66 残り68日 勇者、聖剣を視認する
勇者アキヒコは、恐慌をきたした冒険者たちにクモコが味方であると説得するのに、随分苦労した。最終的に、背中にドワーフを載せていることが大きかった。
その後は一緒にキノコパーティーを行い、山を越える予定の冒険者たちと、道が別れるまでは同行することにした。
聖剣は、港町ラーファからは見ることができないが、ある程度登ればすぐに見ることができるし、ラーファに住んだことがある人間なら、大抵は知っているという。
ザラメ山脈の最も高い場所、剣ヶ峰に刺さっているのだと、冒険者たちは教えてくれた。
「おかしいわね……そんなに有名なら、どうして私が知らないのかしら?」
魔術師ペコは、王都にずっと住んでいる。ラーファとは距離も近い。知らないことが不思議のようだ。
「聖剣っていうのは、そう呼ばれている岩のことだからね。本物の剣じゃない。勇者しか抜けないなんて噂もあるけど、勇者だって抜こうとは思わないよ」
「えっ? どういうこと?」
気さくに教えてくれた冒険者に、ペコが重ねて質問した。アキヒコが適当に推測する。
「それは多分……剣に似た大きな岩を、聖剣って呼んでいるだけなのかな?」
冒険者たちは笑い出した。どうやら、アキヒコが言ったことが正解だったようだ。
道中で冒険者が峰の上を指差した。見上げる先に、ごつい十字の岩がある。
「……ふむ。確かに……剣に見えるのう」
ギンタがクモコの上からしみじみと言った。
「ただの観光じゃないなら、あんたたちも一緒にカバデールに行かないか? 魔物と戦わなくても、元領主にサインをもらえば依頼達成なんだ」
「私たちは冒険者登録していないのよ」
「ああ。それに……聖剣という名のただの岩だとしても、近くで見ておきたい」
「わかった。残念だな」
アキヒコたちに命を助けられた冒険者は、山を越える道を進んだ。峰のもっとも低い箇所を越えるため、もっとも高い場所を目指すアキヒコたちとは別れることになる。
※
聖剣の岩場を遠くに眺めながら、アキヒコたちは休憩にした。
「……本当にただの岩なのか? 王が行けといったんじゃろ? 何かあるんじゃないか?」
ギンタが、クモコと食事を分け合いながら尋ねた。
「わからないわ。ただ……行かないという選択肢はないでしょうね。アキヒコ……定時連絡?」
魔術師ペコが尋ねた。アキヒコが、荷物から愁いの写しを取り出していたからだ。
アキヒコの日課として、1日に一度は使用することにしている。その時、誰につながるかはわからない。繋がろうとした相手の周囲に、姿を写すものが何もなければ、結局は何も映らない。
それでも、1日に一度は試すことにしていたし、それをロンディーニャ姫から命じられていた。
アキヒコが念じるのに合わせて、ペコが手元のコップを覗き込んだのは、そこにアキヒコが映り込めば、アキヒコとの絆が作られたことを意味するからだろう。
今までに、愁い写しにペコが映ったことはない。この日も、やはり映ったのは見知った人影だった。
「ロンディーニャ姫、御変わりありませんか?」
「ええ。私はね。アキヒコこそ、無理はしていない?」
写しの中のロンディーニャは、なぜか少しぎこちなく微笑んだ。
「姫こそ、お疲れではありませんか? 普通の体ではないのですから、無理はなさらずに」
「ありがとう。優しいのね……パパ」
ロンディーニャが下腹部を撫でる。
「も、もう……目立つようになったのですか?」
「まだよ。でも……すぐにそうなるでしょうね。今、アキヒコはどこなの?」
「ザラメ山脈です。魔王を倒すための、剣を手に入れなければなりませんから」
「……そう。気をつけて」
「ありがとうございます」
愁いの写しが途絶えた。
「……今、姫変じゃなかった?」
自分が写らなかったことを確認したペコが、アキヒコの背後から覗いていた。
「そうか?」
「なんだか、ぎこちなかったし」
「……つわりとか、始まったんじゃないか?」
「姫の部屋じゃなかったよね?」
「違う場所にいることもあるだろう。どこかわからないけど……僕が毎日、だいたい同じ時間に写しを使うから、姿を写すものを持ち歩いているんじゃないかな」
「はいはい。お熱いことで」
その後、ペコの機嫌をとる必要を思い知る勇者アキヒコだった。




