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みどりご ゆりかご

掲載日:2023/01/16

「わぁ、海だぁ……!」


「来て、良かったですね」



8月半ば。


俺と蛭子(えびす)君は、休みを合わせて、海辺の宿に泊まりに来た。



「お父さん!お母さん!」


夏休みだからだろう、子供連れの家族の姿が目に付く。




蛭子(えびす)君は、俺の、三つ年下の、同性の恋人だ。


仕事は、産科医をしている。


保育士の俺とは、友達の紹介で知り合って、付き合い始めた。


付き合って数ヶ月()った頃、「一緒に暮らそう」って、彼の方から言われた時には、(おどろ)いた。


それから、同棲を始めて、もう、半年になる。


しっかり者の彼は、頼りない俺を、いつも支えてくれている。


時には、(けん)()する事もあるけれど、まぁ、上手く行ってると思う。




「ほら、ほら」


俺は、海が嬉しくて、素足を、浅瀬に(ひた)して歩く。


淡島(あわしま)さん、あんまり、海に近寄らないで。


 お盆は、水難事故が多いから」


「そうなの?」


「海に、足を引っ張られて、(おぼ)れるんですよ」


それは、ちょっと怖いな……。




(むつ)まじそうな、若い夫婦とすれ違う。


奥さんのお腹は、大きく(ふく)らんでいた。




波打ち際に、半透明のゼリー状の丸い物が、(いく)つも打ち上がっている。


「何、これ?」


俺は、その中の一つを、()まみ上げた。


水母(くらげ)です。


 不用意に(さわ)ると、刺されますよ」


「マジで? 危ねっ!」


思わず、沖へ放り投げた。




ミーン、ミン、ミン、ミン、ミーン……


オーシー、ツクツクツク、オーシー……



五月蝿(うるさ)い位の、(せみ)時雨(しぐれ)


夏、だなぁ。




日が暮れると、淡い光が、そこら中を、飛び交った。


「あっ、蛍だ!」


「わぁ……!」


俺達は、(しば)し、舞う光に、見()れた。




夜の浜辺で、線香花火に、火を()けた。



パチッ、パチッ……



「ふふっ、綺麗……」


こよりから、チカチカと、火花が散る。


俺は、うっとりと、光を見詰めた。


「あっ……」


花火の先端は、丸く膨らんで、()ぐに、地面にポトリと落ちてしまった。




夜の(とばり)も下りたので、宿の部屋に戻った。


風呂に入り、汗を流すと、(そろ)いの浴衣(ゆかた)に着替える。



宿の夕食は、温泉卵に、子持ちししゃも。



()(がた)きを堪え、忍び難きを忍び……』


時節柄、テレビから、玉音放送が聞こえる。




ドォン……


パァン……!



花火大会が、始まった。


窓辺に二人、並んで座る。



「綺麗、だね……」


「はい」



ドォン……


パァン……!



夜空に咲く大輪は、


光っては、消え。


光っては、消え。




俺と彼は、じっと見詰め合うと、


どちらからとも無く、(くちびる)を重ねた。



俺も彼も、何も言わなかったけれど、


それが、自然な事であるかの様に、


お互いを求め合い、まぐわった。




彼の律動が、速くなる。



「おぎゃあ、おぎゃあ」



遠くに、赤ん坊の泣き声が聞こえる。


あれは、母親を呼んでいるのか。



俺は、腹の上に、白濁(はくだく)を垂らす。


彼の熱が、俺の中に注がれる。



彼が、俺の中で、ビクン、と(ふる)えた。


俺は、白く汚れた、自らの腹を()でる。



「おぎゃあ、おぎゃあ」



あの声は。


母親を。





「うっ……うぅっ……!」



「淡島さん……?」



俺は、自分の平たい腹を(さす)り、はらはらと涙を流した。



彼は、何も()かず、


そんな俺を、優しく抱き()める。




彼の放った精が、



俺の内股を、



つぅ、と、伝い落ちた。




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