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8 残り97日 勇者、卒倒する

 勇者アキヒコは、王都を出た直後の森の中で魔物と対峙していた。

 二足歩行の猪だ。


「オークです。勇者アキヒコ、気をつけて!」

「あ、ああ。くそ……脚が……」


 まだ日は高い。王都を出て、港町ラーファへ向かう道中だった。

 商人のものと思われる馬車が襲われていたのだ。

 襲っていた魔物達を見て、魔術師ペコはオークだと断言した。


 魔物の集団までの距離は50メートルほどだ。アキヒコの足であれば、前世の身体能力のままでも、数秒で到着できる。

 だが、足が震えた。


「足ですか? 任せてください。足に巣食いし病魔よ、我が力に怯えよ。脚気を直す魔法、ファタルシア」


 魔術師ペコが杖を振るう。

 キラキラとした靄が、アキヒコの脚を包む。


「ああ……なんだか健康になった気がする」

「よかった。頑張ってください」

「いや。俺は別に脚気じゃない」

「本当だ。まだ脚が震えている」


 アキヒコはわかっていた。以前の世界でも事件はあった。戦争もあった。だが、アキヒコ自身は争いを好まず、戦ったことなどなかった。

 ペコに言われて剣を抜き、飛び出したものの、自分が猪の頭部を持った二本足の獣を殺すのだと想像しただけで、足がすくんだのだ。


 この世界は平和で豊かだという。だが、魔物が実在している。魔物を殺すことに、この世界の人々は躊躇しないのだろう。


「魔法は、戦いに関係ないものしか使えませんよ。魔法は、生活を豊かにするためのものです」

「えっ? 魔法で……魔物と戦うんじゃないのか?」

「いえいえ。そんな、勇者じゃあるまいし。あっ……アキヒコならできるのかな?」


 ペコが首を傾げた。


「僕は剣を使ったことなんかない。あんな大勢の魔物に、剣だけで戦うなんて無理だ」


 アキヒコは素直に弱音を吐いた。


「うーん……困りましたね。足も震えていますし……わかりました。私が別の魔法を使用してみます」


 魔術師ペコは力強く胸をはった。


「頼む」

「お任せあれ。勇者アキヒコを侵すリュウマチよ避れ。ドループ」


 ペコの杖から、またもやキラキラとした霞が出て、アキヒコの脚を包んだ。


「だから、リュウマチでもない。病気じゃないんだよ」

「えっ? じゃあ、どうして足が震えるんですか?」

「もう、いいや。僕は勇者だ……なんとかなるさ」


 ついに覚悟を決めて、アキヒコは走り出す。

 オークという名は聞いたことがある。決して強い魔物とは描かれない。

 王都の近くに、そんなに強い魔物がいるはずがない。


 この世界は、ずっと平和だったのだ。

 勇者として、ふさわしい力を授けると女神は言った。

 死んだら、以前の世界に戻れるのだろうか。


 余計なことだとわかっていながら、考えずにはいられなかった。

 振り上げた剣を抜き、アキヒコは叫んだ。


「僕は勇者アキヒコ! 魔物を殺す者だ!」


 自分でも、何を言っているのかわかっていなかった。

 剣をイノシシの頭部に叩きつけた。頭蓋骨は硬い。

 頭蓋骨に弾かれて剣が折れるのではないかと思ったが、アキヒコが振り下ろした剣はオークの頭蓋骨を二つに割った。

 馬車の人間たちを殺していたオークたちが、アキヒコを振り向いた。


「魔王様が降臨されたと噂している鳥がいたが……やっぱり勇者もかい」


 オークの言葉を、アキヒコは理解していた。


「ちっ……仕方ない」


 オークの数は残り4人だった。アキヒコは死に物狂いで戦い、オークを皆殺しにした。

 だが、馬車の人間たちはすでにオークに殺されて死んでいた。

 アキヒコは、初戦を軽傷で勝利したものの、無残に殺された人間の死体に卒倒した。

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