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48 残り77日 勇者、平原の町陥落を知る

 勇者アキヒコ、魔術師ペコ、ドワーフのギンタを乗せたまま、クモコは白精霊の森をがさがさと疾走した。

 背中に何も載っていなければ、足音を立てることもなかっただろう。そもそも、地面を走ることもなかっただろう。


 3人を載せたままで、クモコは見事な健脚ぶりだった。

 木を避けて蛇行するので、ぶつかるのではないかと思える。アキヒコは悲鳴を飲み込んだ。

 脚だけを動かす虫族特有の走法により、クモコの背中はほとんど揺れることがなかった。

 帰りには捨てられた者たちの集落に出くわすこともなく、森を抜けた。


「ゴーヤと白精霊様は、どうしているだろう」

「今までどおりだと思うわ。探しに行っても見つからないでしょう。そういう森だもの」


 森を抜け、クモコに休憩を取らせ、アキヒコはペコに尋ねると、ペコは当然のことのように返した。


「ギンタは、僕たちと一緒に出てきてよかったのかい? 洞窟に鉱脈を探しに入ったんだろう?」

「目ぼしい鉱脈はなかったのう。まあ……アキヒコが勇者だというなら、もう少し付き合ってもいい」


 ギンタが真っ白になった髭を動かして笑う。ペコは当初、ギンタを警戒していた。捨てられた者たちの集落にたどり着けたのだ。普通のドワーフではないと感じていたようだ。

 だが、今は打ち解けている。


「ギンタがいれば、大型の魔物は安心ね」

「……ハンマーがあるしな」


 アキヒコは、ペコが何を意図して言ったのか、理解できなかった。


「違うわ。ギンタがいれば、まずギンタを食べようとするでしょ。その間に、対策がねれるもの」

「わしは囮か!」

「そんな上等なものじゃないわ。せいぜい生餌よ。でも、これまでずっとそうだったんでしょ? 毒ドワーフと呼ばれるほどなんだから」


 ペコの物言いは辛辣だったが、ギンタは堪えなかった。


「……ふん。毒を食らって欲しい相手にとって、美味そうでなければならんということじゃ。お前さんら痩せっぽっちには務まらんな」


 自ら言って笑ってみせた。

 その時、兵士らしい男が走ってきた。

 アキヒコは雷鳴の剣を抜く。


「また盗賊ですか?」


 白精霊の森に入る時、兵士たちが盗賊を扮して雷鳴の剣と火事場の盾、キャンプ道具一式を渡してくれた。

 アキヒコは覚えていた。同じ兵士だ。


「勇者アキヒコ……やったのですね」


 兵士は、アキヒコたちのだいぶ手前で立ち止まった。アキヒコの背後に、巨大なクモコが休んでいた。


「今日は、盗賊じゃないみたいね」


 魔術師ペコも笑った。だが、兵士はただアキヒコの戦果を確認に来たわけではなかった。


「アキヒコ殿、王の勅命です。至急王都にお戻りください」

「……カバデールのことかい?」


 アキヒコは、巨大な魔物に立ち向かう手段を手に入れるために、あえて洞窟に挑んだのだ。平原の町カバデールが救援を求めているのを知って、まずは力を蓄えるべしという王の判断に従った。


「はい。平原の町カバデールはすでに陥落しました。王は、これ以上の魔王の横暴を許してはならないとお考えです」

「当然ね。アキヒコ、急ぎましょう」

「ああ……魔王がそれほど……横暴なのか?」


 アキヒコには信じられなかった。魔王というのは、ハルヒなのだから。

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