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81 残り61日 魔王、堕天使を解放する

 魔王ハルヒは、今度もまたお気に入りの椅子である赤鬼ノエルに腰掛け、謁見を行った。

 白皙の肌に金色の髪、均整のとれた肉体を白い布で覆ったその者は、背中に黒い翼を持っていた。


「では、お前が地獄の魔獣……たしか、ベヒーモスという名だったわね……を操って、地下帝国を滅ぼしたのね?」


 目の前の人間に似た存在は、堕天使サキエルと名乗った。サキエルは魔王にベヒーモスから救出してくれたことに感謝を述べ、ハルヒは結論した。

 堕天使サキエルは頭を下げたまま否定する。


「私は、ただベヒーモスの中に封印されていただけです。封印を解くには、ベヒーモスを殺す必要がありました」

「地獄の魔獣を殺せる者を求めて、地下帝国にベヒーモスをけしかけたということ?」


「仕方無かったのです。ベヒーモスを殺せる者を探すのに、ほかにどんな方法があるでしょうか」

「つまり……ベヒーモスの中に封印はされていたと言っても、中からべヒーモスを操ることはできたのね?」


「はい。それはもう、手足のように」

「貴様ぁ! それでは……あの時も……あの時も……あの時も……止められたということではないか!」


 ハルヒの背後でラミアが叫ぶ。ラミアと元地下帝国の軍勢は、ハルヒの背後でひれ伏している。当然、ハルヒに対してひれ伏しているのであり、堕天使に対してではない。


「興奮して具体例を言葉にできなくなっているけど……そうなの?」

「地下帝国の戦士にベヒーモスを殺していただかなければ、私は自由になれません。たとえ一時的に帝国が滅びることになろうとも、ベヒーモスを殺すことを諦めて欲しくはありません。そのために、女王の眷属を狙い、象徴を穢し、王宮に排泄するぐらいは当然ですよね?」


 サキエルはラミアを見ず、ハルヒに訴えかけた。


「堕天使ということは……元天使ね?」

「恥ずかしながら」


 サキエルは絵に描いたような整った顔だちで微笑んだ。


「封印された理由は?」

「女神の意思に逆らい、人間に知恵を授けようとしました」

「滅ぼされなかった理由は?」

「滅びるほどの罪ではないと判断したのでしょう」


 推測になっているのは、女神がはっきりと告げなかったのかもしれない。魔王ハルヒは頭を抱えた。


「堕天使サキエルは、人間に知恵を授けたといったわね。それが本当なら……あなたが封印される前は……例えば人間は、どんな服を着ていたの?」


 人間に知恵を与えるなどという力があれば、それは世界を変えられる力だ。ハルヒは、サキエルがどんな力を持っているのか、知らなければならないと感じた。


「人間は服など着ませんよ。ああ……私を封印しておいて、人間には知恵が授かっている。魔王様はそう言いたいのですね。ですが……あれではただの腰蓑です。服と呼べるようなものではありません」

「『あれ』……って?」


 ハルヒは、堕天使サキエルの視線を追った。

 その先には、ラミアの軍勢として集められた、ゴブリンの姿があった。


「……『あれ』が人間に見えるの?」

「はっはっはっ。魔王様は冗談がお好きだ。人間でなければ、なんだと仰るのですか?」


 ハルヒは応えなかった。自分の配下に視線を向ける。


「ヤモリ」

「はっ」

「これから至急ドワーフたちのところに行って、眼鏡を作成するよう伝えて。できるだけ、度の強い奴をいくつか作るように」

「はっ」


 ヤモリが素早く移動する。


「……ラミア、堕天使サキエルの罪を問わないでいてくれるなら、再び地下に帝国を築くことを魔王として承認するし、協力もするわ」

「えっ? ……それは……しかし……」

「女王様、魔王様のお力添えなしに、あの堕天使は倒せないかと……」


 ラミアにも側近がいるのだろう。ラミアの耳元で囁く声がハルヒにも聞こえた。しばらくラミアは部下たちと言葉を交わし、ハルヒの前に進み出た。


「……承知いたしました」

「堕天使サキエル、地獄に帰りたいというなら、帰ってもいいわ」

「地獄? そんなもの、本当にあるんですか?」


 堕天使サキエルは、不思議そうに尋ねた。


「私が知るはずないじゃない。地獄に戻らないというのなら、これからどうするつもりなの?」

「この私を解放していただいた恩、全身全霊で返させていただくまで、お側に仕えることをお許しください」

「……どうしてかしら? なんだか、厄介ごとが増えただけのような気がするわ」


 悪気はない。その恐ろしさを、ハルヒは知っていた。

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