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38 残り82日 勇者、白精霊を助ける

 勇者アキヒコと魔術師ペコは、薄い野菜のスープと毒ではないキノコのステーキで食事をした後、白髪の老人ゴーヤに連れられて白精霊の森を抜けた。

 ゴーヤは老人に見え、事実年老いているが、捨てられた者たちのなかでは、もっとも体力に恵まれていた。

 だから、病気になったという白い精霊の治療方法を探しに、里から離れたのだ。


「治療師様、この先です」


 木々の波が切れ、拓けた丘がある。目の前には木々があるが、茂みの先が見られる程度には近づいていた。

 昨晩里の者たちは、白い精霊が苦しんでいる場所の近くに洞窟の入り口があると教えてくれていた。たまたま、アキヒコの目的地の近くに白精霊がいたらしい。


「ゴーヤは来ないのか?」


 アキヒコが尋ねると、ゴーヤはびくりと震えた。


「白い精霊様に不用意に近づくと、喰われます」

「……私が召喚した小人もそう言っていたわ。どうして、そんなのに仕えるの?」


「白い精霊様のお力で、森に入る者は迷います。奥に入ろうとする者は迷い、出て行こうとするものは迷いません。捨てられた者は、真っ直ぐに里に来ます。その不思議な力が、私たちを守って来ました。その代わり、自分で動けなくなった者は、白い精霊様への供物として捧げます。うっかりすると、元気な者まで喰われますが……仕方のないことなのです。白い精霊様に、供物とそれ以外の区別はできません」

「不思議な力を持った魔物……っていうことか?」


 アキヒコはペコに尋ねた。


「そうでしょうね。でも、本当にあの里を守っているなら、神さまに近い存在かもね」


 言いながら、アキヒコとペコが木々の波を抜ける。

 拓けた場所は小さな丘となっており、さらに先に巨大な岩が重なって積み上がっていた。

 岩場の下に洞穴がある。どうやら、洞窟の入り口らしい。


 その前に、真っ白い大蛇が横倒しになっていた。

 胴体は人間を飲み込めるほどに太く、長さは30メートルを超える。

 まさしく魔獣と呼ぶべき巨体が、横たわっていた。

 白い頭部を持ち上げる。蛇にとっては鎌首である。


「これが白い精霊か?」

「間違いないわね」


 全身の鱗が白い。白いのは間違いない。精霊かどうかまで、アキヒコにはわからない。ペコは断定したが、根拠があるかは疑わしい。


「エルフがいるっていう噂はどうなった?」

「間違いだったんでしょ」


 噂とはそんなものかもしれない。ペコは悪びれない。間違っていたとしても、ペコの責任ではない。

 白い大蛇は、太い胴体の中程がぷっくりと膨らんでいた。


「……消化中か?」

「様子がおかしいわね。やっぱり、苦しんでいるみたいに見えるわ……あれを飲み込んで、消化できないでいるんじゃない?」


 ペコが、膨らんだ腹部を指差す。


「蛇だぞ。吐き出すのは簡単だろう?」

「……どうして?」


 アキヒコの蛇についての知識は、以前にいた世界での常識だ。蛇は自分の体より太いものを飲み込み、時間をかけて消化する。消化できないものは吐き出す。

 当然それができるはずだとは、アキヒコだけの常識なのかもしれない。


 もっとも、アキヒコの常識が正しかったとしても、飲み込んだものによっては、飲み込んだ蛇を殺すこともある。


「ペコ……魔術でどうにかできるか?」

「私に使った魔術を試してみて。これだけの大きさだと、私の魔力では効かないかもしれない」

「わかった……サイレンス」

「それじゃないわ。今頃音を消してどうするの?」


 アキヒコの魔術により、大蛇のたてる音が消えていた。


「すまない。ファブリーズ」

「わざとやっているの? 消臭して意味があるの?」

「仕方ないだろう。一度しか使っていないし……順番にやらないと思い出せなんだ」


「いいから、ほらっ」

「うんちになって出しちまえ。リフレッシュ」

「ちょっと、私はそんな下品な呪文は使わなかったわよ」

「いいだろ。どうせ気分なんだ」


 ペコがさらに言い返そうとした時、白い大蛇がのたうち始めた。


「どうしたんだ?」

「まずい。うんちにして出すより、吐き出させたほうがよかったみたい。二日酔いよ去れ。リバース」


 ペコが杖を振る。大蛇には届かない。


「アキヒコ、やって」

「わかった。ペコの料理はまずい。リバース」

「なんですって!」

「じょ、冗談だ」


 アキヒコが頭を下げる先で、大蛇が口を大きく開けた。

 吐き出す。

 腹まで送り込んだ食物を吐き出すのは、蛇にとっては苦痛でもない。


 大蛇は腹のものを吐き出し、鎌首を持ち上げた。

 すでに、先ほどまでの苦しんでいた様子はない。

 大蛇はアキヒコを見下ろし、何もせずに背を向けた。


「……アキヒコ、これ、生きているわ」


 大蛇が背を向けると、ペコが吐き出されたものを突いていた。


「蛇があんなに苦しむなんて……どんな動物だ?」

「動物かしら……でも確かに、こんなものを飲んだら、病気にもなるわね。武装したドワーフよ」

「……へぇ」


 大蛇の胃液に塗れていたのは、鉄の装備で全身を覆った、丸い体型の髭面の男だった。

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