32 残り85日 勇者、森で迷う
勇者アキヒコは、魔術師ペコの魔術で道を探した。
「導きの小人よ。私を導きなさい。オマワリサン」
魔術師ペコが杖を振ると、地面から小さな影が浮き上がった。小人だ。制服を来ている。敬礼をしている。
「……凄いな。小人の召喚かい?」
「一時的なものよ。大地の力を借りているらしいけど、詳しい理屈は知らないわ」
「とにかく案内してくれ。僕たちは、洞窟に行きたい」
「嫌であります。あの近くには、怖い聖霊がいるであります」
アキヒコが言うと、ぴしっと敬礼した小人は、はっきりと断った。
「勇ましいのは口調だけなのよね。迷わずにいける方法だけ教えてくれる?」
自分の魔術をさっそく諦めたペコが尋ねる。
「案内を雇うであります」
「……その案内を、君に頼んだんだけど」
「白い精霊を崇めている連中がいるであります」
「……なるほど。白い精霊っていうのが何か知らないけど……白い精霊に危害を加えられない奴が森の中に住んでいるから、そいつらに取り入れってことか」
魔術師ペコがふむふむと頷いた。
「で、その連中とはどうやって会うんだ?」
納得しているらしい魔術師に、勇者が尋ねた。
「……仕方ないわねぇ」
魔術師ペコが肩を竦める。
「いい魔術があるんだね?」
「もう一度、迷ってみる?」
ペコの魔術では解決できないようだ。
昨日盗賊と名乗る兵士と別れてから、ペコが制服姿の小人を呼び出すまで、ずっと迷っていたのだ。ペコには、白精霊の森を踏破する能力はないのだ。
「……それしかないならな」
勇者アキヒコは、平原の町カバデールの救援には参加しいなくていいと言われた。
急がなくてもいいのだ。
「あっ……それから……」
魔術は終わりだと思っていた2人に、小人が声を掛けた。
「どうしたの? 何か思い出した?」
「白い精霊を崇めている連中も、白い精霊には食われるであります」
言うだけ言うと、オマワリサンの魔術で呼び出された小人は、土に沈むように消えた。
※
勇者アキヒコと魔術師ペコは再び、白精霊の森で迷い出した。
「この森には、エルフがいるんだろう? 白い精霊っていうのが、エルフのことじゃないのかい?」
「違うでしょ。崇めている奴っていうのが、カエルとかカブトムシだっていうのならそうなのかもしれないわね。白い精霊が食べちゃうっていうのならね。でも……カエルとかカブトムシと、どうやって話をするのよ」
「そこは……魔術で……」
「そんなに便利じゃないってことは、身にしみているでしょう?」
「そうだな……どうして兵士の皆さん……じゃなかった。盗賊は、魔術師に頼れって言ったんだろう」
「魔術のことを知らないから、適当に言ったんじゃないかな」
「なら、せめて帰ることはできそうかい?」
勇者アキヒコが背後を振り返る。
「……無理かもね」
「最悪だな」
「まあ……かなり深くまで来ているよ。白精霊の森をこんなに深くまで潜ったのは、私たちだけじゃないかな」
「王家の宝を隠した人たちはどうしたんだい? 森の一番奥の、洞窟に隠したんだろう?」
「宝を隠してから森ができたのかも」
「あれっ……ペコ、どうしたんだい? どうして寝ているんだ?」
後ろにいたペコの声が小さくなった。アキヒコが振り返ると、ペコは木の根元に倒れていた。
「……これ、毒だったみたい」
ペコは、紫色のキノコを指でつまみ上げた。




