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62 残り70日 勇者、山登りを決意する

 勇者アキヒコと魔術師ペコは、再び冒険者組合の建物を訪れていた。

 先ずは、魔王を討伐することができると言われている聖剣を入手することが重要だと考えたからであり、聖剣の場所を冒険者組合で確認する為だった。


 昨日と同様、冒険者組合には活気がなかった。

 受付に行くと、昨日と同じ青年だった。


「昨日も来た人だね。冒険者になりたければ、今なら誰でも歓迎ですよ」

「どうしたんです? 急に……」


 昨日とは、明らかに態度が違う。昨日は、冒険者になることを勧めなかったのだ。


「領主様から、緊急の依頼がありました。魔王に支配されたカバデールを解放しろって内容です。経験も実績も問わない。参加表明して、カバデールの町に行って戻ってきたっていう証拠を見せれば、破格の褒賞がもらえます」


「……町に行った証拠ってのは、何を出せばいいんだ?」

「元領主のヘルビッチ男爵が証明書を発行してくれるそうです。元の領主の屋敷に住んでいるそうですよ」

「元領主が、支配された町にそのまま住んでいるの?」


 魔術師ペコが不思議そうに首を傾げた。


「ああ……カバデールは比較的落ち着いているそうだよ。魔物たちは普通に町を歩いているけど、人間を襲ったりはしていないそうだ」

「……ふうん。カバデールを解放しろっていうのに、行ってきた証拠だけでいいのかい?」


 辻褄の合わない話だ。アキヒコは首を傾げた。


「まずは、人を送り込もうってことじゃないでしょうか。どうやって開放するかは、そのうち指示があると思います」

「そうか……せっかくだけど、僕たちはいい。今日は、ザラメ山脈にある聖剣の情報が欲しいんだ」


 アキヒコが領主の依頼に興味を示さなかったためか、少し残念そうに受付の青年は言った。


「山越えでカバデールを目指すなら、途中で見ることになると思いますよ。山脈をぐるっと回るより山を越える冒険者の方が多いから、山に登ってから誰かを捕まえて聞いてみるといいでしょう。魔王軍が近いから、ただの観光ならお勧めはしませんけど」

「ああ……ありがとう」


 ペコは言い返したそうだったが、アキヒコが切り上げて冒険者組合を後にした。


「山登りか……まあ、想像できたことだけど、登山具とか売っているのかな?」

「登山具ってなに?」


 アキヒコの常識は、ペコには通じなかった。アキヒコも以前の世界で登山を趣味にしていたわけではない。想像で語った。


「靴の裏に滑り止めがある靴とか、寒さ対策の防寒着とか、崖を登るためのピッケルとか、ロープとか……かな」


 アキヒコは南に視線を向けた。港町ラーファから山脈までは、1日の距離もないだろう。尾根の付近まで緑で覆われているので、数千メートル級というわけではないだろうが、油断は禁物だ。


「水と食料だけでいいんじゃない? 魔術だってあるんだし」

「自分で登れないような険しい崖があった場合、魔術でなんとかなるのかい?  僕が知っている魔術はそんなに多くないけど……」


「必要ない時に教えても、覚えられないでしょ」

「うん」

「あっさり認めるのね。ちょうどいいわ。アキヒコの魔術の訓練も兼ねて、水と食料だけを用意して挑みましょう。もし駄目なら、戻って来ればいいじゃない」

「そんなにのんびりしていていいのかな?」


 話しながら、アキヒコとペコは食料を扱う市が並ぶ港周辺に向かっていた。


「どうして? 領主が冒険者に出した依頼が気になるの?」

「まあね。どうせ攻めるなら、冒険者と兵士たちで協力した方がいい。冒険者たちにハッパをかけて勝手にさせるなんて……冒険者を無駄に死なせるような気がするんだけど……」


「魔王っていうのが、実それほど強くないんじゃない? この町の領主なら、そういう情報を掴んでいても不思議じゃないわよ。王都より近い分、情報も集まりやすいし……平原の町カバデールでは、ほとんど被害が出ていないっていう噂もあるしね」

「うん……そうかもしれないな……」


 相手の魔王はハルヒだ。同じタイミングでこの世界に来たばかりのはずだ。アキヒコとそれほど強さが違うとは、想像できなかった。


 2人は食料を買い込み、港町ラーファを出た。

 毒ドワーフのギンタと、馬車を曳くクモコと合流する。

 クモコは、強靭な顎に野生の鹿をくわえていた。


「クモコ、それ食って平気なのか?」

「食べやせんわい。体液を吸うんじゃ」


 ギンタとはすっかり仲良くなっている。巨大な蜘蛛は、人間の身長ほどもある頭部をギンタに擦り付ける。


「で、これからどうするんじゃ?」

「ああ。ザラメ山脈に登ることにしたんだ。まずは聖剣を手に入れよう」

「ふむ……となると、この間従魔にしたペガサスを呼ぶのか? クモコはどうする?」


 ペガサスは3頭しか従えていない。何より、クモコを怖がっている。


「ペガサスでは無理よ。聖剣の場所がわからないもの。私も見たことがないけど、この辺りでは割と有名みたいで、山を登っている冒険者に聞けば知っているそうだわ。ペガサスで一気に峰に近づくと、冒険者が通常通るルートから外れるかもしれないし……ザラメ山脈は峰付近まで木に覆われているでしょ。降りることができても、森の中ではペガサスは飛び立つことができなくて、餓死するかもしれないわ。希少なペガサスを乗り捨てはできないわよ」

「……ふむ。よかったな。クモコ」


 ギンタは巨大な蜘蛛の頭部を撫で、クモコは前脚をわしゃわしゃと動かした。

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