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22 残り90日 勇者、見つける

 勇者アキヒコは、王城の地下水路を探索している間に、魔術師ペコから水を生み出す魔術を教えてもらった。

 水ならいたるところにあるが、衛生上の問題でアキヒコは飲みたくなかった。

 魔術師ペコに詠唱を教わり、試してみた。


「ジャグチヒネリ」


 アキヒコが詠唱すると、大量の水が発生して目の前のスライムが流された。


「……うん。アキヒコはきっと、魔法の適正がとても高くて、代わりに才能がないんだよ。だから、コントロールができないんじゃないかな」

「練習するよ。使い方がわかれば、役に立ちそうだ」

「水筒に水を出すたびにずぶ濡れになっていたら風邪を引いちゃうから、今度は誰もいないところでやってよね」


 水を被ったペコがローブを脱いで水を絞った。

 アキヒコは点火の魔術でペコを温める。

 水の魔術の詠唱者だったアキヒコ自身は濡れていなかった。


「点火の魔術師上手いね……アキヒコ、あっちを照らしてみて」


 突然、ペコが一方を指差した。

 長い水路が続く場所である。

 いい加減、地図も作り終わるのではないかと思うほどの範囲が埋まっていた。


 点火の魔術は、点火した炎は動かせないが、点火する位置は術師が指定できる。

 大抵は自分の位置から遠くには点火できないし、その必要もないのだが、アキヒコに至っては数十メートル先にまで点火させることができると確認している。

 アキヒコが水路の先に点火させると、炎が生じた近くの壁が崩れているのが見えた。


「ただ壁が壊れているだけだろう?」

「かもしれないけど、なにかが動いたような気がしたの」

「……行ってみよう」


 アキヒコが剣を抜き、生じさせた大きな炎を維持したまま近づく。

 背後でペコがローブを着たのがわかった。まだ乾いていないのだろう。小さく悲鳴をあげていた。

 前方の炎を消す。


 カンテラで照らした。

 壁が崩れただけではなく、その先が洞窟のようになっている。

 アキヒコは意を決して、崩れた壁に開いた洞窟に踏み込んだ。


「キャ!」


 鋭い悲鳴が聞こえた。洞窟は真っ直ぐに伸び、突き当たりでさらに広い空間になっているようだ。

 声は洞窟の奥から聞こえた。


「誰かいるのか?」

「来ないで!」


 間違いない。ロンディーニャの声だ。


「アキヒコです。無事なんですか?」

「あなたには会えない。誰か、誰か他にいないの?」

「姫さま、ペコです」


 アキヒコの背後から、魔術師ペコが身を乗り出した。


「ああ……ペコ、アキヒコを遠ざけて。決して近づいてはいけないわ」

「……はい。アキヒコ、聞こえていたわね?」

「ペコ、危険じゃないか? 姫さまの声を真似した魔物かもしれない」


 アキヒコより前に出ようとしていたペコの腕をとる。


「その時は、姫さまは死んでいることになるでしょ。どっちみち、ただでは帰れないわ」


 ペコがアキヒコの手を振り払う。アキヒコはこの世界のことを知らない。ペコの言う通りなのかもしれない。アキヒコは手を離した。


「姫さま……なにがあったのですか? アキヒコが何かしでかしたのですか?」


 ペコが駆け寄っていく。拒絶されたアキヒコは、見守るしかなかった。


「わかりません。突然さらわれ、気がつくとここにいたのです」

「この四角い箱はなんですか?」

「わかりません。気味が悪いので開けていません。寝て起きると、この箱の上に食べ物が置いてあるのです。食料が飛び出るマジックアイテムかもしれません」


 人間が横になって入れるサイズの長方形の箱は、吸血鬼の眠る棺ではないのだろか。ロンディーニャは早寝早起きなので、吸血鬼とは顔を合わせていないのだろうか。

 アキヒコは思ったが、ロンディーニャを怖がらせることはない。黙っていることにしたが、やはり気になった。


「姫さま……俺に近づくなというのは……やはり……」


 ロンディーニャ姫は、吸血鬼に噛まれて魔物となってしまったのか。アキヒコは言葉を濁す。ロンディーニャは観念したようにうなだれた。


「ああ……アキヒコは気づいてしまうのですね」

「姫さま、アキヒコに近づくなと言ったのはやはり……」


 ペコがロンディーニャの手をとった。ロンディーニャは、アキヒコの子どもを宿していると、ペコの魔術が告げている。ペコは、姫が妊娠に衝撃を受けていると思ったようだ。


「3日もお風呂に入っていないのよ。臭い女って思われたくないじゃない」


 どうやら、本人は気づいていないようだった。

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