33 残り85日 魔王、町を攻める
太陽が、天空の一番高い所に達した。
平原の町カバデールから出てきた兵士たちは、すでに布陣している。
中央に200もの騎馬の者たちが陣取り、背後と横に、その倍以上の徒歩の兵が並んでいる。
昨日の斥候が言った市民兵というのが徒歩の者たちで、カバデール本来の兵力は騎馬隊200なのだろう。
外敵が想定されていない町であれば、十分な戦力だと言える。
「……なるほど。さすが平原の町ね。主力が騎馬隊ですか。籠城して市街戦になると厄介だと思ったけど、その心配はなさそうね」
ハルヒがユニコーンの背で、遠くカバデールを眺めた。
「これだけ堂々と戦力を見せたのです。兵の数だけであれば、町を犠牲にしなくても勝てる。そう思っているのでしょう」
赤鬼ノエルが分析する。ユニコーンの背にまたがったハルヒと、頭の位置が変わらない。
「では、突撃。予定通りに」
「はっ。ゴーレムたち、進め」
「ゴブリン隊、オーク隊、ゴーレムに遅れるな!」
整然と歩いて来たゴーレムたち100体が、腕を振り上げてダッシュしている。
人間の肉を食い、血をすすることを楽しみにしていたゴブリン50頭とオーク50頭が続く。
「魔王様、本当に、おいらたちは行かなくていいのかい?」
ノエルより頭一つ低い、森のクマさんチェリーが一族を代表して尋ねた。
チェリーはクマ族だけでなく、森に住むトラやオオカミたちの代表でもある。魔物であり、いずれも二足歩行を可能にし、道具を持ち、話をする。
「いいのよ。私が呼ぶまで、ここで待機」
言いながら、ハルヒはユニコーンを前に進ませた。周囲の部隊を停止させ、進むのは、ハルヒとユニコーンだけだった。上を見る。太陽の中に、黒い点がある。
魔物が目の前に迫るも、人間たちの兵は動かなかった。
途中で、矢の雨が降った。
騎馬の人間たちは職業兵士だ。馬上から、遠く離れた位置を狙って矢を放った。
致命傷を受けたゴブリンやオークが倒れていく。致命傷でなければ倒れない。
ゴーレムに至っては、全て跳ね返している。
矢を撃ち尽くした人間たちが、馬の腹を蹴るのが見えた。
オークとゴブリンは、約半分が倒れた。
人間たちと魔物たちの距離が一気に縮まる。
「やれ!」
魔王ハルヒの怒号と共に、ゴーレムたちが土製の剣を抜き、立ち止まり、斬り伏せた。
矢の雨を生き残ったゴブリンとオークが全滅する。
立っているのは、ゴーレムたちだけだ。いずれも、ゴブリンとオークの血に濡れている。
人間たちの馬が立ち止まり、ぶつかるも、ゴーレムは動かない。
魔王ハルヒが、魔物たちの死体を踏み越えた。
「昨日の斥候に告げたわ。まず、100の死体を積み上げる」
ハルヒは言った。100の死体が、誰の死体かとは言わなかった。人間たちは、ただハルヒを見つめた。何を言っているのかわからない。そう見えた。
ハルヒは腕を高く上げた。魔法陣を生じさせる。
「さあ……お望みの死体よ。来なさい。ネクロマンサー」
空に広がる巨大な魔法陣の中央に、黒い、小さな球が生じた。
生じた後、落下する。ハルヒの目の前に落ち、黒い球が落ちた場所に立ち上がったものがいた。
ゴブリンの死体だったものが、新たな生を得て立ち上がった。
「死者を全て従えられる?」
「お安い御用でございます。魔王陛下」
呼び出されたネクロマンサーにより、99の魔物の死体が、99のゾンビ兵として立ち上がった。
「これは、おまけ」
ハルヒが上げたままだった手で、下を指差す。
同時に、天空から巨大な質量が落ちて来た。
地響きを起こし、空を舞っていたブラックドラゴンが着地する。
「私はこうも言ったはずよ。従う者を虐げはしない」
魔王ハルヒはユニコーンを進める。人間たちが道を開けた。
逆らうことはできない。逆らってはいけない。そのことを、ハルヒは人間たちを誰も殺さずに刷り込んだ。人間たちは馬を下り、這いつくばって戦意を失った。
魔王軍がカバデールの町を占領する。
人間たちを1人も殺さず、魔王ハルヒは平原の町カバデールの主となった。




