96 残り53日 勇者、王都を救いに戻る
勇者アキヒコ、魔術師ペコ、毒ドワーフギンタは天馬ペガサスにまたがり、王都を目指した。
王都にどんな脅威があり、ロンディーニャが助けを求めたのかわからない。
王都の手前でペガサスから降りることにした。もともと手前で地上に降りるつもりだったが、王都の手前の草原で、アキヒコは人々の集団を見つけたのだ。
ペコとギンタに合図し、アキヒコは地上に降りた。
すでに王都が視界にある。歩いて1時間とはかからない位置だった。
アキヒコとペコ、ギンタが近くに降りると、馬車で囲いを作り、その中でテントを張っているのだとわかった。
ペガサスを巣に帰らせて、アキヒコが馬車に近づく。
「誰だ?」
武装した兵士に声をかけられた。
「勇者アキヒコよ」
アキヒコの背後にいたペコが名乗る。名乗ったのは、当然自分の名前ではない。
「……勇者アキヒコだと? 魔王討伐のためにラーファに向かったと聞いたぞ」
兵士たちが集まってきた。きちんとした武装をしている。正規の兵士だ。
「ロンディーニャ姫に戻るよう言われたんだ。連絡の手段は言えないが……」
「いや……そこまで知りたくはない。勇者アキヒコのことは……知っている。なら、そっちは魔術師ペコだな」
「わしはギンタじゃ」
「君たちは、どうしたんだ? 王都が襲われているんじゃないのか? どうしてこんな場所にいる? テントの中にいるのは市民かい?」
ギンタの主張はあえて取り上げず、アキヒコが兵士に尋ねた。兵士は背後を振り向いた。
「王都に何が起きているか、聞いているんじゃないのか?」
「いや……ロンディーニャ姫からは、そこまでは聞いていない」
「最悪の連中が住み着いたんだ。ほとんどの市民はまだ町に残っているが……それでも、正気を保てず逃げ出す者が相次いだ。王の命令で、逃げたい市民を兵士が護衛して守ることになった。それが俺たちだ。逃げ出した市民は……2000人ぐらいだろう。この場所を魔物に見つかったらいい餌場だ。だから、俺たちがいる」
「……では、まだ王や姫は王城か?」
「ああ。最後まで逃げないだろう。最後まで……というのは、ご本人が死ぬまでかな」
「どんな奴らが住み着いたんだ?」
アキヒコが尋ねると、兵士は苦虫を噛み潰したような顔をした。しばらく経ってから、集まってきた別の兵士が答えた。
「人間を専門に食らう魔物と……人間を怖がらせるのが目的みたいな連中だな。それに……人間を恨んでいる奴ら……つまり、ゴブリンやオークみたいに、人間だろうと家畜だろうと御構い無しの奴らとは違って、人間っていう種族がいなければ、存在している意味がないって連中だ」
「……そいつらが住み着いたのか? そりゃ……迷惑だな。どうしてそんなことに……」
「魔王よ」
アキヒコの背後でペコが答えた。アキヒコと同時に兵士たちが視線を向ける。
「そいつらは、徒党を組んだりしたことはなかった。遥か昔……平和な王国に嫌気がさして、魔の山に引きこもったと言われている。徒党を組むことはなかったけど、同じような場所に固まっていたのよね。協力するような連中じゃなかったけど……もし、まとまって王都に住み着いたというなら、魔王の指示としか考えられないわ」
「……わかった。王都に乗り込む前に、情報が得られてよかった。なんとか……追い払ってみる。ロンディーニャ姫が僕に戻れと言ったんだ。方法があるんだと思う」
アキヒコが言うと、兵士たちが手を伸ばし、アキヒコはその手を握った。
「どうせなら、この周囲の魔物を狩って行ってくれ。オークあたりは食料にもなる。俺たちは遠くには出かけられないが、魔物の集団がいるかもしれない」
「わかった」
アキヒコはペコとギンタを連れ、周辺にいる野良の魔物たちを狩ってから王都に向かった。




