60 残り71日 勇者、冒険者組合支部長と面会する
港町ラーファには勇者アキヒコと魔術師ペコが入り、ギンタとクモコは町の外でキャンプをすることになった。
アキヒコとペコはラーファの町で宿を決めてから、町の中を散策していた。
「ああ……やっぱり港町だな。魚がたくさん並んでいる」
潮風が心地よく流れる町並みの中、露天商が連なる一画で、アキヒコは大ぶりの魚が並ぶ店を見て快哉をあげた。
「魚だけじゃないわよ。交易品も多い。さすが、我が国の商業の中心地ね」
ペコは魚屋の隣で装飾品を扱う店を覗いている。この世界の魚が珍しいのはアキヒコだけだ。
「戦争の準備をしていると思ったけど、思ったより落ち着いているな」
アキヒコは保存食として魚の干物を購入した。
「お兄さん、その格好は傭兵かい?」
干物を大きな植物の葉で包みながら、店の男が尋ねた。
「うん。そんなようなものだね」
「なら、冒険者ギルドに行くといい。この国では、ラーファにしかないからね。正規軍が動く前に、冒険者たちを利用してなんとかしようとしているらしいよ」
「……そうか。ありがとう」
アキヒコは組合の場所を聞こうとしたが、ペコはすでに知っていた。
「初めから、冒険者組合でいいって言ったじゃない」
「町の様子も見たかったんだよ」
ラーファの町は整備されていた。あまり戦場となることは想定していないのだろう。それよりも、利便性を追求したようだ。広い街道、格子状に整備された町並みが印象的だった。
経済的に安定しているのだろう。だが、戦場になれば主要な場所は簡単に狙われそうだ。
アキヒコとペコは、この町にしかないという冒険者組合の建物を訪れた。
建物に入ると、人は少なかった。活気がないともいえるが、多くが出かけているのであれば、むしろ活発なのかもしれない。
受付と思われるカウンターに職員がいた。青白い顔の若者だった。
「すいません。ちょっといいですか?」
「はじめての方ですね。外国の方ですか?」
青年は丁寧に尋ね返してきた。
「ええ……まあ……」
外国といえば外国だ。世界の外から来たのだから。
青年は、アキヒコとやや後ろに立つペコを一瞥した。
「新規のご登録も可能ですが、既に外国でご登録の方は手形を見せてください」
「いや……登録はしなくていい。情報が欲しいんだ」
「未登録ですね」
「ああ。魔王について教えてほしい」
「あなたのお名前は?」
「アキヒコだ。こっちはペコ」
「支部長がお待ちしています。こちらに」
青年が奥の階段を指し示した。勇者アキヒコと魔術師ペコは、冒険者組合の支部長と面会した。
※
冒険者組合の支部長は、年老いた女だった。
アキヒコを見ると値踏みするように周囲を歩き、ペコの肩に手を置いて囁いた。
正面に周り、ソファーに腰掛ける。アキヒコとペコも座らされた。
「簡単に言おう。ラーファの領主は、魔王との戦争を望んでいない。カバデールはすでに魔王に制圧されたけど、人間が無駄に殺されていると言った噂は効かない。偵察に虎の子の飛竜部隊を使ったけど、緊急に攻めなきゃならない状況じゃない。現在は、冒険者を使って探りを入れている」
「向こうからも、攻めて来る様子は無いということですか?」
支部長の話は、アキヒコには意外だった。ハルヒが残虐だとは思わない。だが、大人しくしているとも考え難いのだ。
「その通りさ。魔王と戦わなきゃならないのが勇者なら……まだ魔王が大人しくしている今のうちに、聖剣を探しにザラメ山脈に登るのもいいだろう。そのうち、それどころじゃなくなるかもしれないからね。ああ……王から戦争には参加するなといわれていることは知っている。でも目の前で大勢の人間が殺されて、平然としている勇者だったら、ペコがついているはずもない」
「ペコ、この人と知り合いなのか?」
「……うん。魔術の師匠よ。パパの師匠でもある」
老女はペコに視線を向けた。優しげだが、鋭い視線だ。ペコの父親は、宮廷魔術師だったはずだ。この国でもっとも魔術に長けた者が就く役職だ。
「私の言いつけどおり、生活魔術しか使ってこなかったようだね。それでもペコを連れてきたってことは……この勇者はあんたをよほど気に入っているんだろう。他者を排除する攻撃用魔術を解禁しよう。この先、今のままじゃ勇者の足手まといになるだろうからね」
老女は言うと、ペコに手をかざした。何をしたのか、アキヒコにはわからなかった。老女は続ける。
「鍛えたいなら、ラーファとザラメ山脈の間にもダンジョンがある。かつては地下帝国って呼ばれていた場所さ。まあ、ザラメ山脈もそれなりに魔物が住み着いているから、無理にダンジョンに行くことはない。好きにしな」
「ところで支部長……」
「なんだい?」
「いや……なんでもありません」
アキヒコとペコは礼を言って退出した。
ペコが尋ねる。
「アキヒコ、最後に言おうとしていたのはなに?」
「支部長の部屋に姿見があった。銅板を磨いたものだけど……それでちょっと、思い出したんだ」
「魔王に覗かれているかもしれないって?」
「ああ……」
覗かれれば、覗いている向こうも見えるはずだ。アキヒコは気になったが、老女が承知していた場合、下手にいえば逆効果になる。
アキヒコはいずれにしても、魔王を討伐することだけを考えていればいい。やや不安に感じながら、冒険者組合を後にした。




