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28 残り87日 勇者、ダンジョン行きを命じられる

 勇者アキヒコは、改めて王と謁見していた。

 王の隣にロンディーニャ姫がおり、アキヒコのやや後ろに魔術師のペコが控えていた。


「勇者アキヒコ、この度は大義じゃったんじゃもん」

「僕は……何もしていません。何もできませんでした」


「剣聖サルモネラが死んだのは、アキヒコの責任じゃないんじゃもん。移動手段としてブラックドラゴンをあげたのは、サルモネラじゃもん」

「大人しく見えましたが……やはり、ドラゴンを手なづけるのは無理というものですか……」


 謁見の間は広い。脇に控えていた文官らしい初老の男のつぶやきが、妙に響いた。


「サルモネラのことはアキヒコのせいではない。結果としてドラゴンを追い払い、姫を助け出したんじゃもん。アキヒコにはこの勢いで、次の任務に向かってもらわなければならないのじゃもん」

「平原の町カバデールですね」


 王都から一月の距離にある平原の町カバデールから、救援を求める狼煙が上がった。

 王はそう言ってアキヒコに先遣隊として向かうよう指示し、ブラックドラゴンを従えて乗用にしようとしたところ、失敗したのだ。


「いや……それはもういいんじゃもん」

「いいとは……どういうことでしょうか?」

「軍隊を送るんじゃもん。向こうに着くのは、行進しながら行くから二ヶ月後ぐらいになるんじゃもん。救援が間に合わないかもしれないけど……仕方ないんじゃもん」


「……しかし……魔王がいるかもしれません」

「ブラックドラゴンが飛んで行った先にいるのも、魔王かもしれないんじゃもん」


 アキヒコの問いかけに、王はさらに深刻な顔で答えた。丸い顔が、かげっているように見える。


「ブラックドラゴンは南に飛び去りました。勇者アキヒコの足を止めるために、魔王はブラックドラゴンを王都に向かわしたのかもしれません。私をさらったのも、そのためではないでしょうか」


 ロンディーニャ姫の言葉はまさに正解だったが、それを知る者はいない。


「では……魔王はブラックドラゴンを従えているということでしょうか」


 アキヒコは、魔王の正体を知っている。いくらなんでも、アキヒコが手も足も出せなかったブラックドラゴンを従えているとは思いたくなかったが、事実かもしれないのだ。


「たとえ平原の町カバデールの全町民が死ぬことになろうとも、最後に魔王を打てれば勝ちなんじゃもん。カバデールには救援の軍を送るんじゃもん。ただ、勇者じゃないだけなんじゃもん。その代わり……勇者には東の洞窟に向かってもらうんじゃもん」


「東の洞窟というのは、ダンジョンですよね。アキヒコが役に立たないから、ダンジョンに潜って鍛え直せってことですか?」


 ずっと黙っていたペコが、口調も荒く口を挟んだ。


「それもあるんじゃもん。だけど……魔物を従えるから魔王なんじゃもん。その中には、ブラックドラゴンも含むってのが、宮廷魔術師の意見なんじゃもん」

「じゃあ……魔王なんて倒せないってことじゃないですか」


 語気を荒げたペコを振り向き、アキヒコは黙るように合図を送る。まだ、王は全てを話していない。


「魔王の出現を阻むため、我が国の家宝を貸し出すのじゃもん。魔物と主従の関係を結べる『従魔の首輪』……それが東の洞窟の奥に封印されているんじゃもん。手に入れれば、魔王になれるかもしれないほどの秘宝なんじゃもん。そんな危険なものでも……ご先祖様の宝だから、廃棄できなかったんじゃもん。勇者アキヒコなら、役に立てられるはずなんじゃもん」


「それがあれば……ブラックドラゴンも従えられると……」

「昔の王家の宝に、どれほどの力があるのかはわかりません」


 ロンディーニャ姫は現実的だった。


「しかし、姫がまた襲われるかも……」

「それは大丈夫です。私はもう、一人ではありませんから」


 ロンディーニャが下腹を抑えるのを、アキヒコは直視できなかった。


「ロンディーニャを一人にはしないんじゃもん」


 王は、まだ姫の体のことを知らないらしい。


「私は大丈夫。だから……魔術師ペコ、勇者アキヒコをお願いしますね」


 ロンディーニャの言葉に、魔術師ペコは小さく頷いた。

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