40 残り81日 勇者、ダンジョンに潜る
ドワーフという種族は、鉱山に集落を作る地底の種族だと、魔術師ペコに説明された。
常に新しい鉱脈を探しており、各地に旅をする。
「この辺りは怪しい。まだ手付かずの鉱脈があると……わしは思ったわけじゃ」
洞窟に入りながら、ドワーフのギンタが言った。鉱脈を探すには、もともと露出している地層を探すか、採掘されていない洞窟に潜るのだという。
勇者アキヒコが洞窟に潜りに来たのだと言うと、ギンタは反論を許さず付いて来た。
「洞窟を見つけたところで、白い精霊様に食われたってことかい?」
アキヒコが尋ねると、ギンタは震えながら頷いた。
ギンタが身につけていた武器や鎧が、白い精霊が苦しんだ原因らしい。服も道具も溶かされていなかったが、ギンタの指は短くなり、鼻がなくなっていた。
欠損した肉体は、魔術師ペコの魔術が回復させたのだ。
「アキヒコ……こいつのこと、あまり信用しないほうがいいよ。ゴーヤの話を覚えているよね?」
「ああ」
白い精霊まで案内してくれたゴーヤという老人は、捨てられた者は集落まで迷わずたどり着けると言った。
「ドワーフ族からは捨てられた存在だったんじゃないかな。警戒しておいたほうがいいよ」
ペコが囁き、アキヒコも頷いた。
「わかった。僕たちはこの洞窟を奥まで潜るけど……ギンタはどうする?」
「んっ? もちろん一緒に行くぞ。洞窟の探索には、専門家が必要じゃろ。まあ……途中で希少な金属を見つければ、単独行動もするかもしれんが」
「そうか」
「途中で逸れても心配するなって」
「……うん」
魔術師ペコは、途中でギンタを置いて行くつもりだろうとアキヒコには感じられた。
相変わらず、アキヒコは地図をつくりながら慎重に進む。
明かりも、アキヒコが点火の魔法を小規模で維持する訓練のために行なっている。
魔術師ペコは慣れていたが、ギンタは一人で前に進みがちになった。鉱脈を探すためか、早く進みたいようだ。自分でも明かりをもっていたため、アキヒコから離れて前に出ていた。
消えた。
正確には、胴体までが埋まった。
「わひゃ」
ドワーフが消えたと思ったアキヒコが、明かりの位置を変える。ギンタの被っていた、兜というよりヘルメットに近い頭部を覆う金属が見えた。
次の瞬間に、本当に消えた。頭の先まで沈んだのだ。
アキヒコが覗き込む。下に空間ができていた。
大量の蜘蛛が蠢き、ギンタが蜘蛛に覆われていた。
「……うん。ギンタはいい鉱脈を見つけて単独行動に向かったみたいだね」
アキヒコと一緒に覗き込んでいたペコが、ギンタのことを諦めた。
「違うだろ。ペコ、蜘蛛嫌いなのか?」
「好きな人がいるの?」
「ギンタ、生きているか?」
ペコは嫌がっていたが、アキヒコはギンタを救出することにした。
「おう。げっ……手口に入って来る」
「毒蜘蛛かもしれない。動くなよ」
「……うむ」
「アキヒコ、どうするの?」
ペコが嫌そうに覗いていた頭を引っ込めた。
「チャッカマン」
ペコが頭を引っ込めたところで、アキヒコは点火の魔術を使用した。
地下空間が炎に包まれる。巨大な火を維持した。
「熱っっっっっっ!」
ギンタの声が叫びに変わったところで、魔術を消した。
「わしを殺す気か!」
蜘蛛の塊だったものが、ギンタの姿に変わる。蜘蛛が焼け死んだのだ。
「ギンタ、ほかに魔物か虫がいるか?」
「いや……おらん。じゃが、登れないぞ、これは……」
「そこからどこから続く道はあるのか? ただの穴じゃなく」
「……うむ。奥に向かっている道があるようじゃな。どこかには繋がっているじゃろう……風も吹いてくるのでな」
「あっ……よかった。じゃあ、どこかで合流しましょう」
ペコが言い、アキヒコが遮った。
「どうせ、どこかで虫に包まれる。もぐらなきゃならないなら、一緒の方がいいだろう」
「うう……やだなあ」
アキヒコがペコを抱きかかえ、ドワーフが消えた穴に飛び込んだ。




