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54 残り74日 勇者、旅立ちに備える

 勇者アキヒコは、魔術師ペコと共にロンディーニャ姫の部屋に呼ばれていた。

 昨日借り受けた愁いの写しを何度も利用した。一度だけ、ハルヒと繋がった。

 互いに名前を呼びあっただけで言葉に詰まってしまったが、現在の特殊な状況を考えれば、無理のないことだと自分を納得させた。


 ロンディーニャと繋がった時は、嬉しそうに色々語ってくれたのだが、愁いの写しで話までできるというのは驚きだった。

 ロンディーニャ姫は、忙しい大臣や兵士たちの代わりに、勇者アキヒコに活動の指示を出す役目を与えられたらしい。


 自室に招いた2人にお茶とお茶菓子を出し、ロンディーニャ姫はテーブルに地図を広げた。

 以前見た王国の全体を示す地図と同じものだ。ロンディーニャ姫は、王都から南にある町に指を置いた。


「港町ラーファは、我が国で一番栄えている町です。正直言って……王都はラーファからみれば、田舎なのです。現在、さらに南のカバデールが魔王に征服されたことは、ラーファにも知らされているはずです。現在、魔王に対抗するための準備をしているでしょう」

「でもその戦いには、私たちは関係ないんだよね?」


 勇者は戦争には参加しない。それは、王が言ったことだ。


「はい。王都からはカバデールの解放軍を出す予定は変わっていません。今後の戦況次第では、ラーファに対する援軍になるかもしれません。仮にラーファと魔王軍の戦いが始まっても、アキヒコは参戦しないでください。ただ、カバデールがあれほど簡単に落ちたことを考えれば、ラーファが無傷で勝利できるとは思えません。戦いが長引けば、おそらく魔王本人が乗り込んできます。その時のために、アキヒコはラーファにいた方がいいでしょう。すぐにラーファが戦場にならないにしろ、ラーファの町を知っておくべきです」

「……そうですね」


 アキヒコは頷いた。王都の町並みは見たことがある。石造りの町並みは綺麗ではあったが、活気があるとは感じなかった。港町なのであれば、他国との交易もしているだろう。この国の収益源はラーファで、王都は利益を吸い上げているだけだと言われれば理解しやすい。


「本当は、私も行きたいところですが……」

「大丈夫です。アキヒコとロンディーニャ殿下には、強い絆があるのですから」


 魔術師ペコが口を挟んだ。


「そうですね。愁いの写し……ちゃんと使えているようですしね」


 ロンディーニャ姫は、自分の下腹部を撫でて微笑んだ。


「僕はラーファに滞在して、情報を集めていればいいのかな? 魔王がいるかどうか……いないとわかったら、どうすればいい?」


 王女の仕草に自分でも赤面したと自覚しながら、アキヒコが話題を変える。

 ロンディーニャ姫は真面目な表情に戻った。


「魔王への布石としてアキヒコがいるのです。同時に、魔王を倒すための手段を講じることも必要です。ザラメ山脈の頂きには、勇者にしか抜くことのできない聖剣が刺さっているという言い伝えがあります。アキヒコになら抜けるはずです。もし手に入れられれば、魔王を倒す力となるでしょう。その他にも……ザラメ山脈の崖地帯には、グリフィンが生息しています。魔物を従える従魔の首輪で従えられれば、グリフィンを乗りこなすこともできましょう」

「そういえば、東の高台にいるペガサスは捕まえなくていいのかな?」


 ダンジョンに入る前はそういう話をしていたのだ。ペガサスを捕まえれば、今後の移動が楽になるはずだった。

 ペコが渋面を作る。


「ペガサスはユニコーンやバイラコーンと違って、動物に近い空飛ぶ馬なんだよね。危険だと思えば、絶対に近寄らない。本当に単なる移動手段としてなら優秀なんだけど……もし、ブラックドラゴンとかと戦うために飛べる魔物が必要だってことなら……グリフィンが一番いいと思うよ。グリフィンならドラゴンに向かっていくだけの勇気もある。ペガサスは……ドラゴンの影を見ただけで逃げだすほど臆病なんだ」


「移動するための足として、空を飛ぶ魔物が欲しいのもある。別に……ブラックドラゴンとは戦わなくてもいい」

「魔王さえ、倒せればですね」


「クモコに馬車を曳かせれば疲れ知らずだよ。空を飛ぶ魔物には速度で敵わないけど、怪我をしても回復は早いし……クモコを恐れて余計な魔物も近づかないよ」

「では……クモコに繋げる馬車の手配をお願いします」


 アキヒコが頭を下げ、ロンディーニャが了解した。

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