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44/203

44 残り79日 勇者、ダンジョン最奥に達する

 天然の洞窟だった場所から、突然整備された石畳に変わる。

 人の手が入っているのだ。

 この先に、王家の宝がある。


「気をつけてよ。王家の宝って……手に入れたら魔王になれるんじゃないかって品よ。何重にも防護を施してあるはずだから」


 魔術師ペコが忠告を授けながら、勇者アキヒコの背に隠れる。


「複雑な罠か、強力な魔物が守っているのじゃろうて」


 ドワーフのギンタはハンマーを構えるが、及び腰である。


「ここだよね」


 アキヒコが立ち止まった場所には、丁寧に作り込まれた巨大な扉があった。


「間違いないじゃろう。どれ……」

「罠を感知する魔術があるわよ……遅かったわね」


 ドワーフの手のひらを、無数の針が突き刺していた。


「物騒な王家じゃな」

「手に入れたら魔王と同等の力を得るって言ったじゃないの……罠ぐらいあって当然よ。私も、回復魔術ぐらい使えるわよ」

「いいわい。かすり傷じゃ」


 ギンタがぶんぶんと手を降った。さすがに、自分を飲み込んだ白蛇を窮地に追いやる生命力である。突き出た数十本の針が手を貫通しているので、普通なら泣き叫ぶところだ。


「まだ罠があるかな?」

「私の行く手を阻むものを妨害せよ。アルソック」


 ペコが杖を振るうが何も起きない。


「……大丈夫よ」

「そうか」


 アキヒコは扉を押した。動かない。


「ペコ、扉が動かない」

「アキヒコ……これひょっとして、扉じゃなくて、扉の絵が書かれた壁だわ。人が入れないようにしたいのだもの。開く必要はないってことよ」

「王家の人……質が悪いな」

「じゃろ」


 アキヒコと意見があったことに、ギンタが笑った。


「よし。ギンタ、頼む」

「わしは歳じゃと言ったろう。ハンマーなら貸す」

「わかったよ」


 アキヒコが巨大なハンマーを振り上げ、扉が描かれた壁に叩きつけた。

 ハンマーが直撃した場所を中心に、亀裂が走る。

 アキヒコは再度振り上げ、振り下ろす。

 何度か繰り返し、立ちはだかる壁を破壊した。


「手が痛い」


 アキヒコがハンマーをギンタに返す。


「それだけで済んだのが驚きじゃ」

「アキヒコは本物の勇者なのよ」


 ペコが自慢げに、破壊された壁の向こう側に点火の魔術を灯す。

 小さな炎でも、十分に見えた。

 広い部屋の中央に、全く劣化したとは見えない、綺麗な青い動物用の首輪が置かれていた。


 アキヒコは壁を踏み越え、中に入った。

 下は滑らかな石の床だ。

 アキヒコが進むと、埃が舞い上がる。

 アキヒコは、王家の秘宝『従魔の首輪』を手に入れた。


「アキヒコ、この首輪があれば、どんなに強力な魔物でも一度屈服させれば、従わせることができるわ。もう魔王を恐ることはないわ」


 ペコの言葉に、アキヒコは渋面を作った。


「一度は、屈服させないといけないのか?」

「え、ええ……昔の資料によるとそうなるわね。でも、屈服させた魔物に首輪をつけると従えることができて、首輪を外しても効果は継続するから、複数の魔物を従えられるわ。やりすぎれば、魔物の軍団だってつくれるわよ」


 ペコがへへんと胸を張った。


「それでペコ……もし、ブラックドラゴンにまた会ったらどうする?」

「首輪があるじゃない」

「屈服させるのには、役に立たないんじゃろ?」


 アキヒコの気持ちをギンタが代弁した。


「……あっ……そうかもしれない」


 ペコは気づいていなかったらしい。


「ブラックドラゴンを倒せるぐらいまで、強くなれってことかな」

「うむ。よくぞ言った」


 ギンタが背中を叩いた。アキヒコは嬉しくなかった。ギンタは、王城の屋根で寝ていたブラックドラゴンを知らないのだ。


「でも、思いのほか守りが手薄ね。ここまで来れた人、本当にいなかったのかしら?」


 ペコは、首輪が置かれていた台座を調べていた。他には何もなさそうだ。

 アキヒコは何度も首輪を引っ張ってみた。千切れない。多分本物だ。そう信じるしかない。


「扉を開けられたのは、僕たちだけなんだろう。白精霊の森もあるし、一度入った、あの入口は直せないよ」


 アキヒコが入口の壁を破壊した。結果として、扉を開けて入る構造にはなっていなかった。


「そうじゃな。それに……ここまで来られた人はわしらだけかもしれんが……人でなければいるみたいじゃぞ」


 ギンタが言った。アキヒコの足元が濡れた。

 ギンタの声が消え入りそうだった。

 アキヒコが点火の魔術を使用する。


 巨大な炎に照らし出されたのは、ギンタの上半身までを飲み込もうとしていた、巨大な蜘蛛だった。アキヒコの足元を濡らしたのは、巨大蜘蛛の唾液だ。


「キャアァァァァ!」


 魔術師ペコが無意味に騒ぐ。


「こいつが守っているんだな」


 勇者アキヒコは首輪を懐に押し込み、雷鳴の剣を抜いた。ギンタとペコを抱え、最奥の部屋を脱出した。

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