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45 残り79日 魔王、歌い踊る

 翌日、さっそく商業ギルドから金貨100枚が納品された。

 魔王ハルヒは、紙幣や通貨を知っていても、カードや商品券を使っていても、金貨を見たことはなかった。


 初めて見る大量の金貨に、歌い踊った。

 それほど興奮したのである。もちろん、自室で、誰にも見られていないことを確認してからである。

 激しく踊り、金貨を讃える声高らかなハルヒの独唱が終わりかけた時、部屋の扉が開けられた。


「魔王様……失礼しました」


 慌てて出て行ったのは、元領主のヘルゴビッチ男爵だ。


「何? 問題ないわ」


 ミュージカル映画を思い出して適当に歌い踊った高揚感は霧散して、ハルヒは慌てて取り繕った。

 出ていきかけた男爵が戻る。ヘルゴビッチ男爵は、頭頂部のみに頭髪を残す小柄で脂ぎった中年である。

 統治者としての力量はわからないが、使用人達からは嫌われていたわけではない。


「商人ギルドの税を全て免除すると、魔王様が宣言された。そのような噂が出ていますが……」

「ええ。言ったわね」


 ハルヒは昨日、商人ギルドの税を免除し、その代わりにハルヒ個人に献金するよう指示したのだ。


「商人ギルドからの税収は、我が領地の全税収の2割を占めています。全体の税を、魔王様の命令ですでに2割に下げています。王都への納税もあります。このままでは、領地の経営がなりたちません」

「王都への納税なんて、あるわけないでしょ」


 ハルヒは呆れて言った。魔王が支配している町で、王都に税を収める必要はない。


「王都と戦争をする気ですか?」

「いずれね」


 男爵は口をぱくぱくと開閉させた。深呼吸をしてから、声として出した。


「一部の者だけ税を免除すれば、不満がでます」

「なら、他の人たちの税も免除すればいいわ」

「なっ……」


「私への見返りと私の支配する軍団への貢献によって、いくらでも免除してあげるわ」

「そんな……無茶苦茶な……」

「もしそれで、酷い町になりそうなら、別の手を考えるわ。男爵がしていたように、全てを戻してもいい。だけど、この町はもう私の町なのよ。私はしたいようにする。不満なら、私を殺しに来なさい」

「……失礼します」


 ヘルゴビッチ男爵が退出する。


「出て来なさいよ」


 ハルヒが天井に向かって呼びかけた。

 天井から、武器を持った精悍な若者が5人、ばらばらと降りて来た。


「男爵の指示?」

「我々の独断です」


 人間の兵士たちが答える。


「じゃあ、仕方ないわね。男爵の罪は問わないであげるわ。私は、この町の人間は誰も殺さずに占領した。当然、人間たちは私を殺すのは簡単かもしれないと思うわよね」

「軍隊の解体、税の引き下げは理解できる。しかし、商人ギルドの免税はやりすぎだ」


「そう? 商人ギルドが活発になれば、より経済が発達する。全体の税も、もっと下げても問題はないはずだけどね。それに……すぐに結果は出ないでしょうけど、食料の生産力が飛躍的に上がるわ」

「なぜそう言える?」


「あなた達が、とても貴重な労働力になるからよ」

「意味がわからない。魔王、討伐する」


 兵士が剣を振り上げ、飛びかかって来た。


「男に襲い掛かられるなんて、初めて……アキヒコは草食系だし……だと思っていたのにねぇ」


 ハルヒは言いながら、両手を打ち合わせた。

 ハルヒの魔力が、柏手で拡散する。

 その途端、5人の兵士が耳から血を流して倒れた。

 魔王ハルヒはネクロマンサーを呼び出す。


「労働力よ」

「魔王様……まだ息がありますが」


 魔王ハルヒは、ただ手を打ち鳴らした。それだけの挙動で、鍛えられた人間の兵士5人が倒された。現在では、床の上で痙攣している。まだ、辛うじて生きている。


「チェリーに絞めさせて」

「承知しました」


 森のクマさんなら、損傷も少なく息の根を止めるだろうとハルヒは想像した。

 ゴブリンの死体を糧にしたネクロマンサーも、すでにゴブリンの筋力ではないようだ。チェリーの名を呼びながら、5人の兵士を軽々と引きずっていく。


「意外と……何も感じないわね」


 ハルヒは、柏手を打った両手を見降ろした。魔王となって初めて、人間を死に追いやった。

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