶやいた。


「ちっ、”ダンジョン不適合者”の癖に...」


 その言葉に、長門は目つきが普段より更に鋭くする。一触即発の雰囲気を感じて、照が間に入る。


「ストップ!ストップ!長門抑えて!それと猪熊君、僕達に何か用事でもあったんじゃないかな?」

「...ああ、そうだった。自称武器職人の態度に忘れる所だったぜ」


 猪熊の煽る口調に、再び目を鋭くする長門を宥める照。そんな照のことを、知らずに猪熊は、自身の要件を照に向かって話す。


「仲木、お前明日俺のチームの荷物持ちとして、ダンジョンに行くぞ!!」

「あ、無理。バイトがあるから」

「......は?」


 照が、断らるとは考えてもいなかった猪熊は、ポカーンとした表情になる。猪熊の予想外な表情に、長門は先ほどの怒りの感情が消え、笑いをこらえている。

二人の態度に疑問を覚える照は、ハテナマークを頭に浮かべながら、どうしたのかと尋ねようとすると、


「な、な、なあぁぁぁぁ!!!」

「うわぁ、何?!何で叫んでるの?!」

「てんめぇ!!チー牛野郎の癖に、なめてんのか?!」

「別になめてないけど」

「猪熊に対するその態度が、なめてるって言うんだよ!!」

「チー牛野郎の都合何て、知るかよ!!お前なんて、はいかYesだけ言ってればいいんだ!!」


 面倒なことに、猪熊の取り巻きである猫崎と犬塚の二人が照に向かってかみついてくる。そんな彼らの言動に、何言っているんだろうこいつらと、疑問を浮かべる照。その照の態度により怒りを覚える猪熊とさらにヒートアップする。

 加えると、照の後ろに下がった長門は猪熊らの逆ギレぶりと、照の天然具合にツボがはいり、声を殺してお腹を押さえて笑っている。


「チー牛野郎、俺はすでに二級探索者だぞ!!」

「ああ、うん。そうなんだ。すごいね?」


 学内でも、等級が二級以上の探索者は自分を除いて十人もいないこと、それも高校一年生になって3か月である一年生内で、二級を取っているのは二人しかいないこと、チンケなプライドから、完全にブチギレた猪熊。

 ついでに補足すると、二級は高校卒業まじかでも取れる人が少ない等級であり、入学して3か月の猪熊は、かなり優秀な探索者と評価できる。


「ぐぐぐ、てめぇみてぇな、探索者もどきのチー牛野郎は、素直に強ぇ奴に従ってればいいものを!!」

「あのさ、猪熊君。一つ言いたいんだけど」

「ああん!!!」


 怒り狂ったかのような猪熊に、いつも通りの態度で照は、一泊置いて口を開いた。


「チー牛好きに、人権がないって法律はないよ?」

「?!!??!!!?!!!?!!!」


 照の言葉に、怒りに我を忘れ力一杯に殴りかかろうとする猪熊。


(斬るのはまずいし、躱して......ん?)


 と照は瞬時に考えていると、猪熊が殴りかかろうとした腕をつかみ止めた者に目を向けた。


「アアァ!何しやが、る」

「流石に、クラスメイト達の暴動は、見過ごせないな」


 猪熊の腕を止めた男子生徒――――天津亮一(あまつりょういち)を見て、声のトーンが下がり、顔を青ざめる猪熊。


「猪熊この件は、俺の顔に免じて拳を下げてくれないか?もし、それでもやると言うなら、俺が相手をしよう」

「い、いや!わかった、拳を下げる!!」


 そう言って、二人の取り巻きと一緒に荷物を持って教室を出ていった。一瞬静まった教室の声が、次の瞬間騒ぎ出す。


「天津君カッコいい!!」

「も~う、私凄くしびれちゃった!ドラマのワンシーン見ているみたいで!!」

「そうだよね!なんて言ってもスマートに喧嘩を止めるなんて、流石王子様!!」

「スゲェ、これが一級探索者!」

「ああ、あの猪熊を一瞬で止めるなんて!!」

「やっぱ、俺達とは別次元の才能だよなあ~」


 と、女子の黄色い声と男子の歓声を上げる。そんな彼らにファンサービスをするかのように、天津は軽く手を振る。振り終えると、照と長門の方へと向き直し、


「二人とも、危なかったね」

「天津君、ありがとう助かったよ」

「(ボソッ)まったく問題なかったがな」

「あれ、水島なんか言ったかい?」

「なんでも。サンキュー天津」

「あ、あはははは」


爽やかな天津の雰囲気、陽キャ全開のオーラにやや居心地の悪そうになる陰キャ寄りな二人。相性が悪い。そのことをわかっていない天津が「それにしても」と前置きを言い、


「水島、あまり敵意を向けるのは、猪熊達に得策じゃない。こちらが、ある程度大人の対応を取っておけば、あいつらだって根は悪い奴じゃないんだから、わかってもらえるさ」

「あ、ああ。気を付ける。(こいつのこういうと苦手だ)」

「それと、仲木。あいつらの申し出、断ってよかったのか?学内でも上位の二級探索者が率いるチームの戦いは探索者としてためになると思うが。もしかして、ダンジョンの異常事態が起きたことを気にしているなら、流石にあいつらも交友も多い君相手に、見捨てないから問題ないと思うぞ」

「う、うん。バイトの方が大事だから(いやいや、そういう時は絶対見捨てるってあいつらは)」

「そうか...いや、もし予定が空いてそうなら、今度俺の友人達とダンジョンに行こうか?勿論、荷物持ちとかじゃなくて、ただの見学って形の同行ならどうだろう?仮にも俺は一級探索者だから、多少ためになると思うぞ」


 一人勝手に、盛り上がりを見せる天津。善性の高さと人を疑わない性格。なにより、いい意味でも悪い意味でもお人好し過ぎる点から、特に長門が苦手意識を抱いている。


「天津ちょっといいか?」

「何だい?」

「照のバイトだが、表向きバイトって言っているけど、高卒後に内定が決まっている企業で、こいつは既に働いているんだよ」

「へ?ほ、本当に?」

「うん。ニ久野屋のある店舗スタッフって形で、雇ってもらってるよ。表向きにはバイト扱いだけど、正式な雇用としては、今の所準正社員って形で、学校が無い日や問題ない時間帯で働いているんだ。一応、野沢先生とか校長にも直接話し合いがあったから、聞けば証明してくれるはずだけど」

「す、すごいじゃないか!!」

「まあ、運が良いっていうか、元々は高校三年になってから面接予定だったんだけど、チーズ牛丼の熱意を伝えたら、今の形になっちゃって」

「いや、好きなことに全力でアピールできるのはとても素晴らしいことだよ!」

「補足するとこいつが、探索者の資格を持っている理由も、ニ久野屋の高級魔物ジビエには、魔物の解体技術が必須だからな。探索者の資格は必須らしいぞ」

「ソロの探索者として動いてるのは、たまたま空いた時の小遣い稼ぎのためだから、そこまで探索者の職にこだわっていないんだ。折角誘ってくれたのにごめん」

「いやいや、納得した。そういう事なら、仕方ない。しかし、クラスメイトの交流になると、思っていたが、何か別の形ならいいかな?」

「うん、それなら大丈夫」


 うんうんと、天津は嬉しそうに頷く。すると、天津の友人達に呼ばれて、天津は「じゃあ、また来週に!」と教室を出て友人達の元に走っていった。

 中心となっていた天津が居なくなり、残された二人にいくつか視線がきて、照は気まずそうになる。


「照、早く帰ろうぜ」

「ああ」


 そそくさと、二人は教室を出ていく。どうでもいい話をしながら、早足で歩き教室から離れていく。校舎を出て、しばらくすると、真面目なトーンで長門が、照に問いかける。


「照、お前ならあの二級と一級の二人、どれくらいで切れる?」

「物騒な事いきなり言われても...... そもそも僕は、通り魔とかじゃないんだけど」

「あくまで、目安の話だよ。少なくとも、俺が見てきた探索者は、明らかにあいつらより強いのは、俺でもわかっていたけど、お前クラスだとどう感じるか、職人として少し気になったんだよ」

「う~ん、そうだね」


 と、照は軽く首を傾け、


「両方とも一秒未満で細切れかな?天津君は、少しだけ均等に切れないかも」


 照が、一瞬浮かべた眼光に、長門は周囲を全て切り裂くような錯覚を見えた。息を吸うのを、忘れかけるほどの殺気。それさえも、照の力の上澄みと言えるもので、


「.........、流石プラチナ(規格外)


 少し離れた友人に、長門は駆けていった。


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