表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/203

71 残り66日 魔王、弱点を忘れる

 魔王ハルヒは、魔の山に口を開けた洞窟の探索を続けていた。


「トロルというのは、ドワーフを食べるの?」


 ハルヒは随伴の鬼たちに尋ねた。肩にドレス兎のコーデを乗せているが、コーデが知るはずはないと判断したのだ。


「食べます」


 赤鬼族の筆頭ノエルが即答した。


「なら、駆除しましょう。私に従わない、利益ももたらさない魔物であれば、仕方ないわ」


 ハルヒは言いながら、暗闇に魔法陣を展開させた。

 幻想的に輝く魔法陣が、突然黒く濁る。

 魔法陣が収束し、ハルヒの前に顔色の悪い人型の魔物が跪いていた。


「吸血鬼の王よ。私に仕えるわね?」

「勿論でございます、魔王様。不肖この吸血鬼の王、全霊をもちまして、お仕えさせて頂きます」

「結構。では、この洞窟にいるトロルとドワーフを探して報告しなさい。居るだけ、全部よ」

「承知いたしました」


 吸血鬼の王の者の姿が崩れた。無数のコウモリに変じて飛び去った。


「魔王様、今のは……」

「召喚したばかりの吸血鬼の王よ。本当に王かどうかは知らないけど……たくさんの眷属を操れる魔物をイメージしたら、思い浮かんだの。体を細かく分割してコウモリとして飛ばすっていうのは……映画で見たことがある……いえ。なんでもない」


 言いながら、ハルヒは次々にトロル対策の水晶玉を作り出していた。

 しばらくして、コウモリたちが帰還して吸血鬼となった。吸血鬼の王となったが、完全な姿ではない。


「両腕はどうしたの?」

「遠くまで探りに行っています」


 つまり、まだコウモリとしてどこかで飛んでいるのだ。


「うん……いいことね。報告を優先したのもいい判断だわ。結果は?」


 吸血鬼の王はかしこまった。


「はっ……トロルは30体ほどでしょう。狭い洞窟に、やせ細った小人が逃げ込んでいます。20人もいるでしょうか。恐らくは、逃げ込んだドワーフでしょう」

「小人を、ドワーフだと判断する根拠は?」

「ドワーフであれば、どんなに衰えていても髭は変わりません」


 赤鬼族のノエルが気を利かせて口を挟んだが、吸血鬼の答えは違った。


「飢え死にしそうなほどやせ細り、狭い場所に逃げ込んでいますが、ハンマーと鑿で鉱脈を探し続けています」

「なら、間違いないでしょうね。いいわ。案内して」

「トロルはお任せください」


 ノエルが拳を打ち鳴らす。ハルヒは笑った。


「どうして、ドワーフだけでなく、トロルの位置も事前に調べたと思うの?」

「トロルを避けるためだろ?」


 肩の上でコーデが言った。


「私にとって役に立たないのに、生かしておく必要もないでしょ。吸血鬼の王よ、この水晶をトロルたちのところに運びなさい。下半身だけあれば、ドワーフのところには案内できるわね?」

「はっ」


 吸血鬼の上半身が、再びコウモリに変じた。ハルヒが差し出した水晶玉を、コウモリ一頭につき一つ掴んで飛び去る。

 下半身だけになった吸血鬼が、暗い中を案内した。


「頭部がなく、わかるのでしょうか?」

「吸血鬼はアンデッド系の魔物でしょ。目も耳も本来機能していないのよ。なら、頭部がなくても支障はない……んじゃないの?」

「当て推量かい」


 コーデの言葉は無視して、ハルヒは進む。ノエルたち鬼族と、暗闇な地形の変化に強い、ヤモリたちが供として続いた。


「この先です」


 狭い通路が続く手前で、下半身だけの吸血鬼が告げる。どうやって話しているのはやはり謎だ。

 吸血鬼の王が、付け加えて言った。


「全てのコウモリたちが、トロルのところに到着しました」

「了解……あの水晶玉には、二つの効果を持たせてあるわ。ひとつは、私の魔力を受け取る効果、もう一つは……太陽と同じ波長の光を発する効果」


 ハルヒが、コウモリが運んだ水晶玉に魔力を送る。


「ギャアァァァ……」


 目の前の、吸血鬼の王の下半身が悲鳴を上げた。


「あっ……吸血鬼の王は、強力な力を持つ代わりに、弱点も多かったわ……」

「太陽の光も……ですか」

「しまったわね」


 ハルヒが魔力を送った瞬間、全てのトロルたちは石に変わった。だが、吸血鬼の分体であるコウモリたちも太陽の光で滅び、体の大半を失った吸血鬼の王は、あっけなく滅び去った。


「吸血鬼……運のない一族ね……」


 最初に王都に送り込んだ一体も、ついに戻らなかった。ハルヒは吸血鬼の一族の冥福を祈った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ