表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/203

64 残り69日 勇者、山に挑む

 勇者アキヒコは、魔術師ペコ、毒ドワーフギンタとともにザラメ山脈に挑んでいた。

 猟師や樵が使用する道があるが、馬車が通るには狭い。だが、クモコだけであれば狭い隙間も通過できる。


 クモコには荷物を乗せ、足の短いギンタを跨らせて移動することにした。

 山を登る冒険者と思われる姿は確かに見かけた。

 アキヒコは、直接冒険者と呼ばれる者たちと話したことはなく、見ただけではわからなかった。ペコが冒険者だと言ったので、そうなのだろうと思う程度だ。


 話を聞きたかった。この世界の冒険者というものについても知りたかったし、聖剣の場所も聞きたかった。

 冒険者は遠くにはいても、決して近づいてはこなかった。


「ペコ、冒険者というのは、人間の姿をした蜃気楼のようなものなのかな?」

「蜃気楼がなんだか知らないけど、クモコがいれば近づいてこないでしょ」

「なんで?」


「魔物だし、人間が勝てる相手じゃないもの。町を襲えば軍隊が必要になる。勇者であるアキヒコだって、勝てたのは毒ドワーフを使ったからでしょ」

「呼んだか?」


 ギンタがクモコの背中から尋ねてきた。ペコが適当にギンタの相手をしている間に、アキヒコはクモコをあらためて眺めまわした。

 アキヒコは、勇者だという自覚があるため逃げなかった。そうでなければ、全力で逃げていただろう。


「クモコって、もっと育つのか?」

「ギンタを丸呑みしても、体を壊さない程度にまでは育つはずよ」


 つまり、白精霊と呼ばれていた大蛇より巨大に育つということだ。


「そりゃ……逃げるな。仕方ない。聖剣の情報を得るまで、ギンタは別行動だ」

「了解じゃ。クモコが糸を出しながら移動するから、クモコの糸を辿るといい」

「わかった……クモコって、優秀だな」

「当然じゃ」


 まるで自分が褒められたように笑いながら、ギンタはクモコを走らせた。


 ※


 ギンタと別れてしばらくして、アキヒコは魔物と戦っている冒険者たちを発見した。

 5人のうちすでに3人が倒れている。


「でかいキノコが動いているな」


 赤と白の水玉の、いかにも毒キノコらしい、人間の子どもサイズの魔物が人間を追い詰めていた。


「魔物キノッピオね。集まらなければ怖くないけど、あの数はまずいと思う。植物だから、怪我しても平気なのよ。長時間戦うと、毒の胞子を周囲に振りまいて、動物を行動不能にするわ」


「助けられるかな? あの冒険者たちから情報がほしい」

「私たちなら簡単だと思うわ」

「わかった……チャッカマン」


 勇者アキヒコが点火の魔術を放つ。すでに小さな火にする技術も身につけたが、この時はあえて巨大な火を灯した。


「ちょっと、山火事になる」

「周囲の胞子を燃やしてからにしようと思ってね」

「あっ……少しは考えているのね」


 感心したのか呆れたのか判らないつぶやきを発するペコを残して、アキヒコは雷鳴の剣を抜いて躍り掛かった。

 キノッピオは10体以上いるが、アキヒコは一振りで一体を斬り伏せた。体が半分になっても死ななかったが、流石にまともには動けなくなる。


「いつも涼しい風さんたちよ。たまには真空のヤイバとなって切り裂いて。ウインドカッター」


 背後からペコの魔術が飛ぶ。アキヒコの周囲のキノッピオが切り刻まれる。

 アキヒコとペコの手によって、キノッピオの集団は動かないキノコの残骸へと変わった。

 戦闘用の魔法を解禁されたペコの魔法は、確かに威力を増していた。


 ペコは嘔吐と排泄の魔術で倒れた冒険者たちを癒し、臭くなったのでアキヒコは消臭の魔術を施しながら、倒れたままの3人を担いで場所を移動した。

 ペコが残骸となったキノッピオを運んでくる。


「ちょうどいいわ。キノコパーティーにしましょう」

「食えるのかい?」

「もちろん。美味しいわよ」


 ペコの指示でアキヒコが点火の魔術を使用する。その周囲にキノコを並べると、魔物だったキノコが炙られる。

 冒険者たちは5人とも息を吹き返し、口々にアキヒコとペコに礼を言った。


「自分たちだけ、ご馳走とはずるいのう」


 アキヒコの背後からクモコに乗ったギンタが現れた。匂いに釣られたのだろう。


 死にかけた冒険者たちは、主にクモコを見て、本格的な死を意識したのか命乞いを始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ