27 残り88日 魔王、乗馬を求める
平原の町カバデールへは、上半身が人型の魔物ハーピーに手紙を持たせた。魔の山に群れがあるが、現在魔王ハルヒに従っているのは一頭だけだ。いずれ、群れを支配下に置く必要もあるだろう。
飛行可能な魔物にとって、カバデールは遠くない。すでに戦争の準備を始めているはずだ。
魔王ハルヒの周囲の魔物たちは、戦をするならカバデールの南に面する平地での戦いになるだろうと推測した。
その通りになるなら。徒歩で3日の場所である。
魔の山に住む魔物たちに進撃の号令をかけた。
応じたのは、好戦的で人間を嫌っているか、人間を食料と考えている魔物たちがほとんどだ。
そのほかには、魔王ハルヒへの忠義から参加してくれる森のクマさんたちや鬼族も含む。ただし、魔王軍の編成の大多数は、オークやゴブリンといった人間を食料だと考えている魔物たちが占めている。
魔の山はさまざまな魔物が住むため、一種族の群れは大きくなかった。
分散しているために号令に気づかない魔物たちもいるはずだ。
参加した魔物たちの実際の数は、豚かイノシシの頭部にたくましい人型の肉体を持つオークが50体、緑小鬼と呼ばれるやせ細った人間の子どものようなゴブリンが50体で。団体の中核を占める。
鬼族や森のクマさんたちはそれぞれ10体程度しか参加せず、魔女は魔の山に1人しかいないため留守番だ。
結局最大の戦力は、すでに70体にまで増えたゴーレム兵だ。
外見は全身土色の人間に見える。ただし表情はなく、移動中に足以外の部位は動かない。
平原の町カバデールに、開戦するとして指定した日は3日後になる。
戦場と想定された場所に魔物たちを到着させるのためには、すでに進撃を開始していなければならない。
ゴーレムマスターのテガは、毎日移動しながら兵の生成を行なっており、戦端が開かれる時にはゴーレム兵は100体になっているはずだった。
「私も歩いて行くの?」
「ドラゴンに戻るように言えばいいじゃないか」
小動物系の魔物の中で唯一参加していたドレス兎のコーデが答えた。
魔王ハルヒは背後の山を振り向いた。
魔王の城は、魔の山の頂上にある。ハルヒは山の北側に来ていた。
だいぶ下った。
平地が視界に入っている。その位置で、ハルヒは考えた。
長時間の移動になるため、水盆は置いて来た。魔術に対する知賢を頼りにしていた魔女も同行していない。
ブラックドラゴンは、もともと魔の山に住み着いていた魔物ではない。
魔王としてハルヒが降臨し、一体は強い魔物が必要だろうと召喚したのだ。
召喚主であるハルヒの命令には従う。だが、遠くにいる場合に連絡を取る手段がない。
「ほかに野良のドラゴンはいないのかしら?」
「グリーンドラゴンなら、探せば森の中にいるかもしれません。探しますか? ただ、あれは巨大なトカゲに近いため、翼があっても空は飛べません」
ハルヒが立ち止まったため、枝を払いながら歩いていた赤鬼族のノエルも足を止めていた。
「足は早いの?」
「足は早いですが、長時間はもちません」
「……私が乗るためとしては、意味がないわね。それなら、馬の方がいいけど……森にはいないか……」
ハルヒが知る限り、森で暮らす馬がいるとは思えなかった。
「いるぜ」
森の中のことについては人とは違う視点を持つコーデが言った。視点が低い。人間の足元ぐらいの位置からしか見たことがないほどだ。
「いるのか?」
魔の山に住んでいたはずのノエルも首を傾げる。
「バイラコーンって言ったかな……普通の馬より力があって疲れにくいらしいぜ。その上、角がある」
「……ほう」
赤鬼族のノエルが、やや誇らしげに自分の角を撫でた。角があることを特別視した言い方が気に入ったらしい。
「コーデ、どの辺りに住んでいるか知っているの?」
「以前見たのは……ちょうど、おいらたちがいるこの辺りだと思いますぜ」
「いいわね。なら、私はそれを探すわ。魔王が徒歩で戦場にいくのでは、格好がつかないものね。ノエル、全軍の指揮権を譲るわ。バイラコーンを捕まえてから追いつくから、それまで魔物たちを町の手前まで進めておいて。コーデ、付き合いなさい」
「承知いたしました」「任せろ」
ノエルとコーデの声が重なった。




