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69 残り67日 魔王、大迷宮に潜る

 魔王ハルヒは、ハーピーの群生地に来ていた。

 ヤモリの魔物たちが知っていたドワーフの住処は、ハーピーたちが根城にしていた崖地の下にあった。

 魔王ハルヒの他、赤鬼のノエルと配下の鬼たちのうち、特に強い者たち5人を厳選して連れてきた。


 ドワーフが最後に目撃されて、すでに数年は経過している。単に穴の中が快適で出てこないという場合もあるだろうが、より強い魔物に制圧された場合も考えられる。


 ハルヒの目的は、鍛治仕事を得意とするドワーフたちを配下にすることと、ザラメ山脈に繋がっていると思われるドワーフの大迷宮を踏破することである。

 大迷宮には、勇者アキヒコも挑んでいる可能性が高い。

 魔王ハルヒは、勇者アキヒコを倒すつもりでいた。


「穴は小さいわね。ドワーフって、体が小さかったかしら?」


 ヤモリたちが案内した穴は、ハルヒでもかがんで入らなければいけない大きさだった。

 ノエルであれば、ひざまずいても体を擦るサイズである。


「ドワーフは小さいぜ。俺ほどじゃないがな」


 ドレス兎のコーデは胸を張った。


「小さいほど偉いわけじゃないでしょう。ノエル、あなたと仲間たちは入れる?」

「問題ないかと」

「……小さくなれるの?」


 中に入ることはできても、詰まってしまうのではないかとハルヒは心配した。だが、当のノエルは断言した。


「そのような能力はありませんが、ドワーフの大きさに関係なく、ドワーフの住む洞窟の内部は広くなります。もし、入ってみて狭ければ、ドワーフはここにはいないということでしょう」

「ふむ……ドワーフは狭いところが苦手だとか?」


「ドワーフは鉱脈が大好きなので、洞穴に入れば、手が届く範囲は全て掘ってみなければ気が済まないと聞いています」

「ああ……結果的に、ドワーフ自身の大きさとは無関係に、大きな洞窟になるのね。ドワーフって……ちょっとおかしいのかしら?」


 ハルヒは自分のこめかみを叩いた。

 洞窟の強度も考えず、とにかく掘ってみたくなるのだという。

 ハルヒは肩をすくめ、まずは最も狭いところを得意とするヤモリの魔物に侵入させた。

 しばらくしすると、ヤモリたちが戻ってくる。


「広すぎて、なんだかわかんねぇです」


 戻ってきたヤモリが報告した。


「では、ドワーフが作った洞窟だと考えて間違いないかと」


 ノエルが断定する。


「変わった判定法もあったものね。いいわ。行きましょう」


 ハルヒは戻ってきたヤモリたちを押しのけ、ドワーフの洞窟に挑んだ。


 ※


 真っ暗で何も見えない。

 ハルヒは、持ってきた小さな水晶玉を取り出し、脳の内側に意識を集中させた。魔法陣を思い描き、手にしていた水晶玉に刻む。


 魔法陣を刻んだ水晶玉に魔力を込めると、魔法陣が反応し、小さな水晶玉が輝きだした。

 熱くはない。ハルヒは手にした光の水晶を掲げた。

 何も見えない。ハルヒが想像したより、ずっと中は広いのだ。


「……かなりの広さね。ドワーフがどっちにいるか、わかる?」

「近くにはいないかもしれません。とにかく、進んでみましょう」

「ええ……それしかないわね」


 明かりを掲げ、魔王ハルヒが鬼たちとヤモリを引き連れて進む。

 光に照らされ、なにかが動いた。


「……ドワーフかしら? ドワーフって、小さいんじゃなかった?」


 ハルヒが掲げる光をうるさそうに払いながら、丸い巨大な物体が立ち上がる。


「魔王様、トロルです」


 赤鬼ノエルが、ハルヒをかばうように前に出た。


「トロル?」

「はい。闇の巨人と言われる連中で、めったなことでは死にません。光を嫌うので、この洞窟に逃げ込んだのではないでしょうか」


「光を嫌うの?」

「太陽の光を浴びると、石になるとか」


 ハルヒの持つ光に、闇の巨人と呼ばれた魔物は、不機嫌そうにぐるぐると喉を鳴らした。

 ハルヒを威嚇しているのだ。


「太陽光以外での殺し方は?」

「殴り殺すぐらいでしょうか」

「ふん……ノエル、任せるわ。勝てる?」

「お任せを」


 赤鬼族のノエルが前に出た。ハルヒはさがる。

 トロルは、光を持つハルヒに敵意を抱いている。

 その横面を、ノエルが殴りつけた。


「魔王様への無礼は許さん」


 トロルが吠える。ノエルに掴みかかった。

 ノエルの拳が、トロルの顔面を撃ち抜く。

 体格に勝るトロルだが、ノエルの動きは戦い慣れていると感じさせた。

 簡単に転ばし、ねじ伏せた。


「……意外と簡単に倒せたわね。こいつ……私の配下にはならないでしょうね?」

「なるかもしれませんが、役には立たないでしょう。太陽の光で石になってしまいます。魔の山から出ることはできません」

「……城の守りぐらいには……あっ……本当ね」


 ノエルが戦っている間、ハルヒは別の水晶玉に別の魔法陣を刻んでいた。

 ただ光を放つのではなく、太陽と同じ波長の光を放つ魔法陣を刻んだのだ。

 結果は、ハルヒの足元で石化したトロルが物語っている。


「少しばかり、先は長そうね」


 草原のように広がる暗闇に、ハルヒの声が木霊した。

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