37 残り83日 魔王、地形を知る
魔王ハルヒは、領主の屋敷で周辺の地図を見つけたため、現在の魔王勢力の中核をなす者たちを集めていた。
赤鬼ノエル、森のクマさんチェリー、ドレス兎コーデ、ゴーレムマスターテガ、ゴブリンのネクロマンサーである。
実際には、魔王軍の生き残りは動物もどきたちと鬼族の20人ほどしかいない。ゴーレムやゾンビに衣食住は必要ないため、全員領主の屋敷の敷地内で過ごしている。
「ここの地図の一番下が魔の山ね。私たちがいるガバデールがすぐ北にある……北でいいの?」
この世界に方位があるだろうか。惑星に磁力が生じているだろうか。
不安になったハルヒが問うと、磁石のことを誰も知らないことがわかった。ただ、北という方角の名称は使用されていた。
「ガバデールから少し北に行くと、海に面した町があるわね、文字は読めないけど……」
「港町ラーファというのを聞いたことがあるよ」
チェリーが毛深い腹を掻きながら答えた。
「近そうに見えるけど……これは山地かしら?」
ガバデールの北に、寝そべるように山と思われる模様がある。
「はい。山地です。越えることもできますが……険しい山地ですし、山頂付近には飛行できる魔物が多く住むため、人間たちは迂回します」
ノエルが、山脈を迂回するように大きく東に指を振ってなぞった。
「魔の山からガバデールまで3日として……ラーファまではどのぐらいなの?」
ノエルが指を折り始め、片手では足りなくなったところで断念した。ネクロマンサーなら数えられるかもしれないが、ハルヒより後にこの世界に召還された者の知識をあてにしないほうがいいだろう。
「……やっぱり、人間たちの知恵が必要ね。自力で地形を調べるにしても、情報を正確に伝えられなくては意味がないわ」
「呼んできますか?」
「いいえ。今はいいわ。どのみち、そんなにすぐに次の町を襲うつもりはないわ。ガバデールが安定して、私がいなくても、人間たちに奪い返されないと判断できるまでは動けない。領主の奴……町の軍隊やら自警団やら、ゴーレムがいるから全部解散して、その分の税金を下げろって言ったら、兵士が食えなくなるって文句を言ってきたのよ」
「人間の兵士を喰わせるために、人間から金を巻き上げるのは無駄ですな」
テガが頷いた。ゴーレムなら食事は必要ない。
「兵士だった人間の仕事をどうするかなんて……私に言われても知るはずがないのだから……いっそのこと税金を全てやめればいいって言ったら、町を維持できなくなるって言われたわ。税金がなくなると町が維持できないって……どういうこと?」
ハルヒは以前の世界でも一般人だ。統治の知識や経験はないし、漠然と税金は必要なものだと思っていても、実際どのように活用されているのかまでは知りようがない。
「……さあ?」
魔物たちも揃って首を捻った。
「ネクロマンサー、オークやゴブリンの死体には、ちゃんと働かせているの?」
「はい。テガ殿の力で鍬や鋤を作っていただき、これまで空き地だったところを開拓しています」
「これまで草も生えない痩せた土地だから、野菜の種を撒いても簡単には育たないでしょうけど……しばらくは続けさせて。消耗が激しいゾンビは死体に戻して土に混ぜなさい。死体が足りないなら……この国では全て土葬みたいだから、墓地に行けば埋まっているわ。それと……すべての死体の所有権は私にあるようにしたから、町で死んだ人間は、毎日死体として運ばれてくるはずよ。有効に使って」
「……ゾンビたちで軍隊は作らないのですか?」
ネクロマンサーが尋ねた。ハルヒは肩を竦める。
「戦がない時に、兵力を持っていても無駄でしょう。ゴーレムもゾンビも、いつでも戦わせられる。戦いに駆り出すのは命じるだけなんだから簡単だもの。問題は、戦いがない時どう利用するかよ。その意味では、人間も一緒だけどね。次にどこかを攻めるときは、町の人間を半分は連れて行くわ」
「当然ですな」
ノエルが同意した。
「それと……領主の報告だけだと信用できない。町の様子を見に行くから、私が人間に見えるよう、服装を用意して」
「魔王様が魔王様としか見られない理由は、服装じゃないんじゃないか?」
服についてはもっとも詳しいはずのドレス兎は、ハルヒに睨まれて駆け足で部屋を出て行った。




