「チーズ牛丼特盛チーズマシマシネギだくで!!!」
暗い洞窟のような空間。そこに、童顔でぱっとしない顔つきの青年―――仲木照が、三匹の牛のような怪物、ミノタウロスに襲われていた。
否、照はまるで雲のように、ミノタウロス達の攻撃をゆったりと避けながら、右手のナイフで撫でるように振るう。
ミノタウロス達に背を向けながら、距離として十歩ほどの位置について、無防備にポケットから、端末を取り出した。
「これで、ひーふーみー、おお丁度20匹だ」
「「「ぶもぉ~~~~~~~~~!!!!!!」」」
照を再び襲い掛かろうとミノタウロス達が、動こうとするもほんの一瞬、動きを止まり、ミノタウロス達の体がずれ始める。そこで、ミノタウロス達は、自分達が切られた事を、そして手を出してはいけない相手だったことを知った。
ミノタウロスは、首がはねられ、もう一体は胴と足が切断され、またある一体は体の真ん中から両断されている。
「さっ、回収~回収~っと」
まるで、先ほどの異常な光景を生み出した人間とは思えない様子で、ゴム手袋をしながら、今回依頼内容の採取箇所を取っていく照。
ミノタウロス達の角、眼球など依頼された採取箇所を、慣れた手つきで採っていき、入る容量が明らかにおかしいショルダーバックに入れていく。
ついでとばかりに、ミノタウロスが持っていた鈍器や斧、大剣をバックの入り口に入る大きさまで、切り裂いてから入れる。
照は作業が終わり、時間を見るために端末をのぞき込むと、端末には「19:15」と表示されていた。
「ん~、よし、いい時間に終われたな。混んでいない時間帯に行けるな」
嬉しそうな声で、呟く照は音もなくその場を立ち去って行った。
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照は、ダンジョンから現在の場所、『ダンジョン探索者ギルド 関東第三支部』に着き次第、依頼品を提出、備えのシャワー室で汗を流し終えていると、呼び出しを受けた。
「お?清算終わったんだ。早いな」
素早く着替え終え、受付先に向かう。
「お待たせ、照君」
「いえ、こちらこそ、遅れてすみません」
照の対応する受付嬢、小野寺ひまり。20代前後の美女と呼んでいい容姿の女性は、照と親しげな雰囲気で話している。
ひまりと照は、ダンジョン探索者になってからの付き合いであり、現在は専属に近い形で担当する頻度が高い。
「それにしても、相変わらず仕事が早いよね。このレベルの採取依頼って、4~5人のチームで、早くてもても丸一日はかかるのに。依頼受けてからまだ三時間もたってないよ?」
「そうですか?僕的には、ミノタウロスの探索で結構時間食った感じですけど。いや~、流石に疲れましたよ。主な確認場所である6か7階層に全然いないので、下の階層まで探す羽目になるとは思いませんでした。最後の三匹なんて10階層より下まで降りないと、見つからなかったんですから」
「もう、なんでそんな下の階層まで行って無傷で、帰れるのよ...」
ひまりは、呆れたかのようにこぼす。
そもそもダンジョンとは?
数十年前、いきなり現代社会に現れた異空間のことである。ダンジョンは出現当初、未知の狂暴な生物――――魔物や、存在しえなかった鉱物、大怪我を瞬時に治してしまう液体――――ポーションと言った物など、多くの謎と危険性を抱えていた。
しかし、とある製薬会社が開発した薬――――『D・Sナノマシン』を投与することで、ダンジョンから発生する魔素と呼ばれるものを吸収しやすくすることで、魔物との戦闘などを経験することで、超人染みた能力を手にすることができるようになった。
『D・Sナノマシン』を投与して、適応できたもの達が、ダンジョン内の探索及びダンジョン特有のものを採取する職業――――ダンジョン探索者が生まれた。
「まあ、照君だもんね。君に常識は通用しないか」
「小野寺さん、僕は結構常識人のつもりなんですが?」
「普通の人は、一人で潜らないし、こんな難しい依頼をこなせないんだよ。はい、依頼料の8万5千と、ミノタウロスその他多数の魔石換金料の3万8千円、あわせて12万3千円だよ」
「おお!結構稼げたんだ。ありがとうございます」
「いつも通り、1万以上の金額は指定の口座に、それ以外を渡しておくね」
「それで、お願いします」
「はい、3千円。それと口座番号の振込確認をお願いね」
「は~い」
慣れた流れに、二人はてきぱきと行い、振込確認を見た照は「おーけーです」と言う。
「でも本当にいいの?本来ならそこに魔物が使っていた武器の素材料金もあるのに。わざと細かくして、買い取り額を無くして、処分をお願いするなんて、私たちギルドやまだまだ駆け出しで余裕のない武器職人達からしたら、とてもありがたいけど」
「ああ、いいんですよ。採取目的でもない鉱物は、探索者には価値が無いですし。武器職人の人達の技術が少しでも上がれば、僕らの生存率は大きく上がりますしね」
「...ほんと照君って、そうゆうとこだよね。君の常識と普段の表情と頭とバカさ加減とおバカさんな思考回路がなければ、本当にモテそうなのにざんねんだなあ」
「え、なんで僕ディスらてるの?後、頭とバカさ加減とおバカさんな思考回路って、同じこと三度も繰り返すことありませんよね!」
「あははは、まあいいじゃない。それより、行くとこあるんでしょ?早く行かないと、高校生が、出歩ける時間じゃなくなるよ?」
「うぅぅ、また明日きますぅ」
照の苦々しい目を、しながらギルドを出ていった。そんな彼の背中を、にこやかに手を振るうひまり。そんなひまりに、他の受付嬢が声をかけてきた。
「ひまり、楽しそうね?」
「あ、胡桃先輩。こっちに来ていたんですか。...私、そんなに楽しそうに見えました?」
「ええ、すごく生き生きといじっていたわよ。さっきの子が“例の”探索者君?」
「仲木照君です」
「へぇ~、強そうには全然見えないけど、彼の依頼内容を見て驚いたわ。どうすれば、あんな短時間で達成できるのよ」
「私も、その辺りは知らないんですよね」
「そうなの。まあ、探索者の技は仕事の種だから、あまり検索できないわね」
「はい。でも、照君は聞いたらすぐ答えてくれそうなのが、怖いところですけど」
「あら?やっぱり、ツバをつけているのね」
「つけてないですよ!も~!!」
「ふふふ、あらあら慌てちゃって」
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ギルドから出た照が、向かった先は徒歩10分ほどの距離があるあるチェーン店だった。入り口上の看板にはでかでかと『ニ久野屋』と書かれてある。照は、迷いなく中に入ると、
「いらっしゃいませえ~~!!って、照!ダンジョン帰りか!!いつもの席、空いてるぞ!!」
「大崎店長、お疲れ様です」
大崎店長と呼ばれた大柄の中年男性――――大崎大和は、見知った顔の客ににやりと笑みを浮かべながら、照が良く座っている席へ目線を軽く向ける。
照も、慣れたように、いつもの席へ座る。
「ほれ、注文はどうするよ?少し待つか?」
「いえ、今日はこれって、ずっと決めてたんで、今注文いいですか?」
「おう、いいぞ」
大和の言葉を聞き、今日一番に嬉しそうな笑顔を向けながら照は注文する。
「チーズ牛丼特盛チーズマシマシネギだくで!!!」
「はいよ!!チーズ牛丼特盛チーズマシマシネギだく入りま~す!!」
これが、仲木照の日常だ。