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33/203

33 残り85日 魔王、町を攻める

 太陽が、天空の一番高い所に達した。

 平原の町カバデールから出てきた兵士たちは、すでに布陣している。

 中央に200もの騎馬の者たちが陣取り、背後と横に、その倍以上の徒歩の兵が並んでいる。


 昨日の斥候が言った市民兵というのが徒歩の者たちで、カバデール本来の兵力は騎馬隊200なのだろう。

 外敵が想定されていない町であれば、十分な戦力だと言える。


「……なるほど。さすが平原の町ね。主力が騎馬隊ですか。籠城して市街戦になると厄介だと思ったけど、その心配はなさそうね」


 ハルヒがユニコーンの背で、遠くカバデールを眺めた。


「これだけ堂々と戦力を見せたのです。兵の数だけであれば、町を犠牲にしなくても勝てる。そう思っているのでしょう」


 赤鬼ノエルが分析する。ユニコーンの背にまたがったハルヒと、頭の位置が変わらない。


「では、突撃。予定通りに」

「はっ。ゴーレムたち、進め」

「ゴブリン隊、オーク隊、ゴーレムに遅れるな!」


 整然と歩いて来たゴーレムたち100体が、腕を振り上げてダッシュしている。

 人間の肉を食い、血をすすることを楽しみにしていたゴブリン50頭とオーク50頭が続く。


「魔王様、本当に、おいらたちは行かなくていいのかい?」


 ノエルより頭一つ低い、森のクマさんチェリーが一族を代表して尋ねた。

 チェリーはクマ族だけでなく、森に住むトラやオオカミたちの代表でもある。魔物であり、いずれも二足歩行を可能にし、道具を持ち、話をする。


「いいのよ。私が呼ぶまで、ここで待機」


 言いながら、ハルヒはユニコーンを前に進ませた。周囲の部隊を停止させ、進むのは、ハルヒとユニコーンだけだった。上を見る。太陽の中に、黒い点がある。

 魔物が目の前に迫るも、人間たちの兵は動かなかった。


 途中で、矢の雨が降った。

 騎馬の人間たちは職業兵士だ。馬上から、遠く離れた位置を狙って矢を放った。

 致命傷を受けたゴブリンやオークが倒れていく。致命傷でなければ倒れない。


 ゴーレムに至っては、全て跳ね返している。

 矢を撃ち尽くした人間たちが、馬の腹を蹴るのが見えた。

 オークとゴブリンは、約半分が倒れた。

 人間たちと魔物たちの距離が一気に縮まる。


「やれ!」


 魔王ハルヒの怒号と共に、ゴーレムたちが土製の剣を抜き、立ち止まり、斬り伏せた。

 矢の雨を生き残ったゴブリンとオークが全滅する。

 立っているのは、ゴーレムたちだけだ。いずれも、ゴブリンとオークの血に濡れている。


 人間たちの馬が立ち止まり、ぶつかるも、ゴーレムは動かない。

 魔王ハルヒが、魔物たちの死体を踏み越えた。


「昨日の斥候に告げたわ。まず、100の死体を積み上げる」


 ハルヒは言った。100の死体が、誰の死体かとは言わなかった。人間たちは、ただハルヒを見つめた。何を言っているのかわからない。そう見えた。

 ハルヒは腕を高く上げた。魔法陣を生じさせる。


「さあ……お望みの死体よ。来なさい。ネクロマンサー」


 空に広がる巨大な魔法陣の中央に、黒い、小さな球が生じた。

 生じた後、落下する。ハルヒの目の前に落ち、黒い球が落ちた場所に立ち上がったものがいた。

 ゴブリンの死体だったものが、新たな生を得て立ち上がった。


「死者を全て従えられる?」

「お安い御用でございます。魔王陛下」


 呼び出されたネクロマンサーにより、99の魔物の死体が、99のゾンビ兵として立ち上がった。


「これは、おまけ」


 ハルヒが上げたままだった手で、下を指差す。

 同時に、天空から巨大な質量が落ちて来た。

 地響きを起こし、空を舞っていたブラックドラゴンが着地する。


「私はこうも言ったはずよ。従う者を虐げはしない」


 魔王ハルヒはユニコーンを進める。人間たちが道を開けた。

 逆らうことはできない。逆らってはいけない。そのことを、ハルヒは人間たちを誰も殺さずに刷り込んだ。人間たちは馬を下り、這いつくばって戦意を失った。


 魔王軍がカバデールの町を占領する。

 人間たちを1人も殺さず、魔王ハルヒは平原の町カバデールの主となった。

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